6.従魔契約
部屋にある本を読み始めて1週間、僕は本を読む、庭で魔法を使う。を繰り返していた。
あのメガネは優秀で、どの本も今のところ読むことが出来ている。
魔導書によるとメガネにかけた魔法は魔法付与というらしい。ランタンと同じような物らしいが、ランタンは点ける際に魔力を注いだのだけど、何を間違えたのかメガネを使用するのに魔力の必要がなく、常時起動状態でメガネをかけて対象を見たら使えるのだ。もしかしたら太陽電池の様に周りの魔力を自動的にに吸収しているのかもしれない。まぁ、便利に使えるならいいか、と深く考えるのをやめた。
魔法についての知識も随分増えた。
生活魔法と呼ばれる魔法は、基本的に手のひらの近くで発動させる物で、少量の水、火、風そして光、使う魔力は自身が持つ魔力になる。
その4種類を周りの魔力から集めると上位魔法になる。規模が大きくなる代わりにコントロールがしにくく、暴走しやすい。
他にも種類はあり、土、闇、氷、聖、無の5種類だ。その中でも無属性というのが厄介で、他の8種類に分類されないものが全部無属性になる。いわゆる、その他ってやつ。転移魔法も従魔契約も身体強化だって無属性に分類される。
おかげで無属性の本は他の属性魔法に比べて何倍もある。グリールさんが転移魔法陣の研究をしているからかもしれないけど。そして、無属性魔法の解説はひとつひとつがとても短く、1ページに満たないものもあったりする。この内容だけで魔法を使えるようになる人はとても優秀だと思う。
僕は朝から読んでいた水属性の本にあった攻撃魔法を使ってみようと思い、庭に出た。火と違って水ならそこまで大変な事にならないだろう。
庭を見るといつも通りの場所にスライムがいる。
攻撃魔法なので、何に向かって使うか考えているとメガネに付与魔法をかけた石が目に入った。石はしっかりと地面に埋まっているし、石ならすぐに砕けることもないと思う。
石から2メートルほど離れた位置に立ち、手のひらを石に向ける。距離が近いのは万が一にも狙いを外さないためだ。
大きく深呼吸すると空気中の魔力が集まり、水の塊が飛び出し、石にぶつかるというイメージをした。
イメージ通りの水の塊が石に向かって飛んで行った。しかし、いつもとは違い、スライムがこちらにクルリと向いた瞬間、僕が狙っていた石の後ろに土の壁が出てきた。
ドカン!ドッ!と大きな音がして、石が粉々に砕け、土の壁に丸いへこみが出来ていた。
音に気付いたのか家の中からグリールさんが出てきた。
「すごい音がしましたが…」
グリールさんは目の前の光景に目を見開き、固まった。
「すみません。水の攻撃魔法を使ってみたらこんな事に…」
僕はすぐに状況を説明した。
「と、すると、土の壁はスライムの魔法ですね。ありがとうございます。助かりました。」
グリールさんはスライムの方へお礼を言った。それを聞いたスライムは一度ポヨンと跳ねた。
「では、ユウキさん。先程の魔法をもう一度かけることはできますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。自分の魔力は使っていませんから。どこに向けてかけましょうか?」
それを聞いたグリールさんは、僕が粉々にした石の横に石を作り出した。
「こちらに向けてお願いします。」
「わかりました。」
僕はさっきと同じようにイメージし、魔法をかけた。
再び、ドカン!ドッ!と大きな音がして、石が粉々に砕け、土の壁に丸いへこみを作る。
「素晴らしいイメージと魔力のコントロールですね。」
グリールさんは土の壁のへこみを観察しながら続けて言った。
「素晴らしいですが、この威力の魔法に耐えられるのはドラゴンくらいで、普通の魔物に使用すると肉片すら残りませんねー。貫通するので後ろに誰もいないことも確認しないといけませんよ。」
いや、それは使えない…
「どうしたらいいのでしょうか?それだとお金を稼ごうにも狩りが出来ませんよね…」
「周りから集める魔力量を減らしたイメージで行うか、自身の魔力を使うと強制的に使用魔力量が減ります。あとは、魔法以外で攻撃していざという時のみ魔法を使用するとかですかね。」
「集める魔力量を減らすイメージですか…やってみていいですか?」
グリールさんは再び石を作り出してくれた。
「どうぞ。」
僕は空気中からほんの少しだけ魔力を集めて先程より小さい水の塊を作り出し、石の方へ飛んで行くイメージをした。
今度はチュイン!と、小さな音がしただけで、石が砕けたりはしなかった。
「これなら大丈夫そうですね。」
僕はホッとしてグリールさんに話しかけたが、グリールさんの表情は冴えない。
「いえ、石は砕けませんでしたが、威力は上がっているようですよ。ここを見てください。小さな穴が開いています。集める魔力量は少なくされたのですよね?聞いたこともありませんが、おそらく、空間の魔力を集める際、無意識に少ない魔力量でも効率が上なるように魔力を凝縮させていたのでしょう。すごい素質です。」
少し困った顔をしたグリールが説明してくれた。
「魔法を覚え始めて1週間、ユウキさんは優秀すぎます。そういえば、もう文字も覚えたのですね。」
今気づいたとばかりにグリールさんは僕が文字を読めるようになっていた事を指摘した。
「結果的に読めるようになったのですが、文字を覚えたわけではありません。」
と、メガネに魔法付与を行ったことを話した。グリールさんは僕の話に興味津々だった。
「他の文字に変換ですか。他にはどんな魔法を覚えましたか?その中に苦手だと感じたものはありましたか?」
「8種類の属性魔法の中で防御魔法や、支援魔法は使えました。攻撃魔法は今日初めて使います。無属性魔法は、身体強化は使えましたよ。火属性魔法は苦手かもしれません。周りが燃えちゃいそうで。」
それを聞いてグリールさんは呆れたのか、諦めたのか乾いた笑いをしていた。
「あとよく使われる魔法には、従魔契約がありますね。やってみます?従魔になってくれる魔物に特にこだわりが無ければ、ですが。」
「従魔契約ですか!やってみたいです。でも、魔物ってすぐには見つからないですよね?」
従魔契約用のペットショップみたいなお店があるのだろうか。グリールさんとスライムの関係はちょっと羨ましかったんだ。なんか分かり合えてるみたいで。僕が異世界から来てるから知り合いはいないし、秘密にしていた方がいいと思うから、パーティとか組めても気が抜けない。その点、魔物なら他に漏れる心配は無い、意思疎通が出来るかは分からないけど。
「いえ、私が契約しているスライムとですよ。転移魔法陣の研究で協力してもらっていたのですが、生き物を使った転移魔法陣だと、今回みたいにまた被害者を増やしてしまうかもしれませんから他の方法を考えようと思っています。しかし、従魔契約していない魔物は街に入れるわけに行かないのでどうしようかと思っていたのですよ。まぁもっとも、このスライムは勝手にこの街に侵入していたんですがね。」
僕がグリールさんの方を向くと、どうしますか?と視線を合わせてきた。
「従魔を使用しない研究をするとしても、従魔契約したままでいいのではないのですか?」
と、僕が訊ねると、グリールさんは残念そうに話し始めた。
「従魔契約には従魔と自分を繋ぐため、常に一定の魔力が必要なのです、つまり自分の魔力量の上限がその分少なくなります。このスライムは元々普通のスライムより多く魔力が必要でしたが、ユウキさんと戻って来た時からその必要量が何故か増加したのです。そのため、今まで使用できていた魔法を発動出来なくなっていまして、契約解除を考えていたんです。とても賢いスライムなので、こっそり住まわせる事も考えていたのですが…ユウキさんが従魔契約してくれると言うなら安心できます。」
「それは、僕が従魔契約しても同じように魔法が使えなくなるのではありませんか?」
グリールさんは僕の質問に不思議そうに答えた。
「それはあり得ませんよ。そもそも、ユウキさんは空間の魔力を使用して魔法を発動させているではありませんか。自身の魔力量の上限が減ったところで何も問題ありません。」
グリールさんはいつもの場所にいるスライムに近づき、1メートル手前で丸、縦棒、バツを地面に描き始めた。大人数で行う○×ゲームのようなかんじだ。
「さて、君の従魔契約を変更したいのだけど、次の契約者はこちらに居る神白裕樹さんだ。受けてもらえないだろうか?この街に居るためには契約者がいないといけないんだ。」
グリールさんがスライムに質問をすると、スライムはクルリといつものように回ると丸の描かれた場所に移動した。
「本当に賢いスライムですね。グリールさんはいつもこの方法で会話していたのですか?」
「はい。やって欲しい事なんかは話しかけると理解してやってくれるのですが、肯定、否定で答えが出る事に関してはこうやって考えを教えてもらっています。出来る事なら直接会話がしてみたかったですね。さて、スライムは従魔契約変更に理解を示してくれました。私が契約解除した後、従魔契約をしてみてください。やり方は、自分と魔物の間に繋がりを作るイメージ、実際に紐が繋がる感じでもいいです。そのイメージのまま魔法を発動します。自分より強い魔物に従魔契約を行う場合のみ、魔物が拒否すると契約出来ない事があります。それではいきますよ。『解除』」
グリールさんが従魔契約解除を行ったのを確認すると、僕は自分の手首からスライムに紐が絡みつくイメージで「従魔契約」と魔法を発動させた。
「あの…従魔契約出来たかどうやって確かめるのですか?」
「あ、しまった。契約を弾かれると必ず分かるので契約自体は問題なく出来ていると思いますが、まだギルドカードを発行していませんでしたね。このようなカードを冒険者ギルド、商業ギルドなどのギルドで発行してもらいます。このカードが身分証代わりになります。子どもでも、薬草採集依頼を受けたり、売買を行う場合必要になります。誰でも発行出来ますし、偽名で発行したりも出来ますが、固有標章を使用するので重複発行は出来ません。このカードに従魔契約出来ていたら従魔の内容が書き込まれます。」
そう言いながら、グリールさんは名刺サイズのカードを何もない空間から取り出して見せてくれた。
「グリールさん?今何もない所からカードを取り出しませんでしたか?」
「これは、無属性の異空間収納魔法ですよ。魔物討伐や、遠征などで重宝します。自分の魔力を使うとただの空間ですが、空間の魔力を使うと時間経過の無い空間になります。大きさもコントロールする魔力量によって変わりますのでユウキさんなら便利に使えそうですね。後で練習しましょう。しかし、まずはギルドに行ってカードを発行してもらいましょう。」
そして、僕はグリールさんと冒険者ギルドへ出かける事になった。