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2.アーサー・コナン・ドイル

作家活動期: 1888~1927


発明品: ワトソン役、村ミステリー、

     過去の忌まわしき事件


好きな作品: ぶな屋敷(1892)、

       マスグレーヴ家の儀式書(1893)、

       ノーウッドの建築業者(1903)



 名探偵シャーロック・ホームズを創造したドイル。言わずと知れた、世界で一番有名な探偵です。

 では、ホームズの最大の特徴ってなんでしょう。それは、探偵が主人公ヒーローであることです。読者はこの個性的な探偵に愛着を抱き、その探偵が事件を解明するだけで楽しいエンターテイメント小説。事件の謎が解き明かされた喜びとともに、ヒーローが痛快に事件を解決していくその過程が面白い。従来の推理小説を大きく変えたような気がします。

 シャーロック・ホームズが、他の追随を許さないほどに個性的な探偵であることは、処女作「緋色の研究(1888)」で語られています。地球が太陽の周りをまわっていることも知らないくせに、ワトソンとの初対面では、彼がアフガニスタンから帰国したところであることをピタリと当ててしまう。長身でパイプの愛好者であることは、ドイルがホームズに対してアメリカ先住民のイメージで描いていたからだそうで、拡大鏡ルーペを片手に(この時代はルーペが人気アイテムだったのかもしれませんね)、足跡の手掛かりを得るために床にはいつくばって捜査を行う。これまでの探偵像をくつがえした画期的なキャラクターです。

 ところが、この個性が、後世の作家たちから恰好の標的にされています。たとえば、アガサ・クリスティが想像したエルキュール・ポアロは、床にはいつくばれば自慢の服が汚れるから、わたしはそんなことは絶対にしない、と断言しています。それは、ドイルという成功を手にした偉大な作家へ対する対抗意識の表れです。逆に見れば、後世の作家たちはすべて、シャーロック・ホームズというキャラクターを意識しながらミステリーを書いているのです。

 しかし、ドイルのミステリー作家としての最も偉大な業績は、ドクター・ワトソンの想像といえるでしょう。謎解きの物語が、超人的な思考力を持つ探偵ではなく、凡庸なる一人の人物の視点を通しながら語られていく。いわゆる、一人称記述です。

 よくよく考えてみれば、通常の三人称記述よりも一人称記述の方が、ミステリーは圧倒的に作者有利に作用します。一人称記述の語り手が主観に走り、真実とは違うことを考え、事実と異なる記述しても、合法的に許されるからです。それに対して、三人称記述では、語り手の視点は神の視点の代用ですから、あからさまな嘘を書くことができません。

 一方で、一人称の欠点は、語り手がいない場所で進行する出来事が記述できないことです。クリスティが「ABC殺人事件(1936)」でヘイスティングス大尉による一人称記述を取っていますが、語り手がいないところで起こった出来事が真相解明のために重要であることで、『語り手の手記にあらず』という苦肉の策を用いますが、それほど一人称は魅力的なテクニックであるともいえるでしょう。

 とにもかくにも、あなたがミステリー小説を書く時に、一人称にするか三人称にするかは、とても重要な選択肢となることでしょう。しっかり検討をしてから、執筆に当たってください。

 閉鎖的な集落で起こる凄惨な怪事件。金田一耕助シリーズではおなじみの舞台設定である『村ミステリー』も、ドイルが創造したものだといえば、驚かれることでしょうね。村ミステリーの元祖作品は、ドイルが書いた「バスカヴィル家の犬(1902)」だと、わたしは思います。

 隣家までが数キロも離れている究極の田舎、ダートムアにて勃発した、バスカヴィル家の当主チャールズの変死事件。さらにそれより160年前には、当時の当主ヒューゴ・バスカヴィルが犯した少女監禁殺害事件と、それにまつわる不気味な魔犬伝説が……。 

 バスカヴィル家の犬は、『村ミステリー』と『過去の忌まわしき事件』の二つのアイディアが盛り込まれたまぎれもない傑作です。やはり美味しいミステリーにはホラーのスパイスが効果的ですね。

  ドイルから得た教訓:

 ミステリーは、読者に喜んでもらえれば、それが作者の勝利です。なかなか気の利いたトリックなんて、そうは思い浮かびませんけど、手軽に使えて、気の利いたスパイスだったら、ほら、そこに、ホラーがありますよ。

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