第8話「伝説」
新達が耳無しと遭遇してから1週間後
放課後 教室 1年A組
達也「慶子の奴、今日も休みか…もしかしたら俺たちと一緒に行動するのやめるかもな」
清十郎「まあ、あんな事件があったんだから慶子の為にもその方がいいだろう。ところで新、お前この前「瞬発」の特殊能力使ってたよな?隠してたのか?」
達也「そうだよ!俺以外にもあんな事できる奴いんのかよ!」
新「いや、あの後何回か試してみたが同じ事はできなかった。あとなぜ俺を殴れと言ったのかもいまいち覚えていないんだ」
清十郎「もしかしたら過去に戻るエボリティと「瞬発」のダブルかもしれないな」
※ダブルとはエボリティが2個使えるインクベーティストの事。
達也「それだったらすげえな!日本にダブルは10人ほどしかいねぇみたいだぜ!」
新「未来の俺は全然そんなすごい奴じゃなかったけどな(笑)」
しばらく談笑が続いた後、達也が切り出した。
達也「次はどうするか〜。慶子がいねぇと俺たちのブレインは清十郎しかいねぇな」
清十郎「今度は4大勢力の1つ、西村組の集会に侵入しようと思う!」
一同が驚く。
達也「まじかよ、お前見つかったら殺されんじゃねぇか?」
清十郎「どうせXデーが来たらジャホン人はほとんど殺されるんだろ?だったら命を張ってでもやるしかない。あと慶子は危険にさらせないから、行くなら彼女がいない今がいい」
新「実は色々調べたんだけど、西村組の幹部が集まる大規模な集会が今度あるらしい、そこで情報を得よう」
達也「決まりか…、しゃあねぇ!男見せるか!」
◆◆◆
2070年11月 西村組本部周辺
達也「すげぇ!高級車と強面の人たちがいっぱいいるな!国会議事堂とはまた違う緊張感だぜ!」
西村組本部は和風で広大な敷地が広がっており、真ん中に立派な屋敷が建っている。
清十郎「よし、今日は俺が指揮をとる。近くの公園のトイレで光学迷彩を着用して潜入する!今日は各自が単独行動で情報収集、やばそうな場合は全力で逃げろっ!」
達也・新「了解!」
西村組本部 第1会議室
新と清十郎は会議室に潜入する事に成功した。中には強面の11人の男が豪華な長テーブルを囲んで座っている。
清十郎「{インクベーティストの本能が言っている、かなり手練れのインクベーティストばかりだ!……だがその中でも明らかに1人突出してやばい人がいる…間違いない…あの人が…!}」
一ノ瀬「今から第81回西村組年次集会を執り行います。」
このグレーのスーツをを着たオールバックの男、一ノ瀬乖斗は「西村組顧問」兼「一ノ瀬組組長」である。
インクベーティストの彼は西村組のブレインとして活躍している。
一ノ瀬「現在我々の大きな議題は3つ。1つは凌ぎの拡大、2つ目は次期組長の決定、3つ目は政府が提案してきた15年後のジャホン殲滅作戦について」
室内がざわついた。
新達も一気に心拍数が上がった。
犬童「なんやねん日本人殲滅作戦って?」
この白のスーツを着た、いかにもヤクザ風なスキンヘッドの男、犬童大廉は「西村組顧問」兼 武闘派集団「犬童一家組長」である。血の気の多さから抗争を繰り返し、人生のほとんどを務所で暮らしている。
一ノ瀬「最後に話し合う予定でしたが、今話した方が良さそうですね…」
そういうと一ノ瀬は重い口を開いた。
一ノ瀬「ジャホン政府はジャホン人を10年後に1%にまで減らすつもりですっ!!」
──衝撃的な発言に会場内の時間が一瞬止まったように見えた。
犬童「そんなアホな話あるかボケぇー!!なんでそんな話なるんか言うてみっ!」
犬童がテーブルを叩きつけて怒声を上げた。
一ノ瀬「事実です…なぜなら政府が半分隣国に乗っ取られてるからです…」
一同が息を呑んだ。
一ノ瀬「この国には四季、自然、リゾート、世界遺産等がある。人口爆発が起きているチュウナは自国だけでは狭すぎるのでしょう。だからこの国を完全にチュウナ化するために、我々に汚れ役を買えという要求です。」
※チュウナとはジャホンの隣国であり、世界1の経済大国である。
一ノ瀬「残念ながら、この件に関して1番の罪人はなんも考えずに適当な政治家に投票するジャホン人達です。」
犬童「若頭!政府になんて返事したんやっ!」
榊「例え西村組の安全が保証されると言ってたも、そんな非人道的な事はできないと断った。」
榊斗真は「西村組若頭」兼任「榊会会長」である。西村組は現在、組長を欠いている為、彼が実質西村組のトップである。名実共に次期組長候補だが彼自身は組長になる事を拒んでいる。
犬童「ってことは10年後には「政府」+「チュウナ連合」と俺らがバチバチ戦争なるって言うことちゃうんか!?」
部屋中が緊迫する。
榊「落ち着け!犬童!…まずこの事実を我々の全資本を使って発信する。証拠としてこちらには政府の人間の肉声が残っている。そして我々を信じた市民や他国と結託してジャホン国を防衛する!」
犬童「まあ政府と戦争なってもこっちには志凰がおるからな、奴らもただでは済まんで!恐らく政府は志凰の戦力を怖れて、俺らを味方につけようとしたやろな」
志鳳「我々鳳凰会は目の前の敵を潰す。ただそれだけですよ」
この青のスーツを着たジェットモヒカンの男、松方志鳳は「西村組舎弟頭」兼「鳳凰会会長」であり、西村組最高戦力。
歴代最強のインクベーティストと呼ばれいる。あまりの強さに政府は制御不能を怖れ、13歳の時に彼の暗殺を実行するが、失敗に終わった。
その後、自分の身を政府から守るため、西村組の門をくぐった。
清十郎「{やはり!彼が伝説のインクベーティスト松方至鳳か…思ったより小柄だな!}」
新「{なんてあの人は独特なオーラをしているんだ!気を抜くと呑まれそうだ!}」
その後会議は1時間程続き、閉会となった。
◆◆◆
その日の帰り道
清十郎「お前たち、第1会議室には潜入できたか?」
達也「俺はできなかったなぁ、あんなだだっ広い屋敷で帰り道を見つけるだけで一苦労だったよ」
新「俺は途中からだけど入れた。やっとXデーの真相がわかったよ、清十郎は?」
清十郎「ああ、俺も把握した。クソっ、俺たちは何を信じればいいんだ。おそらく父さんもこの事を知ってるのに、何を考えているんだ。」