第54話
「…………」
思い出すな。
震える手を止められない。ガチガチと歯が上下に震える。怖い。
転がっていたのは仲間。
「あ……」
何で、自分はここにいる。
船の中の一室、一人きりで飯島は自問する。
撤退をしてきたリーゼを乗せて、船は海岸から直ぐに離れた。幸いな事に敵はたった一機のタイタン。本当にあれだけだった。
舐められていたのではない。
あれが居るだけであそこの防衛は完璧だったのだ。それ以上は必要がない。誰にも突破ができないから。
「あ、ああ……」
山本が死んだ。
呆気なく、簡単に殺された。
そこには一切のドラマがなく、無機質に殺された。山本がどんな顔をしていたのか、どんなことを考えていたのか。
知ることなどできるはずもない。
「何で、俺が……」
飯島は生き残ってしまった。
山本も松野も死んだ。誰のせいで。松野が死んだのは、飯島が護衛につかなかったから。あれは飯島でも良かった。
山本が死んだのは、力が足りなかったから。
全てにおいて、飯島に帰結する。
「俺のせいで……、俺の責任で……」
実機訓練の際に飯島が自分勝手なことをしなければ松野は死ぬことがなかったのか。
感情的にならなければ、あんな事にはならなかったのか。
何もわからない。
脳内には九郎の言葉が浮かぶ。
ーー今日の君の行動は、未来の誰かを殺す。
ああ、その通りだった。
こうして何人もの人間を殺してしまった。
テオ、バルドゥル、オイゲン。彼らを殺してしまった。
彼らにだって人生があった。必死だったはずなのに。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
責任か。
自罰を求めていたのか。
呪いのように重たく絡みつく。足をつかんで、それは責め立てる。
脳内では呪言を紡ぐ。不気味な音が響いて、不協和音のように呪言は重なる。
『何でお前は生きてる』
『私たちが死んだのに、何でお前だけ』
『俺たちが死ぬ必要なんてあったのか』
『お前が死ねば良かったんだ』
『死ね』 『死ね』『死ね』
『死ね』 『死ね』 『死ね』
『死ね』 『死ね』 『死ね』
『死ね』
『死ね』 『死ね』
『死ね』
「ひっ……!」
恐怖を感じて飯島は転んで慌てて四つん這いで歩く。
「嫌だ、来るなっ!」
自分の身を守ろうと最大限縮こまる。手を振って、近づいてくるものを追い払おうとする。誰も居ないはずなのに。言葉を話す存在などいないのに。
「ごめんなさい……。俺が、俺のせいで。俺に責任が、俺が悪かった俺が間違ってた俺が死ぬべきだった俺が殺されるべきだった俺が俺が俺が俺が……」
涙を流して、彼は呟いた。
頭の中で響く言葉は止まない。止むわけがない。
「だかっ、ぅるしてっ!」
呂律が回らなかった。子供のように見える程に彼の精神はボロボロだ。
右手親指の爪を噛んで、彼はガタガタと隅で震えていた。
「ごめんぁさぃごめんぁさぁい……」
許しを乞うても与えられるわけがなく。彼は幻覚を見て、幻聴を聞く。
飯島はもう壊れかけている。




