第7話 第一声は罵倒から!
遅くなりました!
学園の入学式さらに幼馴染クロナ・アル・ミラードと町でラーメンを食べた日からあっという間に2日が立ち、今日は初の学園登校日だ。
この土日、何度かハルトを遊びに誘おうとしたがどうやらどこぞの美少女達と既に遊ぶ予定が入ってしまったらしくほとんど会う機会がなかった。
ハルトの後をつけてその一部始終をビデオにでもとり一人でニヤニヤしようと考えて見たが、流石に自分でもその姿を想像したら変態まがいな行為だったので、土日は荷物の整理ややりかけのゲームでもやって、大人しく寮にこもることにしたのだ。
学園の制服に身を包み、大きな欠伸を一つ行うと洗面台で身だしなみチェックを行なった俺は鞄を持って部屋から出る。
この寮では雇っているメイド達が朝食と夕食を寮生分作るらしいのだが、今朝は時間が早かったのでコンビニで済ませようとそのまま食堂を通り過ぎて外へ出た。
気持ちのいい朝だ。
少し涼しい風が頬を触り、鳥や生き物の声がよく聞こえる。
俺は背中を伸ばすと鞄を横に抱え、そのまま歩道へ出て学校へと向かった。
季節が春だということもあり植えられた桜が皆満開で思わず立ち止まって見てしまう。
今度みんなでお花見でも行こうかなあ?などと考えながらコンビニで買ったミックスなサンドイッチを頬張って、もぐもぐしていると目の前で少女が何故だか道端にぶっ倒れていた。
・・・なんじゃこの状況?
これは関わっちゃいけないんじゃないかあ?と思いその少女の脇をすり抜けてそのまま学校へ行こうとしたが、急に足首を掴まれてしまう。
びっくりした俺はそのまま肩を震わせると足首を掴んだ少女を見た。
「あなたは人でなしですかああああ!こんな可憐な美少女が倒れてるんですよおおお!」
と自分を可憐な美少女という彼女。確かにこちら向いた顔はまるでお人形のような顔立ちで、金髪ショートと赤縁メガネがとてもよく似合う美少女だった。
なんだか何処かで見たことある顔なのだが、今は別なことで頭がいっぱいで思い出せない。
「・・・お前が何処の誰だか知らんが、親から知らない美少女には声をかけてはいけませんって指導されているんでな!声をかけるなら爽やか金髪美青年になさい!」
「それどんな親ですか初めて聞きましたよ!?ていうかあなた中学生ですか!」
とツッコミを入れるメガネっ娘。
俺は早く学校へ行ってやらねばならない事があるというのに・・・!
足を振り払うこともできるが、流石にこんな状況でそんなことをやればなんだか社会的にもうダメな感じがしたので、とりあえず話でも聞くかと俺はため息を吐いた。
「んでなんなんだよ?俺はこれでも急いでんだぞ?」
「ふふふ簡単なことです!私に食べ物を下さい!そしてこの先にある学園に私を運ぶのです!光栄に思っていいんですよ?だってこんな美少女を運べるのですから!貴方のような根暗の方にはご褒美でしょう!!」
ビシッと音が鳴るように指をさしたメガネっ娘。その態度と言葉に久し振りにイラッとした俺は吐き捨てるように言う。
「それが人に頼む態度か??そんなに腹が減ったなら土でも食って這いながら学校にでもいけや」
うん口の悪い子には口を悪くして返すのが良いだろう。みんなは決して真似をしないようにな!
俺はイライラしながら学校へ行こうとするが少女は慌てて声を出した。
「ううう・・・!す、すみましぇん!!ちょうしにのりましゅた」
振り返ってみると鼻水と涙で顔がなんだかぐしゃぐしゃになっていた。
う、うそだろ!
「なにあれ・・・」
「やだあの子あんな女の子泣かしたの?」
サラリーマン風の男やゴミ捨てに出ていた近所のママさん達がなんだかこちらを見てヒソヒソと話しをしている。
何となく話している内容は予想できる。
なんだか頭が痛くなった俺ははあーと溜息を再度吐くと、未だ泣いている少女をまるで神輿のように肩に担ぎ颯爽と逃げるようにその場を走り出す。
ここは学園近くの公園。
朝からこんなことになるとは考えてもなかった俺は、もう何度目かわからない溜息を吐く。
目の前には泣き止んだがヒクヒクと肩を震わせてポケットティッシュで鼻をかむ少女。
「ヒック・・・。ほんとにすみませんでじた。あんなごというつもりはながったんです!つい調子に乗っちゃっただけなんです・・・!ゆるじでください」
「あああ!もうわかったから泣くんじゃねえ!」
「ずみません!」
「仕方ないな・・・。ホレ!今朝俺が買ったツナマヨと鮭だ。今はこれしかないから贅沢なこと言うなよ?」
「ありがとうございますううう!」
よほどお腹が空いていたのか大口で頬張るメガネっ娘。ものすごい速度で食っているが絶対喉に詰まるぞ?
そう思っている矢先少女は顔を青くする。
言わんこっちゃないと俺は鞄からペットボトルを取り出し緑茶を飲ませた。
「ゴクゴクゴク!ぷっはー!本当にありがとうございました!」
「いやいいんだよ・・・。それより俺はもう行くからなじゃあな〜」
「ちょ、ちょっと待ってください・・・!」
と俺はその場から離れようとするが少女は慌てて俺を引き止める。
しかしもう時間がない一刻も早く俺はとある少女と合わないといけないのだから!
「えっと!あ、貴方のお名前は!」
「俺か?俺は神原 レイだ」
「神原レイさん・・・」
なんだか呟く少女を無視して俺はまた身体強化をかけてその場から立ち去るのだった。
ーーーー
とある少女と会う前に少し昔話をしようと思う俺の前世の話だ。
年齢=彼女がいなかったがそこそこ楽しかった学生時代。部活では小・中・高・大と空手部で全国大会上位入賞も経験した俺だが、大学卒業後はなんら普通のサラリーマンとして生活していた。
働き始めて5年。
そこそこ大きな仕事も任され始めた俺は、仕事へのプレッシャーとストレスから度々ぶっ倒れるようになってしまう。
1ヶ月の絶対安静を医者から言い渡された俺は、暇だったので友人から借りたゲームをプレイすることにした。
それが人生初のギャルゲー「インフィニティ・ヒロイン」だったのだ。
絵の素晴らしさに内容が濃く、ヒロイン一人一人でストーリーとエンディングが変わるこのギャルゲーに心奪われた俺は、寝る間も惜しんでプレイしたことは昨日のように思い出すことができる。
そうあの時は、30人ぐらいの女性を攻略し何か発生イベントはないかと学園中を周っていた時に俺は本を読む彼女に出会ったのだ。
絹のような流れる黒髪と異様に整った顔立ち、この光景を絵画に残しておきたいと思うほど彼女は綺麗だった。
何度彼女のあの姿に惚けたかわからない。俺は今まで一目惚れなんか一度も経験がなかった。今思えばあれが一番最初の一目惚れだったのかもしれない。
彼女を攻略するため何度も何度も何度も何度もセーブ&ロードを繰り返したのが懐かしい。
そう・・・。画面の中でもあんなに綺麗だったのに実物を見たら一体俺はどうなってしまうのだろうか?
俺はハーレムキングのハルトではないが一人の女の子を貰うぐらいバチは当たらないだろう。
俺はとある教室で立ち止まり、早くなる心臓の鼓動をどうにか落ち着かせようとした。この扉の向こうに俺の初恋の相手がいる。
落ち着け俺・・・。この日に向け何度もシュミレーションをしてきたではないか・・・!俺ならきっとやれるはずだ!
意を決して何度か大きく深呼吸すると扉を開いて教室の中に入る。
そして俺は目を見開いて立ち尽くす。
朝日に照らされた彼女の姿は可憐で凛としており、その黒髪は光沢がある様に輝いていた。まさに絵画から飛び出したような姿に俺は口を開けて放心状態になるしかなかった。
ああ神よ・・・!この世界に転生させて頂き本当に感謝しています!
生唾を飲み込んで俺は何とか平静を保ち憧れである彼女の前まで歩いて行く。
彼女もこちらに気がついたのか本から視線を外し俺を見上げる。
交差する視線と視線、俺は緊張した面持ちで出来るだけ相手を警戒させないように笑顔を浮かべた。
「お、おはよう何読んでるの?」
しかしそんな俺とは裏腹に表情を一切変えず彼女 四堂院 ユキは言い放つ。
「私に話しかけてこないでくれるかしら?目障りだしあなたを視界に入れるだけで私なんだかとても不愉快になってくるのだけれど早く消えてくれないかしら?」
辛辣な言葉を受けるが俺の心は実に晴れやかだった。生であの夢にまで見た四堂院 ユキの台詞を聞くことができたのだから・・・。
さあここからだ。ここから彼女の攻略を初めて行こうか!!
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