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聖女の首を拾ってしまった  作者: オッコー勝森
一章:聖女が日常に組み込まれてしまった
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嫌がらせされてしまった


「もうすぐ期末テストだなぁ。やだなぁ」


 道端の小石を蹴った。コンクリートで舗装された、汚い小川に落ちる。

 ただいま帰宅途中。腕時計を見る。三時五十分。


「播磨くんと勉強会出来たらいいんだけどなぁ。ゼロ点とっても……ぉっ!」


 サッと振り返った。だるまさんがころんだスタイル。

 誰もいない。誰もいないように見えるが、先ほどからずっと、ネトネトした視線を感じる。被害妄想なんかじゃない。

 尾けられてる。ファンクラブのメンバーで間違いない。(私含め)奴らのストーカースキルは高い。日頃から鍛えられてる。当初は播磨くんに怪しまれてたが、最近ではまったく気づかれずに追いかけられる。


「…………」


 敵意。害意。なんなら殺意。自慢じゃないが、カンは良い方だ。

 ブルリと震える。気持ちのいいものじゃない。走って帰る。


「はあ、はあ」「お帰りなさい成子ちゃん」

「ただいまメロウ。あれ。今日は分身じゃないんだ」

「そうですねえ。あんまり結果が振るいませんので」


 結果? 首を傾げる。客引きでもしてるのだろうか。自称聖女パワー「洗脳」でも使えば良かろうに。回数制限とかあるのかな?

 自室に手提げカバンを置く。割烹着風エプロンに着替えた。

 階段を降りると、下でメロウが待っている。


「あの」「どうしたの?」

「いえ。えっと。もうすぐクリスマスですよね? 特別なイベントとかやったりしないんですか? その日だけ真鯛の刺身出すとか」

「知ってると思うけど、『まだい』ってただの苗字だから。ウチは何もやってないよ。毎年。街の定食屋さんに、そういうのが求められるとは思えないし」

「えーもったいないですよ! なんかやりましょうよ。クリスマスなんですよ!」

「あ〜。シスターだから?」「私はキリシタンじゃないです」

「え? マジかよ」「あんな邪教徒どもと一緒にしないでください!」


 メロウが口を尖らせる。あんたの方がぶっちぎりで(よこしま)だろうが。

 裏口玄関から音がした。沐美も帰ってきたようだ。今日からウチで戦力になる。

 しっかり稼げよ奴隷兵。

 メロウに向き直る。


「クリスマスイベントって。準備とか大変じゃん。何すればいいかも分かんないし。スベったら辛いし。お父さんかお母さんに相談しなよ」

「しました。却下されました。とりつくシマもありませんでした」

「あの温厚なお父さんとお母さんが? どんな提案したの?」

「近所の未婚者拉致って派手な合コン! 司会は私、聖女兼セクシーサンタ! 飲めや歌えやどんちゃん騒ぎ! 真鯛の刺身を女体盛りじゃい! 計画です」

「却下に決まってるだろ。サンタの代わりに警察来るわ」

「賑やかになりそうです!」


 喜ぶメロウ。警察を賑やかし要員に使うマッチング定食屋など、この世に存在していいのか。確実にブラックリスト行きだ。

 頭が痛い。コメカミを押さえる。


「賑やかに鳴ってるのサイレンだから」


 閉店後の夕食時、自称聖女の持ち込み企画を家族みんな一致団結してぶっ潰した以外、その日は特に何事も起きなかった。仕込みの手伝いはほどほどにして、疲れたので九時半に眠る。

 牛乳を飲んでから。メロウ並みに色々大きくなあれ私。

 メロウから駄肉を引きちぎり、自分に引っ付ける夢を見た。幸せだった。

 朝の六時に起きる。湯たんぽ代わりに抱きしめてた沐美が、ベッドから落ちてた。メロウの掛け布団を奪い、縮こまってる。剥き出しのパジャマシスター。

 寒そう。まああいつなら大丈夫でしょ。

 充電ケーブルをスマホから抜く。電源をつけた。


「なんじゃこりゃ」


 通知をオンにしているSNSアプリすべてに、「100+」の赤マークが浮かんでいた。匿名のアカウントから、私への誹謗中傷がたくさん届いている。

 バカだの貧乳だの。うるせえ。「バーカ!」スタンプを連打する。


「ひょっとしてツ◯ッターも?」


 定食屋「まだい」のアカウントは私が管理している。自分自身のは持ってないが。高校に進学したら作る。高校に行けたらの話。

 頬を引き攣らせる。とにかく店の品格を貶めようとする、朝から気の滅入るような内容のリプが、ずらっとツリー状に並んでいる。つら。

 全部捨て垢だし。特定は不可。ファンクラブの連中だと思うけど。

 誰にも反応されていないのがせめてもの救いだ。


「こんちくしょうがっ。こんちくしょうがっ」


 秘伝の調理で進化した挽肉をこねくり回し、定食用のハンバーグを作りまくる。「作り過ぎだよ成子」とお父さんに注意された。

 帰宅時、また尾けられる。翌日、翌々日ともに。

 ネット上のストーキング、物理的なストーキング。


「うわ。機嫌悪そう。ごめんね。不用意に『スクープ』とか言っちゃったばかりに」

「いーよいーよ御影さん。先生から盗んだテスト情報を全部よこせ」

「ちっ。これで貸し借りなしだから」


 あーあ。かわいそうな私。勉強が手に付かないから、ズルしても仕方ないわ。

 御影さんはまあいいとして、ファンクラブの所業には頭に来てる。播磨くんとは、少しお話させていただいただけなのに。なんてモラルの低い連中。

 いいだろう戦争だ。

 沐美に命令し、嫌がらせストーカーどもの背後に付かせる。

 自宅ではなく、ホームセンターの方角に向かう。必要な物を買いに行くような演技も合わせる。で以って、さりげなく道から外れていく。

 小さな公園にたどり着いた。ここで誰かが遊んでるのを見たことはない。

 今日のストーカーたちが誰かは、沐美からのメッセージで判明した。二人いるらしい。どっちも運動能力は中の下。喧嘩なら勝てる。

 お母さんから受け継いだ血が滾る。ちょっとお灸を据えてやれば、牽制にはなるだろう。

 立ち止まり、後ろの彼女らに語りかける。


「いい加減にして」


 勢いよく振り返った。


「私はただ、運が良かっただけなんだから――あ?」


 五メートル先、宙に現れたのは、「黒いヒビ」としか形容出来ない、得体の知れない何かだった。

 ポカンとする。

 あれは確か、ニュースでやってた。

 パカリと開くヒビ。ソレ(・・)はヌルリと落ちてくる。

 二メートルくらいの長身。滑らかなフォルム、だが機械チックな、目のない怪物。

 彼、または彼女は手足を開き、静かに起き上がる。

 鋭いカンが告げてくる。私、というか人に勝てる相手じゃない。


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