表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の首を拾ってしまった  作者: オッコー勝森
二章:聖女の非日常に組み込まれてしまった
18/64

異国情緒にアテられてしまった


「見えてきました! 大陸がっ」「なに大陸?」


 うつらうつらとしていると、メロウが声を張り上げた。新大陸発見! みたいなテンションだ。彼女の指差す方向、つまり真正面を眺める。

 確かに陸地だ。

 現在、日本時間でちょうど正午。真夜中の日本海で目覚めてから、およそ半日過ぎたことになる。途中休憩を二回挟んだ。名前も知らない小島で。食べ物はなかった。だからお腹が空いている。


「おっぱい吸いますか?」「出るの?」「出ません。今は」


 無数のゴミが打ち上がる、汚い浜辺に降り立つ。誰もいない。遊泳や観光用のビーチじゃなさそう。「人間って愚かだねぇ」「ですよねー」と言い合いながら、障害物を跨いでゆく。

 足を止めた。苦笑いする。目の前には、鬱蒼とした森が広がっている。


「ここを通るの?」「はい。森のお散歩です」

「お散歩? 訓練かサバイバルか行軍の間違いでしょ」

「安心してください。成子ちゃんはおんぶしてあげます」

「飛ばないの?」「誰かに目撃されたら面倒です。消すのが」


 怖い。メロウ金髪なんだし、サ◯ヤ人に間違えられるくらいで済むって。

 それはともかく、嫌な予感しかしない。メロウに尋ねる。


「ねえ。今日って一応クリスマスだよね?」「はい。それが何か?」


 イラッとくる。お前、クリスマスには定食屋「まだい」で何か特別なイベントをやるべき的なこと言ってたじゃん。結局何もやらないんだけどさ。

 ウェイトレスしてたら播磨くん来たかもしれないのに。


「では行きましょうか」「待って。お母さんたちに連絡しなきゃ」

「ああ。すでに、成子ちゃんを二日くらい借りると言ってありますから」

「なんで了承したんだバカぁ。沐美は?」

「未韋夫妻に世話するよう頼んでます。さあ。背中に乗ってくださいな」

「播磨くんに連絡してからね」


 スマホを取り出す。充電が心もとない。『金髪の悪霊と旅行してまーす』というメッセージを送った。ツーショット写真付きで。


『そっか。楽しんできてね』


 あまり楽しめる状況じゃありません。

 手始めに森を突っ切るらしいです。やばいですね。

 メロウの背中に乗る。


「しっかり掴まっててください!」「シートベルトはどこ?」


 メロウは答えず、強く踏み込む。地盤が円状に陥没した。

 自称聖女号(ガン◯ム)発進。


 成子、逝きます!


◇◇◇


 生き延びた。私偉い。

 道中の記憶は曖昧だが、とにかく街に着いた。ひび割れたコンクリートの往来を行き交うたくさんの人。道の両脇にぎっしりと並ぶ数々の露店から、活気のいい呼び込みがかけられている。

 言葉は分からない。

 醸し出される異国情緒に、漠然としたワクワク感を覚えるとともに、未知なるモノに対する恐怖も抱く。メロウの手をギュッと握った。


「さてと。昼ごはん食べますか」


 コクリと頷く。お金は、前もって両替していたのを持っているらしい。

 テキトーな定食屋に入った。意外にも綺麗だ。メニュー表を開くと、知らない漢字がずらりと並ぶ。多分中国語。正式名称は分からないけど、肉と野菜とピーナッツを炒めた料理を頼む。

 店員さんから何か言われた。困りきってメロウを見る。


「賢そうな子だね、ですって」

「そ、そう? えへへ」「这孩子是个白痴」

「へえ。メロウ中国語話せるんだ。なんて?」

「『この子はおバカちゃんです』」「キーっ!」


 ムカつきつつも反論出来ず、ただただ喚くしかない。今のやりとりで大きなストレスが溜まった。運ばれてきた料理を大口開けて食べる。暴力的な美味しさだった。

 メロウに頼み、店長と思しき人からレシピを聞き出そうとする。失敗。


「食べ終わりましたか? 食べ終わりましたね。では次行きましょう」

「食べてからすぐ動くのは良くないよ。休もう。杏仁豆腐頼もう」

「旅程はたったの二日しかありません。キビキビ行きましょう」

「え〜……」


 唇を尖らせる。思ってた旅行と違う。

 近くのバス停――標識の手作り感が半端ない――で小型バスに乗り、街を出る。たちまち車体が揺れ始めた。悪路だ。

 元々乗り物酔いを起こすタチではなく、慣れてくれば、バランスを取るのも難しくない。スマホの電源を入れて、自然豊かな外の景色を撮影する。

 一時間半ほどのち、降車した。さすがにおしりが痛い。

 辺りを見回す。動物の鳴き声が、あちこちで響いてる。秘境の入り口、って感じの場所だ。間違っても人間の居住区域ではない。モンスターや恐竜が生息してそう。


「もう森とか飽きたんだけど」

「さっき通り抜けたのとは全然違う森ですよ」

「森は森じゃん。やだなぁ。霧かかってるし。人間嫌いのティラノサウルスとかいるかも」

「では進みましょう。人の顔はなぜ前についているのか。前へ進むためです」

「顔がついてる方が前なんでしょ……って待ってよ。まだ心の準備がぁ!」


 慌てて追いかける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ