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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ポテトサラダぐらい作ったらどうだ

 孤食は鬱や病気のリスクが上がるらしい。特に高齢者は、よりリスクが高いという。


「お父さん、元気?」


 久々に実家へ向かう。父は一人暮らしだった。母は一年前に他界し、年金暮らし。今は一応元気だが、パートナーを亡くした男は長生きしないというデータもあるらしい。そんな父が心配になり、たまに実家に帰っていた。


 私は主婦だ。三人の娘を育てており、そう暇でもない。幸い、実家は車で十分ほどの場所にあるので、顔を出す事ができるのだが。


「元気じゃねぇよ」

「はあ?」


 久々に会った父は、かなり不機嫌そうだった。亭主関白タイプで元々不機嫌である事も多いが。孤食の悪い影響でも出ているのだろうか。


「どういう事?」


 なんか嫌な予感がする。目が泳いだと思ったら、キッチンの方を見ている。


 急いでキッチンへ行くと、酷い状態だった。流しには汚れた鍋やフライパン、包丁、まな板が積み重なり、変な匂いもする。生ゴミの匂いだろうか。鼻をつまみながら、ゴミ箱を見ると、ポテトサラダが捨ててあった。じゃがいもやニンジンの皮などもあるが、切り方が下手でとても汚い。


「もしかして、自炊でもしようと思った?」


 父をキッチンに呼び寄せ、問い詰める。叱られた子供のように落ち込んでいて、どっちが親か分からない。


「母さんが作ったポテトサラダが食べたくなってさ」

「へえ……」


 つい苦い顔をしてしまう。


 父は母の料理によく文句をつけていたのを思い出してしまった。たまに惣菜を出すと明らかに不機嫌になる。特に惣菜のポテトサラダが出た時は酷かった。「ポテトサラダぐらい作ったらどうだ」なんて言ってたっけ。


 母も意外と負けず嫌いで、手作りのポテトサラダを出していた。確かに母が作ったポテトサラダは、なめらかな口当たりで美味しかった。マヨネーズも手作りしてたからだろうか。私も再現したいと思い、母にレシピを聞こうと思ったが「企業秘密」と言って教えてくれなかった。


「知らなかったよ。ポテトサラダがあんな手間がかかる料理なんてさ」

「そうよ。じゃがいもの皮を剥くところから面倒」

「しかも出来上がりは、べちゃべちゃするし。何だ、この料理は」

「ポテトサラダぐらい作ったらどう?」


 ここでこの台詞を言うのは、我ながら性格が悪いと思ったが、我慢出来なかった。これほどのブーメランは無いだろう。


「ポテトサラダのじゃがいもは、茹でないで蒸す感じがいいよ。茹ですぎると水っぽくなる」

「そっか……」

「まあ、とりあえずキッチン片付けよう」


 父と二人で汚れたキッチンを片付ける。両親と一緒に食事をする事は、もう無いんだよなぁなどと感じながら。


 今思うとその時間は、贅沢だった。今も家族の食事に四苦八苦しながら、しみじみ思う。


「さあ、お父さん。片付け終わったら、スーパー行ってポテトサラダの材料買おう」

「お、リベンジか?」

「うん。お母さんみたいなものは無理だけど、私達で美味しいポテトサラダ作ろう」


 新しい目標が決まった。


 母のポテトサラダを食べるのは難しいが、新しい味は見つけられるかもしれない。

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