2.仕事内容
大学を無事に卒業し、卒業式を終えた春休みの1日目、親に呼ばれてリビングに行くと平日だと言うのに、両親に兄と姉が集まっていた。
「おはよう。みんな揃ってどうしたの?今日は会社休み?」
いつもと違う雰囲気に僕は疑問を投げかけた。
「「「おはよう」」」
兄と姉はとても意地悪そうな顔をして笑っていた。
「裕樹おはよう。そして、卒業おめでとう。4月から社会人だね。今日は裕樹に大事な話があって集まっているんだよ。」
お父さんが代表で話はじめる。
「4月から会社を手伝ってくれるという話で間違いないかな?家族経営の会社だからって無理はしなくていいんだよ。他にやりたい事があるなら遠慮なく言って欲しい。」
みんなの視線が集まっているのが分かる。
「間違いないです。親の会社ということで色々な目があるとは思いますが、仕事の内容も多岐に渡り、社会に貢献できるとても良い会社だと思っています。」
僕は会社について思ってきていたことを素直に話した。両親は素直に嬉しそうな顔をしたが、兄と姉はますます意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「ありがとう、とても嬉しく思うよ。」
お父さんは一度言葉を切り、今までの柔らかい雰囲気から一転して、真面目な社長の顔になると話を続けた。
「では、早目に準備をしてもらわないといけないし、入社前ではあるのだけど、ひとつ仕事を引き受けてもらいたい。」
社長からの勅命、もちろん引き受けるしか選択肢はない。
「はい。わかりました。」と、了承の返事をすると、僕の名前の書かれた1通の封筒が差し出された。
「4月1日付で2年間の出張を命ずる。」
さらっととんでもないことを命じられた。
「…出張?どこへ向かえばよいのですか?」
たくさんの疑問が頭に浮かんでいたが、これしか出てこなかった。
この顔が見たかったとでもいうように、お父さんの後ろで兄と姉がクスクスと笑っていた。
「封筒の中に詳しい辞令内容が書かれているから後で確認してほしい。内容を簡単に説明すると、次の4点になる。
第一に出張先は特に決まっていない。
第二に事件、事故を起こさない。巻き込まれない。
第三に良い人脈、商売の種を見つける事。
第四に一日一日を楽しむ事。以上だ。」
はい?そんな曖昧な内容で出張って言うのだろうか…特に第四の楽しむって……。
僕が困惑していると、副社長でもあるお母さんが話を始めた。
「さて、裕樹も先程、会社の内容が多岐に渡るって言っていたよね。それが何故かと言うと入社時にこの出張でみんなが見つけてきた人脈と商売の種の結果なのよ。」
それから例として、兄や姉がやってきた事を話してくれた。
「幸樹はカジノに行きたかったみたいですぐに海外に渡ったの。そこでお金を使いすぎちゃってほぼ無一文になったのよ。流石にそんな理由で親に頼りたくなかったようで、運良く住み込みで働かせてもらった家がIT企業の社長さんだったのよ。そこから気に入られて、色々と勉強させてもらっていたそうよ。
凛の方はたまたま街で見かけたイベント案募集で応募したら採用されたみたい。そこで一からデザインの勉強やイベントの企画なんかをやって過ごしたそうよ。だから、裕樹も行ってみたい所、やってみたい事を優先して2年間を過ごしてみたらいいと思うわ。」
何、その今明かされる兄と姉の幸運と才能に恵まれた体験談。
「僕が二人のようにうまく出来るとは思いませんが…」
自分が上二人とは違い平凡なことはよく分かっている。
「二人の例はかなり特殊な事かもしれないが、人の多い首都圏に行けば色々な人との出逢いがあるのは確かだよ。裕樹は人見知りもあまりしないし大丈夫だ。」
と、自信満々で言ってのけるお父さん。
「あと、住むところに関してはこのカードを使用してほしい。緊急の場合を除いて、幸樹のようにスイートに泊まるような事はしないように、シングルとの差額を給料から天引きさせてもらう。」
(兄さん、そんな事をしていたのか…)
その他、細々とした注意点を話した後、解放された。
そして、4月1日の朝。
「行ってきます。」
真新しいスーツを身につけ、春休みの間に準備をしたスーツケースを持ち両親に挨拶をした。
そんな僕にお母さんは手のひらサイズの小さな鍵付きの小箱を差し出した。
「この箱を大事に持っていてくれるかしら。」「はい。」
特に説明も無く渡された小箱をビジネスバッグに入れ、家を出たのだった。