第28話
未開の地を切り拓いて行くかのように四十メートルを超える巨体が先頭を歩く。
緑に輝く目と、細くしなやかな黒色の体。それでもその体に誇る力強さは戦車を踏み潰すほど。左肩には十字のような逆さの剣の様なものが描かれた青い同盟旗、右肩には赤い太陽を模した陽の国の国旗が着いている。
左手に握られた中距離砲が発射される。
放たれた弾は敵を蹂躙する。
『三部隊に分かれて攻撃を開始せよ』
木々の奥へ、その三つの巨大な影が進んでいく。仲間からしてみればそれは頼りになる巨大な戦士。敵からしてみれば最悪の巨神。
パイロットが身につけたヘッドギアから耳に響く機械音声のような司令の声。
「ははっ、逃げろぉ!」
陽の国の言語で愉快げな声が戦場からは聞こえる。
リーゼの姿を見て、恐れをなしてか中栄国の兵士たちは撤退を始める。しかし、どれもが無意味で、無価値で、無慈悲に蹂躙される。
象がアリを踏み潰すよりも容易く。
「ーーんで、死ねぇ!!」
そして、その背後に隠れた陽の国の戦士は逃げて行く戦士とも言えない意気地なしの背中に迷いなく鉄を撃ち込んで、命を奪って行く。
「ヒューっ!」
もはや、そこには戦争とは言えない遊戯が残るのみで、陽の国は戦場で行われるタダの略奪を楽しんでいた。
命の尊さなどカケラも存在しない戦場であることは分かっていたはずだ。だとしても、目を覆いたくなる邪悪と、惨劇。
「ははっ、人、殺しちゃったんだ……」
感情にはそこまでの変化がない。
今はそうなのか、それともずっとそうなのか。いや、わかっている。
ここまで容易く何もかもを奪えるのなら、それはきっと奪うと言う行為に感情が揺さぶられることもない。
「オラオラァ! 巨神様のお通りだぁ!」
銃を乱射し、下卑た笑いを浮かべ言葉も通じぬ異邦人を殺す。その心に苦しさも痛みもなく。火薬が燃えて、焦げ臭い匂いとともに弾丸は発射される。
弾が尽きれば、リーゼの背に隠れて装填する。
危険なんて何処にもない。
安全な戦争。
「余裕だなぁ、おい!」
笑う。
そこらで人は人を殺す。それよりも早く人型の金属が、人を潰す。
『躊躇うな』
時折、ヘッドギアからは声が聞こえる。その声に抱く感情は種々様々。
殺せ。殺さねばならない。そうしなければ生きていられない。
これは生存競争。同族を殺すなど当然。何故なら、生物は群れを成すから。他の群れに負けてはならない。
己らの正義を訴える為にも。
中距離砲が、大剣が戦車を人を、壊して行く。
「オラァっ!」
飯島の声がリーゼのパイロット席の中に響いた。振り上げられた大剣には小さく血がつく。四十メートルの巨体が振るう大剣に人体は引き裂かれる。
切れ味が良かった。
撒き散らされた血と内臓。ただし内臓は損傷が大きい。それは巨大な刃物で切り裂かれたから。まるで英雄譚に語られるかのように、一振りで十もの戦士を殺す。
一騎当千。
『ダメだ! 逃げろ!』
中栄国の兵士は必死に叫ぶ。通信機器にもその声が通る。言葉はわからない。それでも行動から何を伝えたかはわかった。
『牽制を交えて、撤退だ!』
銃弾を勿体ぶることなく使う。この戦いで中栄国の兵士のうち何人の人間が生き残るだろう。
そんな加速された鉄の弾を、おもちゃの鉄砲の弾だと言う様に三機の巨神の身体はそれを弾き、中距離砲を構えた。
「…………」
そして、引き金が静かに引かれた。




