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1.ベッドの中で考える

 頭が痛い。今の俺には、幾つかの記憶がある。今、このレアンナル王国で生きている俺と、白い壁の部屋にいる俺だ。

 当然、今安物のベットの中で悶々と考えているレアンナル王国の俺が本物だ。いや、どうなんだろう?ともかく、その二人の俺の記憶があることに間違いはない。

 ニホンで生活していた俺は、この今の俺の力を引き継いでいるようで、奴は――ええい、面倒くさい。とりあえず俺2と呼ぶことにしよう。そう、俺2はニホンでも魔法が使えたようだ。この世界の俺は、大した魔力を持っていないヒエラルキー的に最下層に居る存在だ。だがニホンには、そもそも魔法がない。いや、その世界自体に魔法がなかったのだ。だから俺2は、魔法を利用して大金を得ることに成功したらしい。何でも動画配信サイトと言うものを利用したようだが、正直なんで魔法で金が稼げるのか、俺にはピンと来ていない。俺2から受け取ったそれなりの記憶があるが、実感が全くないのだから仕方がないと言うことにしておいてほしい。

 それで俺2は、その世界で兵器とやらを購入した。それまでの過程には色々あったようだが、それが手元に入ることが俺2の最終目的なのだからそこは割愛しておく。あまり良い記憶じゃない。

 この能力は、その世界の物体をこの俺に届けることが出来る、らしい。何でも、俺2の魂とその届けるものが"異世界行き"の扉を一緒に潜り抜けることが出来れば良いようだ。

 俺2はこの世界で言う<<ワープゲート>>のような要領で"異世界行き"の扉を呼び出すことが可能なようだ……俺より優秀じゃね?俺の方が俺2と名乗ったほうが良いのか?

 そうして今、俺はあの白い壁の部屋に俺2が居るのを感じている。こう聞けばすぐにでも、異世界に行けよ、と言われるかもしれない。だが、この能力は使う度に俺の生命力を奪っていく。俺2が二回目に訪れた世界は、この世界よりも遥かに魔法や機械技術が発達しており、そこで俺2はへまをやらかして殺された。

 俺が学校を休んでベットの中で蹲っているのもそのせいだ。俺2が殺されても白い壁の部屋に戻っては来れるようだが、俺の生命力は一気に底近くまで尽きた。今の俺には両手両足を動かせるほどの力も残ってはいない。命があっただけましだろう。更に記憶が頭の中に入ってくるのだから……あの機械と魔法を組み合わせた兵器に腹を貫かれた感触がまだ忘れられない。

 だが、それが何だと言うんだ。俺はこれまでそれ以上の屈辱を受けてきたんだ。教室で同級生に奴隷のように使われ、先生は俺をいないものとして扱い、部活動中の生徒から実験に使われる。

 死ぬより生きていたほうがマシ?そんなハズがない。だがまだ俺が生きているのは――

 ただ、もう今日はこれ以上この能力は使わない方がいいだろう。流石に死んでしまう。

 絶対に見返してやる。俺はそう誓いながら目を閉じた。



「おーっと、70てーん。悪くはないが、いまいちだなー」

 ゲラゲラと嗤うやつらに、俺は一言も返すことが出来なかった。腹が痛い。魔法への抵抗がある防具を身に付けさせられているとはいえ、それは完全に衝撃を殺すものではない。70点と言ったやつが放った<<アースアロー>>は、防具に70と書かれた部位に命中したのだ。

 腹の物が出そうになる。嘔吐感に思わず手で口を押さえると、嗤っていたやつらが急にその哄笑を止めて近づいてきた。

「おい!絶対に吐くなよ!この部室の床はなぁ、お前よりも価値があるんだからな!」

 俺は喉を鳴らして、何とかせり上がって来ていた嘔吐物を飲み下す。

 喉が酸で焼ける熱い痛みがする。

「お、頑張ったなぁ!ほんじゃつぎぃ~」

「ま、待って。これ以上されたら、出てしまいますから」

「はーん?自分のことは、自分で何とかしろよ。ほらほら、立って立って。次が待ってるから、な?昨日な、みんなお前が来なくてさびしかったんだよ。分かるよな?」

「そんな……」

 何とか立ち上がった俺の腹部に、再び重い衝撃が伝わる。70点。奴らは再び笑いながらそう言った。

 50点、40点、70点、20点。

 奴らは何度も点数を口に出す。俺の体を使って、競い合っている。

 俺は、自分の中で何かが切れる音を聞いた。恐らく昨日までの俺なら、そんな音は鳴らなかっただろう。

 だが今の俺には、鳴らせる音がある。

 頼む、白い部屋の俺2。向かう先の異世界で俺2がまたへまをやらかして殺されれば、弱った俺の体では命が危ないかもしれない。

 だが、それが何だって言うんだ?今の俺は、生きてるって言えるのか?ただ死んでないだけだろう?

 俺2が"異世界行き"の扉をくぐる。その先に待っていたのは。

 巨大な魔物の、足だった。


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