第5話 遅刻?入学式?
第5話で遅くなって申し訳ないです。
今の俺の姿は見慣れた16歳の少年の姿ではなく全く別な顔、声しかも30代前半のオッさんの姿だった。
そんな俺はワクワクしながらとある店へと歩を早めている。
何故俺がこんなにもワクワクしているのか・・・。それは今日ファン待望の新作「インフィニティ・ヒロイン サーガ」の発売日なのだ!
ネットでこのニュースを聞いた時俺は人目もはばからずうおーーー!と泣き叫んだ事を覚えている。
ニヤニヤとソワソワが止まらず、急かす気持ちそのままに行動したのが仇になったのか・・・。
急げ急げと早足で歩いていた俺は、信号が赤になったのも気付かずにそのまま横断歩道を渡ろうとした。
周りの声は興奮のため聞こえず、気づいた瞬間には俺の目と鼻の先にトラックが迫っており思わず俺は眼を瞑ったのだった・・・。
ーーーーー
びー!びー!びー!っと言う音で俺は静かに眼を覚ます。
何だか懐かしいような夢を見ていた気がするが・・・、気のせいだろうか?
俺はゆっくりと背伸びをして首を鳴らす。気持ちがいい朝、雲一つない真っ青な朝に満足した俺は、今何時かなーと目覚まし時計を確認する。
・・・・・・・・あっれえええ?
オレメガオカシクナッタンカナア?
どっからどう見ても時計の針は8時40分を指していた。
顔からサッと血の気を失い青白くなって行く、そしてベット脇に置かれたスマホからピロン♪っとメッセージが届いたかと思うと、そこには50件近くハルトと春香から今どこ?だの早く連絡ちょうだい!などの内容のメッセばかりが送られて来ていたのだ。
俺はスマホで改めて時間を確認するといつのまにか時計の針は進み43分になる所で俺は大声をあげた!
「寝坊したあああああああああああああああああ!!!」
〜
俺は今非常に焦っている。
理由はごく簡単だ。9時から始まる学園の入学式に遅刻しそうになっているのだから!
腕時計の時間を確認し思わず叫びたくなってしまう。
やばいよおおもう50分だああ・・・。
寮から学園まではおよそ15分の距離があり、このままいけばゼッッッタイに入学式には間に合わない。
俺は覚悟を決め体中に魔力を巡らせると身体強化をかけて一気に走り出す。
物凄い速度で周りの景色が流れ、時に出てくる人を躱し、目の前に飛び出してきた車をジャンプで飛び越え、文字通り風のように駆けて行った。
時間にしておよそ5分。
学園の目印である大きな時計台を視界に捕らえ、俺は徐々にスピードを落として間に合った事にホッとすると校門前で待っている春香の姿を確認することができた。
春香の方もどうやらこちらの姿に気が付いたのかブンブンと手を振って同じくホッとしたような笑みを浮かべて近づいてくる。
「遅いよレイくん!私たち心配してたんだよ!」
とプクーッと頬を膨らませて怒る春香なのだが、全然怖くないむしろ超絶に可愛い・・・。
「はあはあ・・・。すまん完全に寝過ごしちまったあまりにもベットの寝心地がよすぎてな・・・」
俺は肩で息をし、呼吸を整えながら謝罪の言葉を口にする。
「レイくん!心配させた罰として今日入学式が終わったら私に何かご飯奢って!そしたら許してあげる」
と詰め寄る春香。もちろん俺に拒否権などなく大人しくハイとしか答える事ができなかった。
俺の答えに満足したのかニッコリと嬉しそうに笑う春香の顔はまるで天使のようで、思わずドキリとしてしまう。
「入学式の席はなんだか自由だったみたいだから私がレイくんの分もとっておいたよ!ホラいこ!」
春香はそんな俺の心もつゆ知らず、手を取るとそのまま入学式が行われる講堂へと歩き出した。
周りから主に男子の視線が痛いほど感じるのは、俺の気のせいではないだろう。
ナニコレ超恥かしいいんだけど?
めっちゃ手ェ柔らかいしめっちゃいい匂いするぅ・・・!
いよいよ変態の域まできた雑念を頭を振る事で振り払う俺はぎこちない口調で、先行く春香に声をかける。
「は、ハルカサン?」
「なにい?」
「あの手を握る必要はないんじゃない・・・、いや何でもないです」
と俺はあわてた様子でそう言った。
必要ないって言った時にこの世の絶望みたいな顔されたんだぞ!?やめて欲しいなんて言えるわけないじゃねえか!!
なされるがまま手を引かれて講堂まで行く俺は今更になって気が付いた事があった。
「そういえば今まで神原だったのに何で急にレイって呼び始めたんだ?」
ピタリと立ち止まった前を向いていた春香はクルリと振り返り、俺を吸い込まれそうな濡れた目で上目遣いで見つめてくる。
「駄目・・・だったかな?」
「・・・いや駄目じゃないです」
何だよそれ!メチャクチャ可愛いじゃねえかあああああ!
なんなのその表情!俺じゃなくてハルトに向けてやれやあああああ!
と俺は心の中で叫びまくる。
なんて末恐ろしいメインヒロインなのでしょう・・・。どうやら男性キラーの名は伊達じゃなかったようだ。
「やった!ありがとう私のことも春香って呼んでね!」
「わ、わかったよ。は、春香これでいいだろ?」
「うん!えへへへへ」
頬を染めてまたも喜ぶ春香。その表情は本当に可愛く周りにいる男子達もなんだか顔を赤くして見つめていた。
嫌だからねお嬢さん・・・。
そうゆうのはハルトの前だけでやりなさいよ・・・。
と俺はつくづく思いながら引かれるがまま講堂へと向かうのだった。
ーーーーー
講堂に着くともうすでに設置された大半の席が生徒で埋まっており、ガヤガヤと話し声が響き渡っている。
どうやら本当に自由席なようで、ぱっと見でも同じ種族で固まっているグループの方が少なく、後は様々な種族の生徒たちが混じり合って座っているようだ。
視線を動かして演壇の近くに座る成績上位者6人に目を向けると、その中に楽しそうに喋るハルトの姿を確認する事ができた。
「ここの席だよ!」
といつの間にか春香に手を引かれて席に着くと俺は自然と周りに目を向ける。
どの生徒も種族関係なく楽しそうに話しているのを見ると種族間の壁っというものはどうやらなそうだ。
そんなことを考えていると不意に春香に声をかける人物が現れた。
「おお!ハルカさん戻ってきたのですね!私は心配したのですよてっきり悪い虫にでも絡まれて・・・?」
と言葉を失ったように俺を正確に言うと俺と春香の握った手を凝視する美青年は長い耳とサラッサラの翠髪が特徴的なエルフ族だった。
そんな彼はキッと眉を寄せると俺を指して怒鳴り始める。
「貴様今すぐその手を離せ!貴様のような虫がハルカさんに近付こうなどなんともおこがましい!」
・・・おいこいつ口が悪いぞ?
「いや俺の勝手だし・・・。他人にどうこう言われる筋合いなんてないんだが?」
至極真っ当な正論を言ったつもりだったのだが相手はどうとらえたのか、ますます顔を歪めて俺を睨みつけてくる。
「まさか貴様・・・!ハルカさんの弱みを握ってあんなことやこんなことをさせるつもりなのかあ・・・!?」
「はああああ?」
なんだか頭が痛くなって来る。こいつはどうやらとんでもない勘違い野郎のようだ。
なんとか春香にでも止めてもらおうとチラリと目を向けるのだが、なんだか頬を両手で包み込んで、「な、なんでもなんて・・・!」とブツブツ呟きこちらには全く気づいていない。
ただでさえ遅刻でお腹が空いているのに・・・。話が通じないのに相手にするのは余計に体力を消耗してしまう。
しかし相手方はそんなの気にしないと言うように続けていた。
「許さない・・・!この僕カナタ・エル・ペンドラゴンがいる限りハルカさんには指一本触らせないぞ!私の叔母はこの学園の学園長リリナ・エル・フェルナンドなのだ!覚悟するんだな!」
ご丁寧に名前と叔母が誰なのかも言い放つ彼。
そんな中入学式がそろそろ始まるのだと察した俺は、未だ立ち尽くし妄想に浸る少女をチョップで現実世界に戻して席に座らせる。
「おい!貴様無視をするな!貴様の名前を早く教えろおお!」
なんだかカナタ少年が横で叫んでいるがお腹が空きすぎて何を言ってるかわからない。
そうこうしているうちに式が始まり段々と周りの声も無くなって静まり返る。
プログラム通りに式が進んで行き学園長の式辞と読み上げられ、見知った姿の少女が演壇に立つと新入生を見渡しマイクを取った。
「おめでとう新入生の諸君!私リリナ・エル・フェルナンドは君達を歓迎するよ。
これからの3年間君達には数多くの試練が待ち受けているだろう。
しかしそれを乗り越えて強い人間になっておくれ!
そして種族間の壁なんて関係なくお互いの手を取り合って尊重し、信頼して器の大きな人間になって欲しい!
君達ならそれをできると信じているよ!
長くなると眠くなっちゃう子も居るだろうからボクの話はここまでにしよう。
君達には期待しているよ・・・!」
ペコリと礼をした直後・・・。溢れんばかりの歓声と拍手が講堂内を包み込んで行く。
スピーチは短いながらも生徒達の心を完全に鷲掴みした学園長は笑みを浮かべ、生徒達に向け手を振っている。
「さすげがでしゅおばさまああああああ!」
とスピーチに感動したのかカナタが泣きじゃくりながら惜しみ無い拍手を送っていた姿が若干引いてしまったのは俺の心のうちに秘めておこう。
そんな学園長の式辞の次に行われるのが新入生代表の言葉。あの前の6人のうち1人が出てくるのだが、俺はそれが誰だかもう知っている。司会進行役の教師がプログラムを見てマイクを口元に近づけるととある1人の名前を口にした。
「新入生代表宣誓 新入生代表クロナ・アル・ミラード前に」
はいッという言葉とともに立ち上がったのは1人の少女。
青い髪が特徴的な美少女でその肌の所々に鱗、さらには腰の方からは青い鱗に覆われた尻尾があるのは彼女が龍人族だと言う証拠だった。
そして彼女、否前に座るハルト以外の全員が、《六武族》の血が流れた者たりなのである。
「まずはじめに私たち新入生のため、このような素晴らしい式の準備をしてくださった先生方、生徒会、そして先輩達に心から感謝しております。
私達はこの期待を原動力にし勉学や鍛錬に励み、慢心せずただひたむきに努力し、そしていずれはかの魔法使い最強の称号である《魔法士》となることを目標に日々の生活を送りたいと思います!
新入生代表クロナ・アル・ミラード」
またも巻き起こる拍手喝采。
クロナは優雅に一礼し顔を上げた時、俺とバッチリ目が合った。
そんな彼女はどこか嬉しそうに微笑むと小さく手を振って来た。
ちょうど同じ方角にいた男共は、「今俺に手振ったよな!」だの、「もしかして俺のこと好きなんじゃあ・・・!」と妄想を爆発させるものまでいて俺は苦笑いを返すのが精一杯である。
彼女クロナとははおそらく《六武族》の中で1番付き合いの長い人物になるかもしれない。
とある事件後俺が人間不信になってしまった時も積極的に俺の元へ会いに来てくれてた数少ない大切な仲間の1人なのだ。
「これで入学式は終わりとなります。
新入生は月曜日からの登校なので遅れないようにしてください。それでは解散」
最後に一騒ぎあったものの無事に入学式は終了。
解散の言葉を皮切りにまたも話し声が大きくなる。俺はんーー!と体を伸ばすと大きな欠伸を行なった。
「レイくんどこでお昼食べようか?」
「ああ〜そうだったな・・・。散策程度に町にでも行ってくるか?」
「うんそれいいね!」
と春香は花の咲くような笑みを浮かべた。
300年前は本当に学園しか無い島だったらしいが、今ではちょっと電車に乗れば大都会ばりにビルや店が立ち並ぶほど島は発展していて、確か島の北のほうにあの世界的テーマパークの『デェスニーリゾート』があると何かの広告に書いてあった気がする。
そうと決まればハルトを誘って町の方にでも行ってみるかと思って顔を上げると、すでにハルトは近くまで来ていたらしく片手を上げて俺たちに近づいてきた。
「2人ともごめん待たせちゃったね・・・」
そんな謝罪を述べるハルトの顔はどこか疲れているような顔をしていた。
「ふーん。この子がハルトが行ってた子か・・・。中々可愛いわね」
とさらにハルトの後ろの方から声が聞こえてくる。
そちらの方に目を向けてみるとそこには耳が長く、絹のような金髪をなびかせた美しい美少女が凛とした佇まいでこちら・・・。正確には俺の横にいる春香の方を見つめていた。
「えっとハルくん?お隣にいる女の人は?」
そう聞く春香の口調に何を焦ったのかハルトは慌てて口を開いた。
「そ、その違うんだ!彼女はエルフ族代表ヘレナ・エルメイスさんでお昼にランチをご馳走してもらうことになったんだ!だからハルカもどうかなーって思って!」
そんなハルトの提案にえっ?と何故だか俺の方を見る春香。
何故俺をみる!
「えっと・・・。それはレイくんも一緒に行くって事でいいかな?」
「そんな冴えないやつ連れてくわけないじゃない。ハルトはあなたと私の3人でランチに行こうって言ってるのよ」
お、おう・・・・。なんとも直球な言葉だろう。
あまりのストレートさに春香はおろか、ハルトでさえ言葉を失っていた。
全く・・・、この少女は昔からちっとも変わっていない。
その直球な言葉、気の強そうな表情、そして吸い込まれそうな青い瞳、どれをとっても当時のままだ。
昔のことを思い出したせいか、少し頭痛のする頭を抑えた俺は、周りに迷惑がかからないように何とか平静を保って笑みを浮かべる。
「うー・・・。やっぱりモテる男は違うな!俺はお邪魔虫みたいだしさっさと退散することにするわ!」
「あ!まって・・・!」
と声がするが俺は振り返りもせず、逃げるようにその場を後にするのだった。
いざ長いセリフを考えると中々でないです。
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