第22話「トランス」
2071年7月 開能中学 職員室
先生たちは職員会議を行なっていた。
先生A「本当にあの子をうちの学校に入れていいのでしょうか?」
校長先生「あの子は施設でちゃんと更生したと聞いています!我々の教育次第では立派な大人になってくれます!」
先生B「でも、彼は誰が受け持つんですか?」
校長先生「そこで、鈴村先生にお願いしようと思います!鈴村先生とあの生徒達なら、彼も立派に成長してくれると信じてます!」
先生たちの視線が鈴村先生に向いた。
鈴村先生「わかりました!がんばります!」
鈴村先生は少し不安げな表情を浮かべながらそう答えた。
◆◆◆
2071年4月 教室 2年B組
朝、鈴村先生と白髪で無造作ヘアの少年が教室に入ってきた。
いつもと違う光景に、教室はざわついた。
鈴村先生「今日は転校生が入ってきました!皆さん仲良くしてください!」
鈴村先生いつもより明るく振る舞った。
鈴村先生「添田君!自己紹介して!」
添田「添田瞬です…よろしく…」
添田瞬は小学生の時、余りにも素行が悪い為、中学へ進学できず、更生施設で預けられていた。
清十郎「{なんとも喋りかけ難い雰囲気だ…常に殺気を放ってるような…。トラブルを起こさなければいいが…}」
◆◆◆
数日後
ヤンキーA「陛 下!すごく生意気そうな奴が転校してきました!そいつは髪の毛を白に染めていて、常に殺気立たせて歩いています!」
草薙「ふんっ、面白い!そいつを連れてこいっ!」
ヤンキーA「Yes!陛 下!」
◆◆◆
教室 2年B組
ヤンキーA「おい!そこの白髪!ちょっと俺達に付き合え!」
突如ヤンキー2人組が教室に入ってきた。
添田「…」
添田は黙って2人を睨む。
ヤンキーB「なんか…こいつヤバくないか…?」
小声でヤンキーBが呟いた。ヤンキーAも萎縮していたが、勇気を振り絞って大声を出した。
ヤンキーA「てめぇ!なんにシカトぶっこてんだよっ!」
すると添田の姿は消えた。
ヤンキーA・B「!?」
添田「──誰に指図してんだ?」
自分の席に座っていたはずの添田が瞬きもしないうちにヤンキーAとBの肩を組んでいた。
──教室中に緊張が走る。
ヤンキーA「やっぱ、こいつやばいって!帰るぞ!」
ヤンキーB「おっ、おう!」
ヤンキーAとBは添田の手を振り解き、逃げていった。
◆◆◆
ヤンキーA「添田はヤバい奴です!まるで瞬間移動してるかのような速さでした!」
ヤンキーB「それにあいつの殺気とか目つきとかヤバイですって!多分何人か殺しますよ!」
ヤンキーA「うげっ!」
ヤンキーB「うごっ!」
ヤンキーA、Bは影に殴られた。
草薙「てめぇら、言い訳しに帰ってきたのか?」
ヤンキーA・B「No!陛 下!」
草薙「グズが!ヤンキーを気取るならそれなりの覚悟を持って気取れっ!」
そう言い残すと、草薙は教室を後にした。
◆◆◆
教室 2年B組
草薙「貴様っ!見た目からして生意気だ!今すぐ土下座して陛下(your majesty)に忠誠を違うと言え!そしたら舎弟にしてやってもいい」
添田「誰に指図してんだ…てめぇ…」
添田は一瞬にして草薙の背後に回り込み、草薙の顔面を殴りかかった!
達也「あの野郎!!教室の中でやりやがった!」
教室の中の空気が凍りついた。
草薙「うぐっ…」
草薙は殴られた威力で転倒しながらも添田の陰を起こす事に成功した。
添田と影は殴り合いが始まった。教室にいた生徒達は避難したり、先生を呼びに行く等、教室を出て行った。
草薙「もう許さんっ!貴様は極刑に値するっ!」
添田「{やべぇ…楽しいぃ…}」
添田の特殊能力は「転移」、範囲は限られるが自分の体を瞬間移動させる事ができる。また添田は生粋の戦闘中毒者であり、草薙との戦いで再び症状が現れ始めていた。
添田はまた草薙の背後に現れ、今度はハイキックを打った。
草薙「ぐっ…」
クリーンヒットして草薙がぐらついている。
添田「ぐはっ…」
添田も影にハイキックをかまされ、ダウンした。
添田「{こいつを攻撃すると、影からの攻撃を受けてしまう…}」
しばらく添田と影が乱打している。
添田「{たまんねぇなぁ…この感覚…}」
添田の神経伝達物質が底を尽きようとしていた──その時、添田の体中の欠陥が浮き出し、目も赤く充血し始めた。
草薙「{なんだこれは!?まさか…月見と同じ蛹化(覚醒)}!?」
校長先生「そこまでだ!」
校長先生と鈴村先生が駆けつけた。
校長先生「遅かったか…」
校長先生がそう嘆くと、添田は瞬間移動して、校長先生の背後を取った。
──次の瞬間
「ドゴーーン」
鈍い音が鳴り響いた。なんと校長先生が背後にいた添田の顔面を掴み、地面に叩きつけたのである。
ダメージで気を失っている添田から見る見る血管が引いていく。
校長先生「…これはトランスと言って、一時的に神経伝達物質が無尽蔵に発生する状態だ!ただし理性を失い、誰これ構わず攻撃してしまう…」
草薙「勝負の邪魔をしやがってっ!」
草薙が校長先生に啖呵を履いた。
校長先生「俺達が来てほっとしてた奴が何を言ってるんだ」
草薙「何っ!?」
草薙は動揺している。
校長先生「それに俺達が来なかったら──お前は死んでたぞ?」
草薙「くっ!」
草薙が去勢を張った事、トランス状態の添田を危惧していた事、全てを見透かされていた。
草薙「くそがぁぁああ!!」
草薙が雄叫びを上げ、教室を後にした。
草薙「{月見の蛹化(覚醒)といい、添田のトランスといい、俺にももっと力がいる…}」
草薙五十音 人生で初めて自分の弱さを認めた瞬間だった。




