表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傲慢な戦士:偽  作者: ヘイ
36/117

第34話

 中英国との戦争が始まり何日かが経過した。

 日が暮れて暗く、人気のない施設裏に一人の少女がいた。

「死ね! 死ね……!」

 少女は叫ぶ。

 薄紫色の髪を揺らしながら、彼女は木を蹴り続けていた、感情を露わにして。

「あのクソジジイ!」

 その少女の表情はいつも以上にハッキリとしていて、普段の彼女からは予想もつかないものであった。

 一心不乱に暴力をぶつけ続ける。気に食わないという思いを抱いていながら、誰にも見せることができなかった。

 木を蹴り付けていると背後から、ガサッ、と音がして彼女は振り返った。

 薄紫の髪が月光に照らされる。

 その髪色と似た、薄紫の瞳には一人の少女が入り込む。

「川中ーー」

 薄紫色の髪の少女の目に映ったのは、候補者の女性四人のうちの一人。

 水色メッシュのショートカットヘアーの白髪の少女。身長は少しばかり薄紫の少女より高い。

「何してるの、岩松?」

 名前を呼ばれて、瞬間に興奮していたような表情はすっとなりを潜めた。

「別に何もしてない。川中はなんでここに来たの?」

「ちょっと夜風に当たりたくて。あんまり天気は良くないけどさ」

 たははと、彼女は笑う。暗くてよくわからないが、確かに月は隠れない程度には雲が浮かんでいる。

「そうなんだ」

 素っ気無く答えて、彼女はその場から離れようとする。

「ねえ、岩松。何もないことないよね?何かあるなら、相談に乗るよ?」

「ーー私のこと岩松って呼ばないで」

 振り返りそう告げる。

「えっと、じゃあ……。美空(みく)ちゃん」

 そう名前を呼んで、ニコニコと柔らかな表情を浮かべる。

「何?」

 感情は薄く、興味も薄いのだろう。

「私にできることは、話を聞いてあげることくらいだから……」

 川中は優しく呼びかける。

「……私はここにいるほぼ全員の事情を知ってる。……川中は優しすぎる」

 

 ーーだから、裏切られるんだ。

 

 静かな暗闇に音が響く。

 川中が投げ掛けた言葉は美空の心には全く響かない。その返す刃に川中のトラウマが抉られる。

「認める、川中は優しい。それは美徳」

 それだから。

 それ故に。

 それ以上の理由はなく。

「『川中なら、助けてくれるよね……?』」

 彼女の言葉に川中は目を見開く。

 聞き覚えがあったから。

「ーー川中は今日、何も見てない」

「…………」

 何も言えない。

 はくはくと口が開いて閉じてを繰り返す。

「分かった?」

 川中は黙りこくってしまう。

 その言葉を知っているはずがない。何故、彼女がその言葉を知っているのか。そんな疑問が湧いてくるが、答えは見つからない。思考に潜る間に、時間は過ぎていく。

「誰かの罪を被るなんて、そんなの優しさなんかじゃない」

 美空は川中の横を通り過ぎて行ってしまう。

 川中は呆然としてその場に立ち尽くしたままだ。

 美空がこんなことをしなくとも、きっと川中は誰にもこのことを話すことはなかったはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ