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誰かとごはんを食べたくなる物語  作者: 地野千塩


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ヤンソンさんの誘惑

 夜中にうっかり料理研究家の動画を見てしまった。動画サイトを適当に見ていたら、オススメとして流れてきたらしい。


 ネットで人気の料理研究家だ。添加物入り調味料をよく使っているので叩かれたりしているようだが、俺のような独身・一人暮らしだとこの研究家のレシピは手軽で良い。自分と歳が同じぐらいのアラサー男性というのも良い。これが主婦向けの女性料理研究家だったら、敷居が高すぎて興味が持てないだろう。動画にあるキッチンや作業台も独身男性の家っぽくて親近感が持てる。


「今日はヤンソンさんの誘惑という料理を作ります」


 変な名前の料理だ。この料理研究家が独自に作ったものかと思ったが、スウェーデン料理らしい。名前の由来も諸説あるそうだ。宗教家で菜食主義のヤンソンさんでも我慢できない味だったとか、オペラ歌手の名前からとっているとか。


 肝心の料理は、アンチョビ風ポテトグラタン。切ったじゃがいもと玉ねぎを炒め、牛乳、生クリーム、アンチョビ、チーズとともにオーブンで焼く料理だ。見たところ、そう難しい料理でもないようだ。むしろ普通のグラタンより簡単かもしれない。


 出来上がったヤンソンさんの誘惑は、大きな耐熱皿に入っていた。表面は綺麗に焦げ、良い色合いだ。淵の方はカリカリしてる。動画越しでもチーズの焦げる香りが漂ってきそう。とろっとしたクリーム、アンチョビの塩辛さ、ホクホクと柔らかなじゃがいもの味も簡単に想像できてしまう。


 唾をゴクリと飲む。夜中に見ていい動画ではない。腹が減る。実際、ぐーっという音が響いているではないか。


 明らかにこの料理に誘惑されている。今すぐに作りたいものだが、材料は四人分だった。


「この料理はみんなと一緒に食べて欲しいね。まあ、一人でも良いけどさ、あなたも会いたい人とかいるんじゃない?」


 料理研究家はそう言っている。


 偶然にも時期はクリスマスに近い。頭の中で会いたい人を思い浮かべる。そういえば、最近実家にも帰ってない。九十歳に近い祖母の顔が急に見たくなってしまった。


「では、ヤンソンさんの誘惑を美味しく召し上がれ」


 今年のクリスマスは実家に帰っても良いかもしれない。


 誰かとご飯を食べたくなった。


 この誘惑には、少しも勝てそうにない。

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