第41話
時刻は夕方、五時に差し掛かり、トレーニングルームには赤い光が差し込んでいる。夕日の光はどこか不気味さを感じさせる。
「阿賀野」
「ん、ああ。間磯か」
トレーニングルームで阿賀野がいつも通りにトレーニングをしていると、間磯が入ってきて話しかけてくる。
呼びかける声に顔を向けることもなく、阿賀野はトレーニングを続ける。
「松野が死んだらしい」
「そうか」
間磯の言葉には興味も何もない。そんなことを聞いたところで、阿賀野にはどうでも良いことで、彼にとってはトレーニングをすることの方が重大なのだ。
「何でそれを俺に?」
「だって、さっき教室に居なかっただろ?」
「ああ、そう言えば」
「まあ、一応伝えておくべきかなって」
教室に来た坂平が間磯達に戦争が終了したことや戦争による被害などを教えてくれたのだが、その場に阿賀野が居なかった。
どうしてか。
それはこの通り、トレーニングをしていたからだ。
「……死んだか」
阿賀野は無感動に呟いた。
「この後、松野が死んだ理由を知れるらしいから、教室に来た方が良いんじゃないか?」
阿賀野はトレーニングを止めて、ベンチプレス台から起き上がった。
「そりゃあ興味があるな……」
何が松野を殺したのか。
「そう言えば、竹崎は引き篭もっちゃったみたいだ」
どうでも良さげに間磯が告げると、阿賀野もどうでも良さげに「そうか」と、相槌を打った。
「それなら、川中がどうにかするだろ」
「そうだね」
川中という少女は優しくて、竹崎を放っておくことはできないだろうから。
「先戻ってろ」
「一緒に行かないのか?」
「お前と戻る必要はないからな」
阿賀野は器材を片付けながら答えると、間磯は待つつもりは無くなったようで、扉を開けたまま、トレーニングルームを出て行った。
「ーーへぇ、飯島が生き残ったか……」
正直な話、阿賀野は今回の戦争で誰かが死ぬ可能性があると考えていた。ただ、それは相当に低い可能性ではあった。
その中でも阿賀野は飯島が最も死ぬ可能性が高いと思っていたのだ。反対に死ぬ可能性が一番低いと予想していたのは山本であった。
実力では飯島が最も上ではあったが、感情的になりやすいという性質は戦争では死に繋がりやすいと考えていた。
成る程な。
一つ息を吐く。
「やっぱり、戦場は運がなけりゃ生き残れないってか。まあ、そんなの俺には関係ないんだけどな」
阿賀野はへらりと笑った。
陽の国にとっては一人で済んで良かったのか。それとも誰かが死ぬと言うこと自体が予想外だったのか。
「にしても、何があったんだか」
リーゼパイロットが死ぬと言う可能性自体は本来、低いものであったのだ。
「……何が見れるんだろうな」
好奇心が湧き上がる。
鼻歌が聞こえてきそうなほど、楽しげな雰囲気を醸し出しながら、ワイシャツと赤いジャージを右手で持ち上げてトレーニングルームを出て行った。




