三十路共の戯れ5
前回の三十路共の戯れ1・2・3・1.5・4は上記短編からどうぞ。
下ネタ多めですので、苦手な方はブラウザバックお願いします。
「ぁっ、ん、…ゃだぁっ、」
揺さぶられ過ぎて抜けてしまいそうな腰。支えられている分、幾ばくか楽なはずの体勢も、もはや力が入らずにシンジョウはされるがままとなっていた。
「も、むりっ、はぁっ、しんじゃう…ッ」
上下に揺れる度に痛みに耐える息は荒く、瞳には涙が溜まり今にも零れ落ちそうで。背後から腕を回し、シンジョウを支えるゼロックスは、赤面する顔を押さえ大きく息を吸い込むと、
「…ッ妙な言い方を、するな!」
「あうち!」
ゼロさんに後頭部をはたかれたでごさる。ぺしーん!って。我ながらいい音が鳴った。だって、冗談でも言わないとやってられないんだよ!
「腹と腰と内ももの筋肉はご臨終です…次回の活躍にご期待ください…っ!」
乗馬、恐ろしい子…!普段使わない筋肉フル活用だよ。一ヵ月毎日乗ったら絶対痩せる。ロデオマシンが流行ったのも頷けるぜ。
早朝、ブラックキング号みたいな馬君を、ゼロさんが連れてきた。わーいお馬さん可愛い、異世界の馬、凄いでっかい。カッコいい!輓馬かよ!ってはしゃぎまわった後、一人で何とか乗り込むまでは良かったんだけれど。(これで5分ぐらい頑張ったからね。)
いざゼロさんと相乗りして出発したら、一時間もたたずにお腹が痛くなりはじめるわ、内ももが擦れて痛いわで戦慄したよね。…え、これ、夕方までかかるって言ってたよね?ってさ。
「これ絶対三日は歩けないよ…、筋肉痛その他で。」
背後のゼロさんに、ぐったりもたれ掛かって嘆く。ナイス安定感!まぁね、今までデスクワークばかりで、ウォーキング程度の運動しかしてないからね。くそぅ、股関節、馬鹿になりそう。
「…はぁ、だから横を向いて座れ、と言っただろう。」
ゼロさんの溜息が、耳元で凄く重く聞こえるぜ!左耳がくすぐったい。この状態で落ちないの、ゼロさんが抱え込んでくれてるお陰ですからね。圧倒的感謝。
「跨がった方がカッコイイじゃん!などと、軽率に思いまして。」
不甲斐なさで申し訳ないと思いつつ、つい、言い訳をしてしまう。折角だから前に乗ってみるか。と乗って、折角ついでに跨がった。いや、こんな機会なかなか無いと思って。でも、凄い開脚して乗るんだよね。
大きなこの馬…ジジ君は、二人用の鞍もつけられて、大人二人でも余裕だ、と紹介された。サイズ感にテンション上がりすぎて、調子にのりもうした。申し訳なし。
「ごめんなさい。」
うむ。これは反省案件ですよ。楽しかったのは最初だけで、保護者の言うことを聞かなかった罰が当たったようだ。…罰あててくるの、アルたんかな?痛みに耐えつつ謝罪すると、歩いてたジジ君が止まった。
「うん?…わっ、」
降りたゼロさんが何か鞍に取り付けると、ひょい、と馬上で持ち上げられて、後ろの鞍へ横向きに座り直させられた。び、吃驚した!ただでさえ高いのに、更に上がるから。
「右脚は上に乗せて、左脚はへこみにあてろ。…どうだ?」
「おぉお、確かに内股擦れなくて楽。」
なんだこの支え。感動していたら、ゼロさんにぽんぽん頭を撫でられた。…なでポは効かぬぞ?軽く前の鞍に乗り込んで、ゆるゆる歩き出したジジ君に、体勢が変わったけど、脚で支えを挟み込んでる分安定感が増した。や、さっきの方が安定するけど、痛すぎて姿勢崩れていたしね。
「走らせても平気か?」
「大丈夫です隊長!ちゃんと掴まった!」
よい子のお返事!前方はゼロさん大きすぎて何も見えないけど、腰に手を回してしっかり掴む。ゼロさんの厚み凄くて回りきってないけどね!でもやらかしたばっかりだし、言い付けまもるよ!
「んん゛っ…、走らせるから口を閉じていろ。」
「了解しました!」
返事をするや、颯爽と走り出したジジ君から、ご機嫌な雰囲気が感じ取れる。おぉ、ごめんよ私の所為で。フラストレーション溜まったのかな。
凄く揺れるけどまだ我慢できる。たまに跳ねる様に駆けるから、腰が悲鳴を上げるけど、ゼロさんにしがみついてなんとか我慢した。
「ゼロしゃん…降りられない…たす、…たすけて…。」
太陽が真上に来る頃、休憩予定地にたどり着いたは良いけれど、満身創痍で今度はジジ君から降りられなくなった。最早半泣きである。すまぬ…すまぬ…。
「…ふ、」
「憐れまれてるぅ~。」
両手をゼロさんに伸ばして、抱っこアピールをしたら、なんだか可哀想な者を見る目で笑われたなう。こんにゃろ、とか思ってないよ?自業自得だからね。でも開き直るのは自由だよね!
「ゼロさん、抱っこお願いしますん!」
へいへーい!と手のひらを上に向けて呼んでみる。じっと見つめていたら、仕方ないと言う顔でゼロさんが降ろしてくれた。やったぜ!へっへっへ!
「ようニーチャン、随分隙だらけだな!」
ぷらんと子供みたいに両手で持ち上げられたから、そのままイキってみせたら、
「…隙だらけなのはお前だ。」
片腕に座らされて、空いた手で膝裏の少し上を掴まれた。
「ひにゃっ!!」
雷がぶち当たったみたいに、全身に衝撃、走る。的確に筋肉痛部分を押されて、悲鳴出た。自分でも吃驚するぐらい、びょんっ!て身体が垂直に跳ねたんだが?
「ゃっん!っ、ぁ゛っ、ヤダヤダごめんにゃさいしゅみませんでした!」
あ゛ぁあ゛あ゛いけませんお客様っ、お客様ぁあ!なにゆえぐりぐり押すんだ貴様ッ!どれ位ヤバいかって、正座で痺れている脚を触られるくらいヤバい。めっちゃ痺れる涙でる。焦りすぎて舌まで負傷したぁっ!
「んぐぅうっ…!人の負傷箇所に追撃かましてくるとか、ド鬼畜かな?!」
衝撃を逃したくて、縋り付いていたゼロさんに、そのまま抗議してみる。意義あり!バシバシと肩を叩いたら、触れてる身体が揺れてる。何笑てんねん。張り倒したろか。
「いや、シンジョウは放っておくと調子に乗るから、教育的指導だ。」
「やってることがサドのそれなんだよぉ。」
良い笑顔ですねゼロさん。目の前の綺麗な顔に、頭突きしてやりたい。ワンチャンいけるんじゃね?と思っていたのがバレたかは知らないが、ジト目で見てたらゼロさんの目が泳いで、手近な岩場に降ろされて、出掛けに買ったお昼ご飯を渡された。うむ、許す。肉串美味しい。お肉に罪はない。
「あと半分頑張っても、これが地獄の入り口なんだから、目の前が真っ暗になりそうだぜ…。」
お肉を食べ終わり、今後の自分を考えると絶望しか見えない。んおお、考えたくないでござる…。マッサージした方が良いだろうけど、絶対痛い奴だコレ。
「向こうに着いたら、すぐ治されるだろう。」
「治す?」
何を言っているんだお前はフェイスで、ゼロさんを凝視したら、ああ、と何かに納得した顔で説明してくれた。
「魔法使いにも得手不得手はあるが、これから会う奴は回復魔法を使える。シンジョウは恐らくアレの興味をひけるだろうから、頼めば聞いてくれるだろう。」
「ヤダ不穏。」
なんだ興味をひくって。珍獣かな?…言い得て妙な存在だったな私。伝説の生き物だからなぁ聖女。オマケに『大』ってつくし。
「捕まって解剖されるかな?」
「大丈夫だとは思うが…、」
悩むレベルなんだね。しかもこの反応具合だと、結構親しいな?古き良きオタ活知識により、回復魔法=拷問の方程式なんだが。恐ろしや。
「あ、ゼロさんに大事な質問があるんじゃよ。」
「なんだ?」
キリッと姿勢を正して真剣な顔を作ると、心なしかゼロさんも真剣な雰囲気を纏っている。
「『魔法使い』は『ちゃん』ですか!『くん』ですかっ!」
「…女だ。」
鬼気迫る勢いでたずねれば、拍子抜けしたような顔の後、溜息と共にはきだされた。
「ィイイイヤッホォオオオウ!あぁあっ、いったぁ忘れてたっ…!」
おもわず立ち上がって拳を掲げた所為で、脚に鈍痛が走り崩れ落ちる。すかさず、向かいに座っていたゼロさんが受け止めてくれたお陰で、膝が土に還ろうとしているのを、なんとか阻止できた。お膝くん、あなたのお家はそこじゃ無いのよ?
「ふ…、お前は、本当に世話が焼けるな。」
「む、ちゃんとしようと思えば出来る!疲れるからしないだけです!」
我、三十路ぞ?三十路ぞ?と訴えると、鼻で笑われた。抱えられて説得力皆無だからね。仕方ないね。くっそぉ…、自立、はじめなければ。むくれている間にジジ君に乗せられ、休憩タイムは終わった。
「突撃☆となりの魔法使い宅!うーん、字余り。」
夕方、結局痛すぎて足腰の感覚が無くなってきた頃、魔法使いさんのお家に到着した。と言っても、街からすっごく離れたギリギリの森の中に、『魔法使い、住んでます。』みたいな家が建ってた。青い屋根に白い壁、木製の柱。が、物凄い大きな樹に、飲み込まれてた。
「シンジョウ、歩けないだろう。こっちに、」
「あ、自分で歩くよ。」
神秘的ともいえる家を眺めていたら、いつの間にかゼロさんがジジ君から降りて、両手を差し出してくれていた。ううん。降りるのだけ手伝ってもらおう。高いし。
「ばっ、大丈夫か?!」
「っ…、へいき…。」
片手を借りて、軽い気持ちで飛び降りたら、重力を実感する羽目になった。着地は10点満点だったけど、筋肉痛がね…っ。いやいや、大丈夫ですとも。いい大人ですからね。痛み位素知らぬ顔で、我慢できますとも。
「シンジョウ、」
「大丈夫!ありがとう。」
掴んでいた手を離して、ひらひら振って笑っておく。へーきへーき。ゼロさんが何か言いたげだ。世話が焼けると思われてるんだろうなぁ。すまんね。話題変えとこ。
「お友達、こんな時間から訪ねていいの?連絡もなしに。」
「…ああ、問題ない。ヴォイス、見ているだろう。」
《見てるよぉ~、ははは、ロックスってそんな顔するんだねぇ~》
どこからか、反響するように声が響いてくる。なんだなんだ。ゼロさんもどこに向かって話しかけてるんだい?ゴーストでも囁いてるんか。
《おいでおいで、不思議な光のお坊ちゃん。ロックスは帰っていいよぉ~。》
「シンジョウ、こっちだ。」
お坊ちゃんって私か。反響する機会音声を、ゼロさんは苦虫を嚙み潰したような顔で、思い切り無視している。…お友達なんだよね?ゼロさんが進む方角は、樹にのみ込まれた家の、隣。
「メールポスト?」
こんな所に立てても、使い辛いんじゃないかな。という距離に、古びたメールポストがあった。全力で足腰の痛みを食いしばり、後について歩く。
私が隣に来たのを確認すると、ゼロさんがメールポストを掴んで倒した。ガコンッ!と重々しい音を出したのは、何もなかったはずの空間で。
「おお?!」
どうなってるんだろうこれ。空間が切り取られてるみたいに、空中にドアが現れている。どこ〇もドアみたいに、ドアだけ。周りに触れても何もない。ドアノブを回すと、何の抵抗もなく開いて。
「わぁあ!すごい!すごい!」
その中には、二階建てほどの高さの本棚に囲まれた部屋があった。ど真ん中に陣取りますは、大きなベッド。わずかなスペースを残して、お構いなしに本に埋もれている。床にも本のタワーがいくつも建築されている。あ、あの小山はデスクかな?お、あの辺はきっとソファだね。天井にはランプがいくつも浮いている。なるほど、あっちの家はフェイクか!凄すぎて語彙力死んでしまう…っ今までで一番『異世界』だ。
「邪魔する。」
「いらっしゃぁ~い。」
「お邪魔しまっす!」
入り口でわぁわぁ燥いでいたら、ゼロさんが勝手知ったる感じで中に入って行った。やっぱり仲良しじゃないか。猫鼠の次はなんだね?
「はじめましてぇ~うんうん、随分面白い子と一緒に居るねぇ?」
「はじめまして…。」
空気に寝そべるように、長身のお姉さんが浮いてらっしゃる。桜色の長い髪は緩やかなウェーブを描いて、緋色のグラデーションが綺麗。タレ目と泣き黒子で装飾された真っ赤な瞳は、マッチ5本くらい乗りそうなまつ毛に縁取られている。ぽってりセクシーな唇に艶々な褐色の肌。ボディラインを拾うドレスが、豊満な身体ではちきれそう。
「魔法使いちゃんではなく、女神さまでは?」
おもわず真顔でゼロさんに聞いちゃうよね。え、めっちゃ嫌そうな顔するじゃないですか。どうしたの。なぜ女神様と私の間に割り込むのだね。
「余り近寄るな。噛みつかれるぞ。」
「あはははっ!がお~!」
ゼロさんの失礼な発言に、笑いながらポーズをとってくれた女神様…、てぇてぇーっ!ありがとうございますっ。
「ふふ、僕の名前はヴォイス。お坊ちゃんのお名前は何かな?」
はぁー…、さらに僕っ子だと?ありがとうございます神様…。あ、アルたんか。おもわず手を組んで祈る。ありがとう、そしてありがとう…。
「えへへ、新庄 凛です。リンが名前です。」
小さい子に聞く様に、優しくされて思わずでれでれ頬が緩む。無理だよぉ、こんな美人に微笑まれたら骨抜きになるよ。
「わぁ、可愛い~。この子僕にくれるの?」
「え、貰ってくれるんですか。」
何そのご褒美。至近距離に来たヴォイスさんに、頬を撫でられて、指先で顎を掬い上げられた。そのまま綺麗な顔が近づいてきたと思ったら、
「やめんか。」
「いたっ!」
ぱぁん!といい音が鳴って、ヴォイスさんの頭がゼロさんにはたかれていた。え、いや、ええ?
「ゼロさんなんてことするんですか!美人の側頭部を叩くなんて!」
女性に手を上げるとは何事か!憤慨する私に、ゼロさんがちょっとオコな雰囲気でヴォイスさんを睨んでるし。聞いているのかね?
「ヴォイスは身体が一部女なだけだ。」
「なんて?」
「僕、自認は男でそういう対象も男だから、ロックスは君が僕にぱっくんされないか、警戒してるんだよぉ~。で?ロックスはいつから少年趣味になったのぉ?」
こんな可愛い子捕まえてぇ。と、からかわれているゼロさんを思わず凝視する。ヴォイスさん、属性森杉では?いや、いやいやそんなことより!
「天然ハニートラップじゃないですかぁっ!最高か?!」
「わぁ、その反応ははじめてだなぁ~。」
滾る!み・な・ぎ・っ・て・き・た!その美貌で好みの男性を誑し込んで、ムシャムシャするんですよねわかります。女郎蜘蛛じゃないですか最の高。大興奮でヴォイスさんを見つめていたら、にっこり微笑まれた。
「えっ、ときめきで死にそう。」
「じゃあ、僕と今晩楽しんじゃう?」
トゥンク…なんて口で言いつつ、胸を押さえて見つめてみたら、ヴォイスさんもノリノリだった。面白いなこの人。
「なんて魅力的…でもゴメンナサイ、私女なんですよね。あと30歳です。」
ショタコンの方だったら申し訳ないし、この世界の成人16歳らしいから年齢も言っておこう。
「えっ?うそでしょ?」
「…シンジョウは女だ。」
「すみません。」
呆然とする美人なんて、珍しいもの見たわ。私を指さしながらゼロさんに確認している辺り、私そんなに男の子に見えるのか。…なぜに私は女であることを謝罪しているのかね?と思わんでもないけどね!ヴォイスさんの反応につい。罪悪感が…。
「…っそんなぁああ!ひどいよロックス!こんな僕好みの子連れてきておいて!!」
「お前の好みなんて知るか。…知っていたら、連れてこなかった。」
ゼロさんめっちゃ嫌そうな顔するね。保護者、お疲れ様です。おもわず頭下げそうになったら、ぽよん。と顔に弾力が。なん…?う、うわあああっ!たわわ!至福の果実が両頬に!ぎゅむっと抱き着かれて双丘に顔が埋まってます、なう。んあああ、
「ゼロしゃんたいへんだ…、あったかくてやわわかくていいにおいしゅる…。」
ぽうんぽうんのふやんふやんだぁ…。ダメだ…抗えない…。脳みそ溶ける…。
「お前はしっかりしろ。ヴォイスはシンジョウに触るな。」
「ああ、そんな!殺生な!」
ヴォイスさんの双丘にメロメロになっていたら、べり、とゼロさんに引き離された。なんてことをするのかね君は!ゼロさんに抗議しようと思ったら、
「いや、逆に考えればいいんだよ。女の子なら、僕と子作りできるじゃない。」
「うん?」
ヴォイスさんからとんでもない提案が飛んできた。おや?身体は女性って言ってなかっ
「死にたいらしいな。」
「おお?!どうしたのゼロさん落ち着きたまえよ!」
ヴォイスさんとの間に立ち塞がっていたゼロさんから、ビリビリと静電気みたいのが飛んできてる。殺気かこれ。私からは背中しか見えないけど、激おこぷんぷん丸通り越してるなこれは。冗談だろうに、何をそんなに怒ってるんだい。
「容姿は僕好みで美少年、年齢的にも問題なくて、しかも女の子なんでしょ?完璧だよぉ。」
「ヴォイスさん、身体は女性って言ってなかったかい?」
「ああ、両方ついてるんだぁ。でも僕入れる側だから、そこんとこは譲れなくてぇ。」
「お、おにショタ…!ヴォイスさんサービス精神の権化じゃん!」
薄い本が厚くなっちゃう!おもわずゼロさんを挟んでキャッキャウフフしていたら、ゼロさんが怒り心頭なお顔で振り返ってきた。え、こわ。
「お前はっ、」
「はいはい、ロックスは落ち着きなよぉ。八つ当たり良くないよぉ?」
何事か言い掛けたゼロさんに、ヴォイスさんが待ったをかけた。八つ当たりってなんぞや。殺気が私にもバシバシ飛んできてて、肌がビリビリするんですがっ!
「誰のせいだッ!」
「えぇ~?みたところ、関係性を明確にしてない君の所為じゃない?」
ぐっ、と言い淀んで、ヴォイスさんを睨んでるゼロさんの背後から、黒い気が立ち上ってる。こ、こわっ!激おこどころかファッキンストリーム位までいってないかこれ。
「親しい間柄、理解ある友人、新たなる障害、明確にならない関係性…はっ!まさかっ!」
「その可能性は絶対ないから安心してねぇ~。ロックスなんて、好みに擦りもしてないからぁ。」
僕にも選ぶ権利はあるからねぇ。と笑って脚を組み替えるヴォイスさんに、それはそうだと思い直す。ちっ、流石にそこまでフラグは立たないか。
「それなら、女の子でもリンちゃんが良いなぁ。」
「わぉ!光栄ですな!」
美女(♂)に選んで貰えるとは。しかもイケメン差し置いて。ふっふっふ。私も中々なのでは?
「ねぇ、本当に僕はどうかなぁ?これでも腕利きの魔法使いだし、生活には困らないくらい稼ぎはあるよぉ?ちょっと他の子味見しちゃうけど、リンちゃんのこと大事にするからぁ~。」
本格的に売り込まれてるけど、冗談か測り辛いなぁ。顔は笑ってるけど、目の奥が笑ってない感じするし。子供だけ何かしら必要なのかな。用済みになったら人知れず消されたりして。ハハッ。
「あぁ、私は私のことが好きな人が好きなので、それは無理ですね。」
ヴォイスさん、私の事好きじゃないでしょう。そう言って笑い返すと、きょとん、とした後に、愉しそうに笑われた。おお、眼福。花を背負ってらっしゃる。
「そっかぁ、それはしょうがないねぇ。でも、お友達くらいなら良いよねぇ?」
ぱちん、と小さな破裂音がしたと思ったら、
「お?おおおおっ?!ありがとうございます!」
身体の痛みが無くなっていた。えぇ、どういう原理?!
「あははっ、良い反応だねぇ。」
ずっと我慢していたでしょぉ。と笑われ、知ってて放置してたんかい。と心の中で突っ込んでしまう。さては貴様、加虐側だな?
それにしても不思議だ。全く痛みの無くなった自分の身体とヴォイスさんを交互に見てたら、する、と頬を撫でられて、柔らかい手がピアスに触れた。
「んー、妖精の印付きなんて、最高の素材だと思ったんだけどなぁ。」
「ああ、やっぱり。」
解剖フラグだったかぁ。と笑うと、面白いものでも見る様に目を細められた。んん、外観妖艶系美女・内観肉食系男子ですな。
「がっかりした?」
「腑に落ちた。って感じですね。」
肩をすくめれば、なんだぁつまらないな。と、とてもそうは見えない顔で微笑まれた。今度はちゃんと笑顔な辺り、性格に難ありとみた。
「で、ロックスはまだ怒ってるのぉ?」
「あ、そうだ。なんで怒ってるんですか?」
ヴォイスさんの美しさに夢中すぎて、途中からゼロさんのことすっかり忘れてた。
「…はぁあ、…もういい。今日は泊めろ。」
「別に良いよぉ?代わりに、何か面白い話してよねぇ。」
疲れ切ったような顔のゼロさんに、ヴォイスさんが心底愉しそうにニヤニヤしている。なるほど、猿殴の方でしたか。それにしても、ネタを提供せねば野宿確定か。それは辛い。
「面白い…、あ、ピアス。とか。」
「妖精の印のことぉ?」
「…いや、もう一つある。これについて、お前に聞きに来たんだ。」
「印が二つ?…へぇ。面白そうだね。」
今までとはうって変わって、真剣な顔で笑うヴォイスさんは、こう、仕事できる人。って感じだ。切り替え、大事。
一先ずプーカの印(多分)と、もう一つを手に入れた状況をゼロさんが掻い摘まんで説明しつつ、あの小箱を取り出した。相変わらず、私にはただの箱とピアスにしか見えない。
でも、ヴォイスさんには魅力的なモノに見えてるようで。目がキラッキラに輝いていた。
「凄い…!妖精王の印だ…っ!」
「…やはりか。」
小箱ごと掲げて、うっとりとピアスを見つめるヴォイスさんの色気がっ…!眩しい…っ!逆にゼロさんは眉間に皺を寄せているし。というかこれ、私蚊帳の外だな。大人しくしておこう。
「オパールは『神の石』だからね。そもそも、妖精王からしか手に入らないんだよ!他の妖精の印のように、同名の宝石として鉱山から出土したりしないんだ。」
「え、印って宝石じゃ無いんですか?」
「正確には妖精の魔力結晶だね。通称、妖精石。鉱山から出土する宝石に似ているから、宝石に間違われやすい。むしろ、宝石は妖精が作ってる、なんて言われてるくらい。印は契約者の血に反応して、呼べば妖精が現れる。契約した妖精の能力によって、履行される力の幅は広いよ。」
万病を快癒したり、巨万の富を与えたり。なんて噂されてるけれど、そもそも契約してる人間ってなかなか遭遇できないんだよね!と、今までのアンニュイな雰囲気は何処へやら。好奇心でキラキラな目が可愛い。
「それに、妖精の印はその特性から二つ得るなんてあり得ないんだ。まぁ、今回みたいに最上位の妖精から受け取ることは、可能みたいだけれどね。」
妖精は基本横一列。タイプが違うから優劣なんて関係ない。ただし、妖精王を除いて。と話をしめたヴォイスさんと、目が合う。おやおや、イヤな予感がするぞ?
「リンちゃん、お願いがあるんだけど。」
「わぁ、断りたい。」
小首を傾げて上目遣いを炸裂させてくるヴォイスさんに、背筋が寒くなる。いや、とっても可愛くて魅力的なんですがね?…わかるだろぉお?!
「これ、つけるところ、見たいなぁ。」
「あわよくば妖精王に、会えるかも。って?」
「ピンポーン!」
おおん、やめるんだ。距離を詰めてくるんじゃぁ、ない。どっちにしろ、つける気でいたけどさ。魔法で何かされそうなんだぜ。警戒しちゃうぜ。
「…こら、それは明日にしろ。今日はもう遅い。」
「え、あっ!本当だ。」
「ええ~そんなぁ~。」
間に割って入ってきてくれたゼロさんが、ヴォイスさんの顔面をアイアンクローして止めた。お、おう。ゼロさんの中で、ヴォイスさんは『男』あつかいなんですね。…私に『女』で紹介したのは、本人次第だからかな。
天井がドーム状のガラス張りで、外が真っ暗なのがわかる。気温から言うとずっと初夏くらい…日差しが温かく風が冷たいような気候らしいから、今は20時をまわったくらいだろうか。ご飯とか考えたら、確かに遅いね。
「晩ご飯どうします?」
「僕はねぇ、魔法以外は全部ダメだから期待しないでぇ。あ、トマトとかマメとかが好きだよぉ。」
「すまん、シンジョウ…。」
「あ、私が作るんですね了解した。」
作るのは良いんだがな。このホールの様なワンルーム、キッチンはどこなんだ。きょろきょろ辺りを見回していると、気がついたヴォイスさんが案内してくれた。おおん、まさか壁が通り抜けられるとは思わなかった。ちょっと楽しくなって三回くらい行き来したよね。
キッチンも無駄に広かったけれど、設備はばっちりだった。なんでも、ここを建てた時に、業者のおススメをそのまま買ったんだとか。…金持ちがおる。さっきも腕利きって自分で言っていたし、裕福だなさては。
「僕が生きてるか、確認しに来る友達しか使わないんだけどねぇ~。」
「ゼロさんとか?あ、これいいですか。」
「そうそう、お節介で世話焼きだよねぇ。何使ってもいいよぉ。」
合間に世間話を挟みつつ、晩御飯を作ることにした。なにが楽しいのかわからないけれど、ヴォイスさんはずっとふよふよ浮きながら、私とお喋りしながら出来上がるのを見ていた。
「すみません、お待たせしました。」
「いや、任せっきりで悪いな。」
キッチンのダイニングスペースに食事を並べる。夜はそんなに食べないそうだから、今回はグヤーシュにバケット。あとタコとひよこ豆でサラダにしたけれど。そう、なんとタコがあったんじゃよ。
「…リンちゃん、結婚しよう。」
「おっとぉ?」
「実験用に買った『悪魔』を捌き出したときは正気を疑ったけど…、ごはん美味しい…。このスープも美味しい…。」
「ふふふ、たんとお食べ。」
そんなに食べない(食べないとは言ってない)だと困るから、お肉と具沢山になるグヤーシュにしたんだけれど正解だったな。ナイス先見の明。ヴォイスさんはそのクビレのどこに入って行ってるんだい?
「朝ご飯楽しみだなぁ~。この際、僕のものにならなくてもいいから、ここで働かない?食事係として。お給金弾むからさぁ。」
食事中は流石に席についているヴォイスさんが、可愛い猫なで声で甘えてきて…こう、グッとくるよね。でもなぁ。アルたんに頼まれてるし、一所にいるとまずいんだヨ。適当に断るか。
「ゼロさんが拗ねちゃうから、ダメですねー。」
「ごっふ、ゴホッ!…っは?!なにを、」
「なるほど、それは難しいねぇ。」
おお、大丈夫かゼロさん。布巾を差し上げよう。テーブルの上が吐血したみたいになってるよ。先に水飲む?咽すぎて顔が真っ赤になってるよ。
「まぁ、リンちゃんは見たことのない色で光ってるし、騎士団長なはずのロックスが一緒についているし。何かあるんでしょぉ?」
グヤーシュに千切ったパンを浸しては食べるヴォイスさんに、ちら、とゼロさんをみる。別に、話してしまってもいい。私には彼の危険度がわからないからね。それに、私は死なないだろうから。
探るように私を見ているヴォイスさんに、にっこり笑い返す。猫みたいに目を細める彼は、私が何に見えているんだか。光ってるってなんぞ。太陽拳かな。
「あとは保護者に聞いてください。私から聞いても、信憑性がないでしょう?」
「あは、そうだねぇ。リンちゃんのそういう所、すきだなぁ。さて、ごはんのお礼はしなきゃねぇ。何がいいかなぁ?」
ふむ、『何』を丸投げしてくるなんて。私の欲深さでもはかりたいのかい?好きじゃないなぁ。しかし、お礼か。お金持ちに一宿する際に集るお礼なんて、決まってるじゃないか。
「お風呂ありますか!!」
「あるよぉ?…え、そんなのでいいの?」
「あああ、最高ですありがとうございます女神様!!」
高ぶりまくる私に、わけわかんねぇな。って顔向けてるけど。お風呂はね!大事なんだよ!思わずヴォイスさんを拝むくらいにね。
「あははっ!本当に変な子だなぁ。赤色の扉の部屋にお風呂が付いてるから、使うといいよぉ。」
ぱちんと乾いた破裂音の後、キッチンの横の壁に階段が現れた。…二階も、あるんかい。でもそんなことは些末些末!ゆっくり一人風呂ができるなんて、最高の餌ですよ。やったぜ!
「じゃあ、私はお先に失礼しますね!おやすみなさい!」
良い笑顔で敬礼をかまして、颯爽と階段を駆け上がった。後は二人で積もる話でもして旧交を温めてくれたまえ!
駆けこんだ部屋のベットもお風呂も最高で、私は結局一時間かけてピカピカに身体を磨き上げて、さらに一時間かけて、今まで簡単にしか済ませられていなかったボディメイクに精を出した。
「…はっ!脹脛とかが引き締まってる…!ああっでも肌荒れが…っ!」
ぐぅう、ほんと、早くなんとかせねば。三十路の肌は揺らぎやすいんだぞ!半泣きで誰に言うわけでもなく、化粧水を叩き込んだ。