~BL編~
突風が花粉と砂塵を築45年のアパートの一室に舞いこませた。その辺に置いた書類やら、隅に留まっていた埃やらが、空中までも雑然とさせる。
「窓、閉めてくれないか?逆に部屋が汚れる」
段ボールに囲まれながら、雑誌を読んでいたハルが偉そうに言う。色素の薄い繊細そうな物腰だから許されるような横柄さは、昔から変わらない。淡い茶髪に埃が付いて格好がつかなくても、この男はお構いなしだ。
「俺は整理に忙しいんだから、それぐらいお前がやれよな」
いつもハルはこんな風だから八つ当たりしたって、仕方ないことだけれど、つい口調がトゲトゲしてしまう。
「確かに」
読んでいた黄色い縁取りのついた科学雑誌を、ポイッと投げ捨てた。ハルは聞き分けよく、窓を閉めに立ち上がる。スキニーパンツを履いているとはいえ、こんなにコイツの体は細かったのか、という印象を受けた。適当に閉めるから、窓は少しだけ開いていて、隙間風が吹き込んだ。窓を8割閉めて満足したのだろう、また雑誌を読み始める。物憂げそうに見えて、合理的だと思ったことは、案外すぐにする奴なのだ。幼馴染をしている俺からすると、最低限の情緒が欠落しているという評価を下したいところだ。
引っ越しからの荷解きは、時間と労力がかかる。どこに何を置いたら、快適だろうかと考えながらの作業は、頭脳も疲弊させた。3日後から大学生活が始まると考えると、新生活の不安から無意識にイライラしてしまう。
「ハル、準備しなくて平気なのか?」
「大丈夫だ」
ハルは合理性のないことはしない。夏休みの自由研究だって、最終的には俺よりも、早く、しかも合理的に終わらせてきたじゃないか。焦りからかイラつきからか、乱暴に段ボールを素手で開ける。
「イチ、お茶にでもしよう」
ハルは読んでいた科学雑誌を丁寧に閉じた。
ごちゃごちゃした段ボールの中から、ハルの荷物だけ見つけ出してお茶なんか出るわけ無いだろうと思っていた。しかし、お茶とやらは案外すぐ出てきた。
「家財以外は、スーツケースにまとめた」
確かにスーツケースに荷物を入れれば、次の移動も楽だな、と妙に感心した。
「でも、電子ケトルをスーツケースに入れるのは乱暴だよな」
「カップラーメンも作れるからな」
言う通りなのだが、妙に会話が噛み合って無い気がする。ハルは、スーツケースのポケットから砕けたクッキーも出してくれた。
「ちゃんと包んだのだが…」
「お前のお母さんのクッキーウマいしな」
いつもと変わらない味にホッと一息ついた。ハルにそっくりな綺麗な顔と繊細な物腰。ハルとは似てない心配性で、家庭的なハルの母親。見送りの際に「ハルのことよろしくね!」と言って見送ってくれたのが忘れられない。
「いや、俺が作った」
「え?」
意外な返答に、茶が噎せなくて良かった。こんなことをハルがするのとは、驚きだ。
「母親に習った」
自慢げに茶を啜って、ハルは屈託のない笑みを浮かべる。
「このクッキー好きだろ?」
そう言う可愛げってあったんだな、逆にこっちが驚いてしまった。情緒が欠けていると長年思っていたが、感情表現がヘタなだけなのかもしれない。
「ありがとな」
「別に…」
礼を言えば言ったで、素っ気なくなる。やっぱり、情緒が欠けているのか。だが、少し休憩したお陰で、イラつきも消えていた。
「もうひと頑張りかなー!」と大きく伸びをしても、ハルは何も言わない。別の雑誌を読み始めただけだ。
読了ありがとうございます。
ご感想&ご批判、その他、誤字脱字何でもウェルカムです。
厳しいお言葉でもバッチこいなので、気にせずに書いていただければ幸いです。
以下はハルのクッキーのレシピです。
オートミール…70グラム
薄力粉…30グラム
砂糖…40グラム
ココナッツロング…30グラムから40グラム(ちょっと多めが美味しいです)
サラダ油…30㎖
塩…一つまみ(無くても良いですが入れると風味が増します)
ナッツ…お好みで砕いて適量。無くても大丈夫です。(クルミやアーモンドなどがおススメです)
以上の材料は先入れです。油分と馴染ませて下さい。
牛乳…30㎖(アレルギーなどがある場合は水でも大丈夫です)
生地がパラついても焼けばまとまるので大丈夫です。
天板の上にクッキングシートを敷いてドロップクッキーの要領で生地を落としてください。
余熱したオーブンで180度で20分~25分位焼くと香ばしくて美味しいです。
冷めてから食べるのをお勧めします。カリカリ食感になりますよ。
グラノーラみたいに崩して牛乳かけて食べるのも美味しいです。
ちなみに、ハルの実家は備え付けのオーブンなので、かなり出力高めで、
均一に焼きあがる仕様です。