第72話
太陽は西に傾いている。それでもまだ明るく、海を照らしていた。この海を行けば、戦場へと辿り着く。
アスタゴへ向けて出港する船の中に乗り込む時、阿賀野らは黒い巨大な機体を目にした。見慣れている機体。どこか見慣れない機体。
顔も体も半分ほどがむき出しになっている。黒色が剥がれたような鉄色の体。それは不完全に見える。無理やり、パーツを寄せ集めたかのようだ。
「これじゃ、つぎはぎの巨神とでも言うべきだな……」
製造費用が足りていない。
見た目だけすらも誤魔化すことができなかった最後の一機。能力は、リーゼの機能を最低限保っている程度。
誰が乗るのか。
こんな命知らずな物に。命を預けるには、あまりにも欠陥だらけの神に。
「ーーおい、九郎、岩松」
阿賀野が九郎と美空の二人に呼びかけた。二人は何のことだと思い、振り返る。
「コイツは俺が貰う。俺が使うからな」
気に入ったのか、彼は笑みを浮かべながら告げて、すぐ横にあるつぎはぎのそれを右手で叩いた。
「好きにしたら、四島」
「君がそれで良いなら構わないけど……」
二人も大した興味はないようだ。
物好きな最強が勝手な事を言っただけだ。
「本当にそれで、勝てるのか?」
九郎の質問を阿賀野は鼻で笑う。
「はっ、舐めんなっての。この程度、ハンデにもなりゃあしねえよ。それにこれで勝てたら、本気で最強だろうが」
自信に満ち溢れたその声に、九郎は溜息を吐く。阿賀野は自らの勝利を一ミリも疑ってなどいない。
「さっさと中に入んなきゃ、いつまでも出航出来ないよ」
九郎が甲板にある扉を開いて船内に歩みを進めた。
「期待してる、四島」
ヘッドギアを彼らはまだ、身につけてはいない。そして、彼らはお互いのことを認識している。お互いの顔を認識している。
問題となっていないのはここにいる全ての人間が、それを黙認しているからだ。
何の人員チェックもなかったわけがない。
人員のチェックはあった。
ただ、その点でも都合が良かった。結局、誤魔化すことができたからだ。
顔を見て、確認をする。どうあっても間違うわけがない。意図的でもない限り。
そう、意図的でもなければだ。
「よし、お前ら任せたからな」
缶コーヒーを手に持った佐藤が阿賀野らに告げる。佐藤の声は船内に入っていった、彼らには届かない。
「ーー俺も頑張るとするか」
缶コーヒーを飲み干して、覚悟を決めたような表情を浮かべた。
「さてと、戻るか。……流石に、このことがバレたら岩松のオッサンがどんな行動をするかもわからねぇな」
佐藤も戦争に勝たないと言うつもりはない。
戦争に勝利すると言う目的があった。この目的は元々、誰しもの共通のものだった。だから、戦争に勝つ為に阿賀野を連れてきた。サポートの為に九郎を雇った。
「戦争にゃ、勝てるかね……」
もう、分かっている筈だ。
そこまで佐藤は愚鈍でもない。
だから、ため息ばかりが漏れてしまうのだ。




