風の足音
川辺から吹き上げてくる風は葦の葉のざわめきをさざ波のように連れてくる。
葦の葉のざわめきは、今は遠くに逝ってしまった人たちの物語を語っているのだと。
教えてくれたのは・・・誰だったか。
そう祖母のパンドラ・・・彼女しかない。
かつて確かに存在した人達の物語に、彼女はいつも耳を傾けていた。
そして話してくれるのだ。気の遠くなるほどの果てしない話を。
今はもう、そのパンドラも葦の葉のざわめきの中にいる。
そうして、誰かに自分の話をささやき続けているのだろうか。
川辺に独りたたずんで、葦の葉のざわめきが近づいてくるのを待っていた。
だが、時とともに、川面のきらめきも、吹きあがってくる水のにおい、葦の葉のささやきも静かに静かに遠ざかっていった。
おとなになるということは、そういうことなのだろう。
そして、川辺から足は遠のいていった。
また今年も、木枯らしが吹く季節になった。
頬にあたる風が冷たい。手を頬にあて首をすくめる。
足音が枯れ葉をカサコソと転がしながら、ついてくる。
立ち止まると止まり、また歩き出すとついてくる。
歩調を合わせながら。
それは、かつて確かに知っていた、懐かしい気配。
木枯らしに枯れ葉がカサコソついてくる。
風が吹くたびに背中で感じる遠い記憶が枯れ葉とともにささやきつづける。
花宮璃星作画(透明水彩・みてみん・挿絵用)