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マラウィの青い空

作者: タニマサ

第一話 カンダウィリランド


その日、2007年11月18日はカロンガ市に赴任した翌日で、マラウィ湖岸の街は、じりじりと暑かった。

前日にカウンターパート(技術移転の相手)のMr.チハナ(初協力隊当時の同僚)に頼んであったので車で迎えに来た。


今日はお墓参りをしに行く事にしていたからだ。


7年前、初めてマラウィに青年海外協力隊で来た時のカウンターパートが亡くなっていた。

チャールズ.N.J=カンダウィリ。当時53歳。これからもまだまだバリバリ働くぞ!そんな感じの元気な農業省の地方役人だった。彼の性格や仕事ぶりは完璧ではなかったけど、人の良さは日本人の俺にとっても身近なものだった。気の好い男だった。


彼が持病のぜんそくで急に亡くなったのは去年の1月23日未明。牛妊娠鑑定講習の期間中で、彼が講師として参加していた時だった。

朝おきて来ないカンダウィリに異変を感じた同僚が発見した。


そして同じ時期、その年の夏に岐阜大学の研究でマラウィに行く事になっていた俺は彼にその手伝いを依頼する手紙を出していた。その返事が、Mr.チハナと後任隊員からの訃報メールだった。

俺の手紙を見る事なくカンダウィリは死んだ。

彼はいつも俺の後任に「Mr.TANI~(ヤツはいつもミスタ~タニ~と語尾をのばしていた)は元気か?連絡はないか?」と聞いていたらしい。

俺は手紙も出していなかった。俺はメールを開いたパソコンの前で後悔した…。

8月に会えるはずだった…でももっと早く手紙を出すべきだった!

用事なんか無くたって手紙を出すべきだったのに!


何度かのメールのやり取りで、彼は生まれ故郷に埋葬されたと知った。

それはマラウイ北部(南半球なので北が赤道に近くなる)のカロンガ市域だった。


2006年夏、予定通り大学の研究でマラウィを訪れたが、野生動物や家畜、野犬のサンプル採取などで忙しく、北部にある彼のお墓にはとても行けなかった。

彼の2人の奥さん(合法)に香典を渡すようにMr.チハナに頼んだ。

なにかやり残した気持だった。


しかしまさか、そのカロンガに2度目の協力隊で来る事になるとは!


2007年に大学を休学し、JICA17年度短期派遣の協力隊に応募し合格した。エチオピアの派遣であったが、受け入れ態勢に問題が生じたため、出国一月前に急遽派遣中止になった。そして日本で待機中に、新規で出た案件がマラウィのカロンガ市赴任だったのだ。もちろん俺は快諾し、あの大きな空の下のサバンナが広がるマラウィ共和国へ再び行くことになった。

カロンガ赴任が決まった時から、初めの仕事はカンダウィリのお墓参りだ!と決めていた。


チハナの手配した農業省の車で数時間乗り、カンダウィリの村に着いた。カンダウィリは土地の有力者だったようで、近くに居た村人に、「カンダウィリの土地はどこまで?」と聞いた。

すると村人は、

「あのむこーのヤシの見える丘の所から、あのむこーの山のふもとのところまでがカンダウィリズランドです。」と答えた。


俺はその土地をゆっくりと見渡した…見える範囲は彼の一族の土地だった。それはまさにランドという形容がふさわしい広さだった。


彼の家に着いた時、近所に住むカンダウィリの妹に紹介された。

彼女は死んで2年もたつ兄のところに日本からお墓参りに来たと知り、泣き出した。

そして彼のお墓に泣きながら歩いて俺を連れて行ってくれた。

彼のお墓は村落のほど近くの開けた場所に彼の父親と列んで佇んでいた。


ああ!これか。

これがカンダウィリか。

その墓標に手を触れた。

カンダウィリ…。言葉にならない気持で白い十字架の墓標に手を触れていた。

彼の魂はここに戻ると墓標に刻んであった。

そうか、カンダウィリはここに戻ったのか…。そう納得できた。


妹が泣き崩れる中、村人の祈りがあげられた。

そして、合掌。アーメン。


Mr.チハナが俺を見て、小さく頷きながら、さあ言葉をかけて…と手で促す。

うむ…と頷き返した。

俺はひざまづき、墓の彼の顔になる所に手をのばした。

「カンダウィリ来たよ…!」そう言うなり涙が流れ出た。

俺は泣いた。後悔と嬉しさ…言葉にならないいとおしい気持があふれ、嗚咽を漏らして墓に手をついて泣いた。


「こんどカンダウィリの土地で働く事になったよ、チハナがいるから大丈夫だ…!」

そうカンダウィリに報告すると落ち着いてきて涙が我慢できた。

頬の涙はアフリカの渇いた空気ですぐに蒸発した。

それが、そうだ大丈夫だ!おれはここでやれる!そんな気持にしてくれた。



お墓参りの後、彼の建てかけた家を見た。

そこから車に戻る途中に井戸を見つけた。

少しその井戸を見て、チハナにその井戸水が飲みたいと頼んだ。

彼の魂が戻ったこの土地の井戸水を飲めば供養になる気がしたし、俺の力になってくれると感じたからだ。


井戸水は少しだけ涼やかで澄んでいた。

柄杓でごくごくと飲んだ。口の端から水がこぼれ落ちた。

マラウィの涙と井戸水は、日本で渇きかけていた俺の心に沁み込んでいった。


=カンダウィリランド.おわり=

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― 新着の感想 ―
[一言]  この手の実話エッセイものは、隠れた需要がありますので、連載形式にしたほうがいいかもしれません。
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