ガチの悪役令嬢に転生しちゃったんだけどこれから気をつければ死亡フラグ回避できるのでは?しかも乙女ゲームでは登場しなかった心優しい婚約者に溺愛されて幸せになれそうです。
ひょんなことから前世の記憶を思い出す
私、悪役令嬢なんですの!?
はじめまして、ご機嫌よう。私、アリアンヌ・ヴィスと申しますの。公爵令嬢ですわ。六歳ですの。私…私、所謂転生者ですの!というか今突然それを思い出しましたわ!
私は公爵令嬢として何不自由なく過ごして来ましたが、この国の第一王子で次期王太子と目される、ダヴィド・ロワ殿下に恋をして猛烈アピールをして来ましたの。それなのにダヴィド殿下は私には目もくれません。ですから、私、周りに当たり散らして、ダヴィド殿下に近づく女に嫌がらせをしていたのですけれど…ダヴィド殿下に抱きついた時、「いい加減にしろ!」と突き飛ばされて、頭を打ち、今、大変なことを思い出しましたわ!
私、この世界に見覚えがあるんですの!この世界は前世の私の嗜んでいたゲームというものの、所謂乙女ゲームの世界ですわ!そして、私…悪役令嬢なんですの!信じられませんわ!でも、今までの私の振る舞いは、まさに悪役令嬢アリアンヌ・ヴィスそのもの…どうしましょう!これでは将来処刑されてしまいますわ!それも火刑にかけられてしまいますわ!…とりあえず、周りに当たり散らすのはやめて謝り、ダヴィド殿下のことも諦めましょう!そして素敵な婚約者を見つけるのですわ!もちろん将来手を染めるはずだった悪事も徹底して避け、社会貢献活動をするのですわ!
「…失礼する。アリアンヌ嬢、大丈夫だったか?」
ダヴィド殿下がお見舞いにお部屋に来てくれましたわ。でも正直、今一番会いたくないところですのに!
「だ、ダヴィド殿下…!」
「突き飛ばして、怪我をさせた。すまない」
「い、いえ、この程度のケガならすぐに治りますもの!ダヴィド殿下は気になさらないでくださいませ!」
私がそういうとダヴィド殿下は不思議そうな顔で私を見つめる。
「意外だな。君ならこれを理由に婚約者になれと迫ってくるかと思った」
「殿下…あ、あの、私…今までご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!」
「アリアンヌ嬢…?」
「これからはもう、身の丈に合わない願望は持ちませんわ!ダヴィド殿下はダヴィド殿下に相応しいお方と一緒になってくださいませ!」
「…驚いた。頭の打ち所が悪かったのか?」
ふっと笑うと私の頭を撫でてくださるダヴィド殿下。どうして…?
「正直。俺はお前のことを出来の悪い、面倒くさいが可愛い、私の後ろをひょこひょこ付いてくる妹のように思っていた」
「え…?」
「流石に、その振る舞いからお前を妃にする気はなかったが、可愛くは思っていたよ。今日も、たまたま腹の虫が悪さをしただけで、怪我をさせるつもりはなかった。本当にすまない」
「ダヴィド殿下…」
「可愛い俺の妹。妃として迎えてはやれないが、いい婚約者を紹介しよう。仲良くするといい。俺の分まで、きっと愛してくれるいい男だから」
「ありがとう、ございます…」
まさかダヴィド殿下がそんな風に思ってくださっていたなんて…手遅れになる前に前世の記憶が蘇ってよかった。
「俺も、お前の言う通り俺に相応しい妃と幸せになろう。お前も、これからは振る舞いに気をつけつつ、婚約者と仲良くするんだぞ」
「はい、ダヴィド殿下…」
それからすぐに、ダヴィド殿下の紹介で公爵令息、ディディエ・アタッシュマン様と婚約しました。
両親はわざわざ第一王子殿下が婚約者を紹介してくれたこと、私が周りに当たり散らしたり、ダヴィド殿下に近づく女に嫌がらせをするのをやめたこと、社会貢献活動に力を入れ始めたことを大層喜び、祝福してくれましたわ。
「はじめまして、僕の美しい人。僕はディディエ・アタッシュマン。よろしくね」
「は、はじめまして、ご機嫌よう。私はアリアンヌ・ヴィスですわ。よろしくおねがいいたします」
そうして私達は、ゆっくりと距離を詰めて、仲良くなりましたわ。
ー…
時は流れて、早くも十年。学園に通う年…つまり乙女ゲームが始まる頃ですわ。でも、大丈夫。私には、心優しい婚約者もいますし、ダヴィド殿下との仲も修復出来ましたし、今まで迷惑をかけてしまった方々にも謝罪してまわり、社会貢献活動にも力を入れましたわ。もう私は悪役令嬢ではありませんわ!
学園が始まると、ヒロインさん…聖女アリーヌ・サントさんももちろん入学してきました。そしてあっという間にダヴィド殿下と恋仲になり、平民でありながらも聖女ということで婚約が認められ、学園内でも公認のカップルになりましたわ。私も今は心からお二人を祝福していますの。
「アン、何を考えているの?」
「ディディ!アリーヌさんとダヴィド殿下が幸せそうで嬉しいなと考えていたの」
「むぅ。嫌だよ。アンは僕のことだけを考えていて?」
「もう、ディディったら!」
可愛いヤキモチを妬くディディの頬にキスを落とす。
「私が愛しているのはディディだけよ?」
「もちろん。僕が愛しているのもアンだけだよ」
いちゃいちゃしている私達を、クラスメイト達は生温い…もとい温かい目で見守ってくださいます。ごめんあそばせ。私にとってはディディが最優先ですの。
「愛してるよ、アン」
「愛してるわ、ディディ」
前世の記憶を思い出し、婚約者に恵まれたおかげで幸せになれましたわ。前世の記憶、万歳ですわ!
前世の記憶万歳!