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聖女の首を拾ってしまった  作者: オッコー勝森
一章:聖女が日常に組み込まれてしまった
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心臓が一つ取られてしまった


 朝、八時二十分の教室。クラスメイトも大体揃ってる。

 突然、イタイ口調で高らかに喋り始めたやばい女子には、当然のこと注目が集まる。静まり返った。

 カアッと頬が熱くなる。

 テンパり過ぎてお嬢さまになってしまった。人は精神的に追い詰められると、たとえ定食屋の焼き芋娘であっても、つい貴族令嬢になることがある。


「あの。えと、演技? すごく上手いと思う」

「ご、ごめんあそばせ」


 見破られた上にフォローされた。恥ずかしい。手提げカバンを被る。御影さんに献上する用ゴ◯ィバの箱が、肩に乗った。今の私を見ないで。燃えるゴミに捨ててくれ。

 待てよ。キュピンと来た。粗末な脳みそに閃光が走る。

 演技と分かる。つまり播磨くんは、普段の私を知っている?

 播磨くん、私のこと、もしかして視界に入ってた?

 キャーと叫んでハッスルパイナップルダンスしそうになったが、どうにか堪える。深読みだったとしても嬉しい。カバンからそっと顔を出した。ほっぺた、赤くなってないかな?

 大丈夫かな? 播磨くんに目線を送る。遠慮がちに。


「…………」「…………?」


 目を伏せて黙りこくる彼。首を傾げる。


「播磨。用があるなら早く言ってあげれば? 朝礼もうすぐだし、一時間目は未韋の苦手な幾何だから。予習しなきゃなんだよ」「あ、ごめん」


 シュンと謝る播磨くん。かわいい。そして御影さん、学校一美少年(当社調べ)の彼に対してよくそんな素っ気ない態度が取れるな。子猫と大人猫を同じように扱いそう。

 というか。赤点確実の苦手科目だからって、あんな魔界の学問を予習とかするわけないだろ。図形問題の絵をベースに落書きするだけ。さてはお前、御影さんの偽物だな。

 成子知ってる。定食屋経営に幾何学はいらない。

 宇宙に逃避した私の心は、播磨くんに引き戻される。


「ま、未韋さんって」「はひ」

「今朝、テレビ出てたよね!」「う、うん!」

「すごいよ! 店長になるって、立派な目標!」「そ、うかな……」

「すごかった! かっこよかった!」「えへ、へへへ」


 照れる。もはや溶けそうだ。最近幸せ過ぎるな。多分今日死ぬのだろう。異世界でフレンチレストランの店長になります。

 播磨くんは微笑んだ。微笑まれた。蕩けるような笑み。まぢ破壊力。

 小さな妄想と陳腐な語彙レパートリーでは彼の魅力を捉えるに足らず、私の心はいとも簡単に調理される。食べられちゃうよ。国語の勉強だいぢ。


「うん。それが言いたかったんだ。ごめんね。邪魔して」

「ジャマ?」


 言葉の意味が一瞬分からなかった。播磨くんが何かの障害物となるという発想が一切なかったから。たとえ彼がわざと私たちの邪魔をしていたとしても、世の中的には、邪魔な存在とは私たちの方を指すのである。

 罪悪感で胸が締め付けられる。どうして隣の女は、のほほんと笑ってられるのだろう。彼に心苦しい思いをさせた時点で、二人で心中すべきなのに。

 許せない。くっ。


「そろそろ朝礼だ。えっと。じゃ、またね」

「また? またということは、またということですよね!? すなわち、またということで、再会の機会があるということですか!?」

「えっと。また喋れたら、僕としては嬉しい……!」


 彼はそう言って、頬を掻く。

 かわええ。心臓を射抜かれた。持っていかれたかもしれない。

 心臓がなくなった。キ◯アの一族出身なのかよ播磨くん。

 本望だ。臓器移植にでも夕食のソテーにでも、なんにでも使ってください。

 美少年は、自分のクラスに去っていった。呆けていると、脇腹を小突かれる。


「ねえ。未韋。未韋成子。ちょっと」「燃え尽きたぜ。真っ白に」

「早過ぎる。燃え尽きてる場合じゃないって。あれ。あんなテンパってた播磨、見たことねえ。もう滑稽でやばかった。面白い」


 興奮する御影さん。人肉の味を覚えたヒグマの如く咆哮を上げた。


「断言する。絶対脈アリ! スクープ! スクゥウウゥプ!」

「脈?」


 手首を指で抑える。ドクドク、リズムを刻んでる。

 左胸を抑えた。ちゃんとバクバク言ってる。

 額から冷や汗が落ちる。驚愕の事実が発覚した。


「人間の心臓って。一つじゃなくて、二つあったんだなぁ」


 キーン、コン、カン、コーン。

 朝の間延びしたチャイムが響く。担任が教室に入ってきた。

 御影さんは眉を顰める。落ち着いた口調で諭してきた。


「いや。一つじゃね?」「知ってるけど」


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