第83話
暗い夜、雲が月を僅かに隠す。月光がほのかに赤を照らしている。
「あー、アダムさんさ」
戦況は理解している。
だからこそ、東海岸にいたミカエルは通信を入れて一つの提案をした。
「こちら敵影なしだそうで、西海岸の方に援助に向かった方がいいかな?」
リーゼを乗せた巨大な戦艦など、ステルス機能を積んでいたとしても発見されるだろう。何より、戦略的に集中させた方が攻める側としては成功率の高い方法だ。
『…………』
「迷う時間は無いと思うけど?」
『そう、だな』
「そもそも、こっちの防衛に関しては完全に俺一人ってわけでも無いんだし」
先の戦いで彼は一人で迎撃を行ったわけだが、別にアスタゴ東海岸の防衛基地に無防備に彼一人だけを設置しているわけではなかった。
ただ、単純な話、彼一人で戦力が事足りると言うだけの話だったのだ。
「街の方にも入ったみたいだからね」
なら、出来る限り早く撃退した方が良いに決まっている。
『ーーっ、分かった。ミカエル、シャドウへの対処にあたってくれ』
「了解」
直ぐにズシンと地面を揺らす音が響いた。
『おい、ミカエル! さては最初からそのつもりだったな!』
タイタンが動いた事で起きた地響きの音で、通信機の向こうにいるアダムも気がついたのか、少しばかり声を荒げた。慌てている様に感じるが、仕方がないというような感覚もある。
アダムの推測通り、ミカエルは既に乗り込んでおり、タイタンを起動させていた。
「というか、あの戦いから全然こっち側から攻められてないんだよね」
三機のリーゼを逃すこととなったあの戦い以来、東海岸からの攻撃は無くなり、ミカエルは退屈に耐えかねていたのだ。
戦争において、ミカエルというアスタゴ合衆国最強の戦力を使わないのは勿体ないとも思える。
「それに、ちょっとは楽しめそうだ」
敵国のリーゼの上げた戦果。それが今まで以上の高揚感を覚えさせる。
もしかしたら、自分を楽しませてくれる好敵手がいるやもしれない。そんな理想が彼の頭の中に湧き上がる。
『はあ……、全く最強は頼りになるな。それで勝率はどうなんだ?』
楽しませてくれるかもしれない。
だが、その果てでも自分には及ばない。彼の思考に変化などない。その未来は揺るがない。そうであることを彼は信じている。
「百パーセント。俺が負けるビジョンなんて一切見えないよ」
傲慢とも取れるミカエルの発言に、人は何を思うのだろうか。
ただ、彼の言葉を聞くアダムは、ミカエルに全幅の信頼を置いている。彼が言うのだから間違いはない。アダムはミカエルの強さを知る人間の一人であるから。
『そうか、頼んだぞ』
アダムに言われるまでもない。
最強が大きな一歩を進める。紅の巨神はもう一人の最強に近づいていく。




