5.魔法習得
本日2話目です。よろしくお願いします。
家に戻った僕は庭で魔法を教えてもらうことにした。
「魔力はみんな持っていますし、周りの空間にも存在しています。なので誰でも魔法を使うことは出来ます。ただし、誰しも得手不得手があり、得意な属性は上達しやすく、苦手な属性は努力を重ねても上達しにくい傾向にあります。その中でも生活魔法と言われる初級の属性魔法は得意不得意が出にくく、魔力の使い方を学びやすいと言われています。ハルトも魔法自体は使用出来ていたので、ユウキさんにも使えるはずです。まずは手のひらの上に丸い水の塊が出てくるイメージをしてみましょう。」
そう言うと、グリールさんは右手を手前に差し出して手のひらに水の塊を出した。
僕もグリールさんのように右手を出し、手のひらの上に丸い水の塊が出てくる様子を想像した。
すると、手のひらが温かくなったなぁと思うと想像していた場所に水の塊が出てきた。
「あれ?呪文とか唱えないんですか?食事の準備をしていた時、確かグリールさん『冷水』とか言っていませんでしたか?」
あっさりと水の塊が出てきて拍子抜けしたが、だからこそ気になった。
「それはですね…イメージを補足する為に使用します。今回は水魔法で水の塊を出しましたよね。どんな水をイメージしましたか?出てきた水の塊からして透き通った水ですよね。飲み水に出来そうな水ですか?水温は?こんな感じで魔法で出すものはイメージした物が出てきます。『冷水』と声に出して言うことでイメージが固まり易いのです。」
僕がなるほど。と頷いているのを確認すると、
「もう一つ、魔力の使い方が2種類あります。今、ユウキさんは自分の中にある魔力を使用していました。この方法はコントロールしやすいのですが、人は魔力を使い活動していますので、魔力が底を突くと動けなくなってしまいます。ですので、冒険者や、宮廷魔道士を目指す人は、空間にある魔力を魔法に使用する方法を学びます。とは言え、周りから集めるイメージをするだけですが。そのイメージがなかなか出来ないのと、コントロールを誤ると暴走してしまいますので高度な魔法を使う場合には注意が必要です。では、今度は周りから集めた魔力で水の塊を出してみましょう。」
僕は空気中の水分が集まって水の塊が出来る様子を手のひらの上で想像した。
さっきは手のひらが温かくなったが、今回は特に何も感じることなく水の塊が出てきた。
「上手く出来ましたね。普通はなかなか魔力が集まらないのですよ。ですから、周囲から魔力を集める場合、魔法使いは詠唱を行いイメージの補足を行います。ユウキさんはイメージの仕方がこちらの世界とは異なるのでしょうね。さて、日も傾いてきましたし、今日はここまでにしましょう。」
なお、夕飯は具沢山スープを作った。グリールさんの作ったものよりはマシな物が出来た…と思う。よく考えると僕はずっと実家暮らしだったし、コンビニやスーパーですぐ手に入るから、料理をしたのは調理実習くらいだ。そして、日本の調味料が便利過ぎた、あれを使うと素材さえ準備すれば美味しく出来たしな。
食器の片付けを終えると、
「滞在する部屋はあの部屋を使ってください。あの部屋には、魔導書などもありますので、文字の勉強にもいいでしょう。分からないところは聞いてください。トイレはこちらです。」
と、案内してくれた。
「ありがとうございます。ところでお風呂はないのですか?」
異世界の常識かもしれないけど、一応聞いてみた。
「お風呂ですか…この街で、風呂があるのは貴族の屋敷だけです。基本的には井戸で水浴びか、手桶に入れたお湯に布を浸して体を拭く事ですね。」
やはりか。しばらくお世話になるなら、お金が貯まるか、魔法が上達したら早々にお風呂を作りたいな。
「分かりました。ではまた明日、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。あ、部屋のランタンは魔力をランタン本体に流すとつける事が出来ますよ。ランタンの灯りは調整出来ませんが、流した魔力量で、ランタンの点灯時間が変わります。」
「はい。ありがとうございます。」
部屋に戻り言われた通り、ランタンに魔力を流すと灯りがついた。
僕は自分と一緒に異世界へ渡った荷物の確認をすることにした。
まずはベッドの上にスーツケースを載せ開けた。中には出発前に入れた物がそのまま入っている。その中から、パジャマ代わりのシャツとズボン、肌着、パンツ、靴下だけを取り出した。
「外で着る服は仕方ないけど、寝る時までゴワゴワは勘弁してほしい。携帯とパソコンは流石に使えないだろうな。電気もないし。いつまで持つか分からないけど、携帯の電源は落としておこう。」
携帯を持つとセンサーが反応して画面が点灯し、待ち受け画面になる。いつもの習慣で電波の状況が目に入る、すると普通は電波状況を示す黒い棒が立っている場所に赤い棒が立っていた。
「赤い棒って何だ?圏外じゃないのか?」
よく分からないが電波が来てるなら使えるかも、と、電話してみる事にしたが、何も反応がなかった。それでは検索はどうだろうと、検索サイトに繋いだがこちらも反応がなかった。
何か条件があるのかもしれないが、今は使えないので電源を落とすことにした。
スーツケースを片付け、着替えを済ませると次にビジネスバックの中身を確認する。ビジネスバックの中からは、移動時に食べようとしていたお菓子が数種類出てきた。この世界にもお菓子はあるといいんだけど、念のためしばらく置いておこう。
パソコンに筆記用具、ノート、名刺、ブルーライトカット用の伊達メガネ、あとは小箱。そういえば、お母さんが出る時に渡してくれたけど、何の箱だろう?箱の留め具には鍵が付いていたが特に鍵を受け取った記憶は無い。揺すってみるとカサカサと音がするので紙のような物が入っているようだった。よく分からないがせっかく一緒に異世界に来たのだし大事に持っておこう。
今度は本棚に向かった。黒森さんが書いた紙束を片手に背表紙を眺めていくと、魔法と言う文字が書かれた本が見つかった。
すぐには読めないだろうけどまずはこの本を読んでみよう。
開いてみたがやはり読めない…魔法で読めるようにはならないのだろうか。そのためには、魔導書を読まないと探せないし。明日グリールさんにも聞いてみよう。今日は遅いし、明日頑張ろう、そうしよう。
やはり疲れていたようで、ベッドに入るとすぐに眠気がきた。
朝、鐘の音で目を覚ました。
台所へ向かうと、すでにグリールさんは起きていた。
「おはようございます。ユウキさん。私は少し外に出ますが、ユウキさんはどうされますか?」
「早く文字を覚えたいですし、今日は家にいます。そうだ、グリールさん、文字が読めるようになる魔法ってないのですか?」
「文字を読めるようになる魔法ですか?魔物や植物であれば鑑定魔法で名前とかがわかるようになりますが、本を鑑定しても本としか出ないですかね。うーん、私の知っている魔法にはありませんね。すみません。」
「そうですか。やはり地道に覚えるしかないですね。ありがとうございます。」
朝食はパンとベーコンエッグに牛乳という普通の朝食だった。
グリールさんが出かけた後、僕は部屋で昨日の続きを始めた。
すると、昨日は気づかなかったけど、紙束の間に日本語で書かれた紙が挟まっていた。
紙には魔法について分かったことや疑問点などが箇条書きに書かれていた。
その中に昨日自分も考えた本を読む魔法についての考え方が書いてあった。
魔法とは現象をイメージすること。この世界には日本と違い科学や娯楽が無く、創造力がつかないから魔法が発達しないのではないか。現象のイメージが出来るならこの世界に無い魔法も使えるはずである。
ふと、友人が使っていたスマートグラスが思い浮かんだ。あれみたいにメガネを掛けたら文字が翻訳されるようなイメージで魔法を使ったら出来ないかな?
思い付いたら試してみたくなった。僕はビジネスバックから伊達メガネを取り出すと庭に出た。理由は部屋の中より外の方が魔力が多そうな気がしたので。
庭には昨日のようにスライムがいた。特にこちらに興味がある訳ではないようで、僕が庭に出ても動かなかった。
僕は庭にあった大き目な石の上にメガネを置き、どのようなイメージにするか考えた。この国の文字が読めるようにとイメージすると、文字だけが読めるようになって内容が分からないかもしれない。そうなるとやはり翻訳ソフトのようなイメージが良いかも知れない。いずれはこの国を出るかもしれないし、国が変わるたびに毎回魔法を掛け直すのも面倒だ。一つの物に何度も上書き出来るかも分からないしね。よし、決めた。
僕はメガネに手をかざし、このメガネをかけるとこの世界の文字を日本語に翻訳するというイメージをする。その状態で昨日やったように空気中からたくさんの魔力を集まるイメージとともに「日本語に翻訳」と発言した。
その瞬間、遠くにいたスライムがこちらを向いたのかクルリと回った。
僕は見た目は全く変わらないメガネを拾い上げ、掛けてみた。そして、本を持って出るのを忘れていたことに気づいた。
慌てて部屋に戻る僕をスライムはジッと見ていた…と思う。何せスライムには目がないからどちらを向いているのか分からないのだ。
部屋に入ると早速本棚に向かう。
背表紙を見ると文字の上に日本語で翻訳された文字が浮かんでいた。見事に同時翻訳機能を手に入れた瞬間である。
その後は、グリールさんが帰宅するまで、のんびり読書をして過ごした。