柊恵里の過去
序盤なので投稿頻度高めです。
「拓哉、もうHR終わったよ?」
「ん。そうか」
ボーっとしていて気付かなかった。というのも、昨日会った恵里が学校に来ていたのだ。みんな露骨に何かするというわけではないが、何となく雰囲気に違和感を感じる。
「間宮くん、少しよろしいでしょうか?」
「え?俺?」
「柊さん。もしかしたら知らないかもしれないけど、彼は女性恐怖症なんだ。だから...」
「いえ、それは知っています。そのうえでお話ししたいことがあるんです」
「それは僕もついて行っていいものかい?」
「信也、お前は俺の母親か。気にすんな。大丈夫だ」
信也は俺のことを中学生から知っているからか心配しすぎることがある。今もこちらを見て心配そうな顔をしている。普段は落ち着いてるくせに俺の女性恐怖症が絡むとこうなる。去年、「僕たちがBLの題材にされてるらしいよ」だなんていわれたときは本気でどうしようかと思った。
「とにかく俺は大丈夫だから先に帰ってろ。そんなに心配なら終わってから電話するから適当なとこで時間つぶしててくれ」
「分かったよ。君を信じる」
「柊。どうする?」
「では特別教室棟のほうに行きましょう。あそこなら人が少ないと思うので」
この学校は2つの棟に分かれていて、特別教室棟のほうは放課後人が少ない。というのも吹奏楽部だったりしない限りわざわざこちらに来ないのだ。あまり人に聞かれたくない話をするのにはもってこいの場所だろう。
先導する恵里を後ろから見ると、世間一般的に美少女といわれる部類なのだろうと思った。姿勢もいいし、肩甲骨のあたりまで伸びる髪は手入れがしっかりとされているのか艶がある。
「このあたりでいいでしょう」
「そうだな。ここなら人も少ないだろう」
恵里は特別棟についてしばらく歩くと立ち止まり、意を決したように口を開いた。
「まずは昨日のことを謝らせてください。ごめんなさい」
「いや、何がだ?」
「あなたの女性恐怖症のことを知らなかったとはいえ、昨日はあなたが嫌がるようなことをしてしまったことです」
たしかに目の前に女子がいたり引き止められようとしていたことは少し嫌だったが、俺のことを知らなかったのなら仕方がないことだと思うし、なんならその件は俺にも非があるともいえる。
「そのことなら気にしなくていい。ただ、そんなことを言いにここまで連れてきたわけじゃないだろ?」
「そう、ですね。少し長く待ってしまいますが聞いてもらえると嬉しいです。実は私、対人恐怖症というものだと診断されているんです。中学生の時にいじめられていたのが原因だろうとのことです。ものを壊されたり水を掛けられたりは普通でした。そんなわけで高校は他県に行き、高校生になってからも学校に行けずにいました。単位について心配しなくてよかったのは幸いだったかもしれません。事情が事情なので、特別にテストの点数がよければ単位をもらえることになっています」
「大丈夫か?」
声と身体が震えている。顔を見るのは避けたいから、泣いているかはわからないが、内容も決して気楽に話せるものではない。
「はい、話すと決めたのは私なので。あの日はたまたま学校に行っていたんです。流石に全く学校に行かないのは不味いと思って、週に1回は保健室に顔を出していたんですが、たまたまあなたと会ったんです。あなたの態度が気になって、保健室の先生にあなたのことを聞いてんです。私と似たような症状を抱えながらも必死に学校に来ているあなたが、本当にすごいと感じたんです。このままじゃいけないと思って、今日は授業を受けてみました。やっぱり怖いしつらかったけど、これから学校に頑張って来ようと思いました」
「だから、これから私を見守っていてくれませんか」
一呼吸おいて恵里はそう言い放つ。思ってもいなかった言葉に驚き、反射的に目を合わせてしまった。彼女のまなざしは力強く、なにより美しかった。10秒、いやおそらくそれ以上見つめあっていたが、思考力が復活してくると気恥ずかしさが出てきて目をそらしてしまった。
「わかった。だが、柊の話だけ聞くのもフェアじゃない。俺の話も聞いたうえで結論を出そう」
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