第43話
「よう、二人とも」
阿賀野は訓練施設の玄関で偶然にも山本と飯島に出会した。
「阿賀野か、久しぶりだな」
「そんなに久しぶりでもねぇよ」
「そうだったか……」
山本は受け答えをするが、飯島は黙ったまま何も返すことはない。戦争での出来事が予想以上に精神的なダメージを与えたのか、何もできなかった自分を責めているのか。
「お前は……」
ポツリと彼は突然に話し始めた。
「あ?」
「お前は分かってたのかよ……」
松野が死ぬと言うことが。
そう飯島が言えば、阿賀野は溜息を吐いた。
「知るかよ、んな事。でもな、戦争で誰かが死ぬなんて普通だ。それで松野が死んだだけだ」
松野が死ぬのは仕方なかったのかもしれない。そう思って受け入れるべきなのだ。
「……見たんだろ。やったんだろ」
彼は確かめるようにそう言うが、その言葉を放った阿賀野は、結局のところそうであると言う確信を持っていた。
「人が死んでいくところを。人を殺したんだろ」
阿賀野は飯島の腕を力強く掴んで目を見て、続きを言う。
「その目で、この手で」
阿賀野の言葉によって、この場所の雰囲気は重苦しいものになる。
「まあ、お前じゃなくて良かったな」
それは阿賀野が飯島が最も死にやすいと考えていたから。励ましの言葉でも何でもなく、単純にそう告げた。
パッと手を離して、阿賀野は飯島から距離を取る。
「ああ、松野の次に行くやつは決まった。間磯が次からは行く事になった」
「次って……」
何を言っているのか。
飯島は考えないようにしていたのかもしれない。初めから決まっていたはずの事であったと言うのに。
「おいおい、今回の戦争の最初の目的忘れたのかよ。リーゼの試験的導入だっただろ。すぐにアスタゴとの戦争が始まるぞ。今回以上に人が死ぬ」
阿賀野の指摘に、山本も飯島も言葉を失った。
絶望的な状況だと言うのに、阿賀野はこの状況を全く絶望だとは思っていないようだ。
「ーーそれと、飯島。生き残りたいなら非情になれよ。そのまんまじゃお前、次こそ死ぬぞ」
戦争に行ったという癖に、阿賀野以上に、飯島は戦場というものを理解できていないように思える。情というものを持つからか、彼は壊れやすく、脆く、危険なのだ。
「次の戦場は今回以上にヤバい事になるみたいだからな」
陽の国、マルテア、グランツ帝国のリーゼと同等のタイタンの存在が明らかになったからだ。
「そういやお前ら、ロッソは見たか?」
阿賀野がそう尋ねれば、山本は首を捻った。
「ロッソ?」
「アスタゴの機体だ」
阿賀野が短く簡潔に返すと、どうやら二人ともタイタンの姿は見ていないようで、山本が首を横に振った。
「そうか。見てないのか……」
山本達と話す事もなくなったのか、阿賀野は会話を打ち切りトレーニングルームへと向かって歩き始めた。




