言葉についての考察
予定より暗い話になってしまいました。私はあまり暗い話は好きではなくハッピーエンドに書くことが多いのですが、寓話ですのでハッピーエンドの方は書き切れませんでした。
それから、あくまで私的な見解なので、これが絶対的に正しい訳では無いとも思ってます。
気楽に読んでいただければ幸いです。
在るところに一人の細工師がいた。
彼の作る細工物はとても素晴らしかった。
彼には妻と、一人の子供が居た。
彼はその二人をとても愛していた。
在るとき、彼のたった一人の子が亡くなってしまった。
勿論、妻は嘆き悲しんだ。
勿論、彼もとても辛かった。
彼は、嘆き悲しむ妻の姿と自身の心の辛さに耐えきれず、ふらふらと職場である工房に行くと、木の板を拾い集め、一心不乱に削り始めた。
何かにとりつかれるように、一枚一枚と小さい木の破片を磨き上げると、今度はそれを休む間もなく組み合わせていった。
一日、一週間、数ヶ月と、彼はとりつかれるように、木片をつなぎ合わせた。
工房から出てくる夫は窶れきっており、日に日にやせ衰えていった。細くなる体とは裏腹に、眼光は愈々鋭く益々爛々と光っていった。
普段工房への立ち入りを激しく嫌う夫だったが、日に日に衰える夫を見かねた妻は、ついに工房の扉を開け、中を覗いた。
妻はあっと驚いた。
薄暗い工房の真ん中には、精巧な人形が横たわっており、その前で眼光だけが鋭い夫が立っていた。
その異様な光景に妻は目眩がした。
勿論見るまでもなく、その人形の顔は、亡くなった彼らの子供の顔であった。
精巧に出来ている、あまりに精巧に出来ている、人形。
今にも動き出しそうだった。
だが、決して動くことはないことを、妻は知っていた。
妻はまだ鑿を振るおうとする夫の手を遮り、叫んだ。
「もう止めてください。あの子は死んでしまったのです。いくら木片をつなぎ合わせても、あの子にはならないのです。」
夫は、鑿を奪おうとする妻を突き飛ばした。
妻は倒れて、シクシク泣きだした。
最後の一片、完成した人形は、亡くなった子供に完璧に似ていた。
「我が子よ。」
人形は何も言わない。
「我が子よ。」
何も言わない。
「我が子よ。」
妻は側で激しく泣いた。
泣き叫ぶ妻を一瞥した夫は、鑿を振り上げた。
そして、人形を破壊した。
その夜、夫とその妻は、庭の一角で、人形を火に焼べた。
燃えさかる炎の中、人形は次第に灰になっていった。
シクシク泣き続ける妻の肩を抱き、その夫は炎を見つめていた。
覚え書き
古の賢者の言葉
「その日、万巻の書が天を賛美しながら、炎に包まれる日が来る。その日、それらはその忠実なる役目を終えたからだ。」
最後まで読んでいただければ幸いです。