1.出逢いは空から降ってくる
見つけてくださりありがとうございます。
「ふぅ、平日の昼間だと言うのにやっぱり人が多いや、でもせっかく来たなら店舗限定は欲しいよね。」
真新しいスーツを着て、大きなスーツケースを引きながら、逆の手で持つ巫女服を着た可愛らしい女の子キャラクターが描かれた手提げ袋を嬉しそうに持ち上げた。
どう見ても上京したてのオタクな新人会社員だ。
しかし、4月初旬の平日の柔らかな日差しが降り注ぐ昼下がり、入社式なども終わっているはずの時期に、ふらふらとグッズを片手に歩いていていい時間ではない。
その事に気づいた訳ではないだろうが、彼は人混みを避け、裏道に入って行った。
スーツケースから手を離すと、いそいそと袋から2つのストラップを取り出し手に取ると笑顔で眺め始めた。
手提げに描かれた巫女服の少女が六芒星のマークの入ったビー玉を両手で支えている姿のもので、全国でも、この店舗でのみ販売されているものだ。
特にご当地感のある見た目でははないが、このキャラクターが登場する物語で、初めて結界魔法を使用したとされる神社のモデルとなった場所が近くにあるためである。
「ミコトちゃん限定ストラップようやく手に入った。今まで旅行する機会が全く無かったからなぁ。」
ひとしきりストラップを眺めた後、スーツケースと携帯電話に取り付け満足気な表情を浮かべた。
「さて、これからどうしようかな?首都圏の方が出会いが多いとはいえ、上二人と同じように歩いてて、巡り合うなんて幸運が僕にあるとは思えない…」
スーツケースに腰掛け、携帯電話を片手にこれからの行動を考えていると、急に日差しが遮られたので、鳥かなぁ?と何気なく空を見上げた。
そこには見たこともない、薄水色の半透明なまん丸い物体があった。
正確には落ちて来ていたのだが、高度が下がるたびに大きさが比例して小さくなっていたので、真下から見ると同じ位置にあるように見えていた。
「ん?動いてる…っていうか、こっちに向かって落ちてきてない?」
雲の少ないよく晴れた空では、距離感が掴めない為、しばらく観察していると、同じ大きさだった物体が、今度はだんだんと大きくなってきているのに気がついた。
さて、そうなると次にする事は逃げる事だ。
しかし、頭では分かっていても、いざとなると全く身体が動かない、それでもなんとかその場にしゃがみ込み、スーツケースで頭を守る事に成功した。
その間も謎の物体はどんどん近づいていたが、しゃがみ込み下を向いているので確認できない。
どのくらいで到着するとも分からない衝撃をスーツケースを持つ手に力を込めて、震えながら待っていた。
その恐怖を嘲笑うかのように突然、足元が丸く光り輝いた。
突然の眩しさに思わず目を閉じてしまった。
その後、一瞬の浮遊感が身体を襲った。
その感覚は落ちる夢を見た時のような、車で落差のある道路を走り抜けたようなあまり嬉しくない感じだった。
◇◇◇
目を開けると先程まで見ていたアスファルトの地面がなぜか雑草混じりの土の地面に変わっていた。
あれ?っと思い、まわりを確認するために顔を上げようとした時、漸く上から謎の物体が落ちてきた。
何故か謎の物体の落下速度が落ちていたため、そこまでの衝撃はうけなかったが、気を抜いていたために耐えきれずスーツケースの重さをプラスした重量に負け、僕は押しつぶされた。
そういえば謎物体から身を守ってるところだったと思い出したが、残念ながら僕はそこで意識を手離した。