第3話 VSクラーケン
第3話投稿させていただきます。
よろしくお願いします。
全長20メートルを超えるクラーケンをマジマジと見つめ俺は思わず、息を飲み込む。あんな太い触手でこの船を叩こうもんなら、間違いなく多大な被害を受けるだろう。
しかし肝心のクラーケンは何を考えているのか航路を塞ぐだけで、ピクリとも動かない。後ろからタタタッと足音が聞こえると俺の予想した通りの人物達が声を上げてクラーケンを見た。
「あ、アレってまさかだけど・・・!」
「クラーケン・・・!」
ハルトと春香はその大きさ故かゴクリと息を飲み込み、未だクラーケンを見上げる俺に話しかけてきた。
「こ、これってどうなるんだ?まさかこのまま進むわけじゃないだろうし・・・」
「俺にも分かんねよ。しかしまさかこんなイベントが起きるとは俺も予想外だったわ・・・」
インヒロではクラーケンは夏休みに発生するビーチデートのイベントに出現するはずの魔物だと記憶している。
ヒロイン達のエロシーンを持ってくるクラーケンをインヒロファンの中ではエロ神と愛称として呼ぶ奴までいるのだが、現実で見るソレはとてもエロ神とは言える代物ではなかった。
見える触手はどれも大木のように太く、吸盤はなんだか猫の鉤爪みたいなのが無数に生えているし、なんだかこう暴力を形にしたような感じの姿なのだ。
あんなのにヒロインが捕まったら肌とかも想像するだけで痛々しい姿になってしまう。
そんな想像をしてしまった俺は思わず頭から血が抜け顔が青白くなる。
「と、取り敢えず操縦室の艦長さんの指示を待つしかないな・・・」
「そうだね・・・。僕達はどうする?部屋に戻ってたほうがいいかな?」
ハルトの提案にイヤと俺は即座に首を横に振った。
「もしもこいつのせいで沈没なんてことになったら船内は恐らく大パニックになっちまう。それなら大人しく外で待ってた方が良いかもしれん」
恐らく沈没となったら上の階に行こうと通路は人がごった返しになるだろう。そして中々前に進まず逃げ遅れると言う可能性も捨てきれない。それなら初めから上にいた方が都合も良いだろう。
「わ、私も神原君の意見に賛成です・・・!」
「確かにそうかもね・・・」
と2人からの回答も得られた時だった。近くに設置されていたスピーカーから、ザザザッと一瞬ノイズが入ったかと思うと野太い男性。 艦長の声が聞こえてきたのだ。
『生徒の皆様。これより本船は一度後退し、クラーケンを避けて進行致します・・・』
船のエンジンがゴゴゴッと動き出したかと思うと、未だ切られていないスピーカーから怒号が聞こえた。
『新人!馬鹿がそれは前進だろうが!』
と不安な言葉とともに船はそのまま立ち尽くすクラーケンに突っ込んでしまう。
バゴンッ!!!
と衝突音が辺り一面に響き渡り、俺は恐る恐るクラーケンの方を見た。
アレほど巨大なのだからもしかしたら当たったことも気にしないと思っていたのだが・・・、それは大きな間違いだったらしい。
明らかにクラーケンにダメージが入っている!それにさっきまで白かったはずの色も全身が真っ赤にそめあがってるう!
「ま、まずいぞこれ・・・!!」
やばい明らかに激怒、こちらに敵対心を燃やし目もなんだか獲物を狙うような目になったクラーケンは、案の定二本の触手を天高く持ち上げた。
俺の顔はサッと急激に青くなって行き全力で叫んだ。
「ハルト!日向!しっかり捕まれぇぇ!!!」
ヒュッと二本の触手が振り下ろされる。
思わず目を瞑り来るであろう衝撃、痛みを待ち構えていたが一向にそれが来ない。
何故だ?とゆっくりと目を開けて見るとそこには船にぶつかる5、6メートル付近で何かの膜のようなものに阻まれた触手の姿があった。
「あれは防御魔法か?」
と呟くハルト。だが今は一体誰かなどと考えている余裕も時間もない。
「魔導具召喚 」
魔導具それは人の中に眠る魔力を体外に放出させるのを手助けする道具のことである。
空中で魔法陣が発生し俺は何もない空間から、30センチ程度の杖を引っ張り出すとヒュッと杖を振るう。それと同時に力を行使するための《言葉》を詠唱した。
「マナキャノン」
すると2つの大きな魔法陣が出現し、魔力の塊が凄まじい速度で二本の触手を弾き飛ばした!
「ハルト・・・!ここであいつを討伐するぞ」
信じられないような顔を向けるハルトだがそれも数秒。コクリと力強く頷くと目の前のクラーケンを見据えた。
「魔導具召喚!」
俺と同じく何もない空間から彼専用の武器が出現する。
杖を主体として戦う俺とは違い、剣術を織り交ぜながら戦うハルトの手には2本の剣。
「天道十心流 A級剣術士 月島 ハルトいざ参る!」
掛け声とともに全身に魔力を巡らせ身体強化をかけたハルトは、そのまま走り出すと手すりを踏み台にして一気に飛び上がった。
「天道十心流 四ノ技《連斬刃》!!」
ハシュッと風を切るような音が無数に響き渡り、飛び上がったハルトが落ちてくる。
スタッと船の上にハルトが戻ると二本の触手がまるで微塵切りされた様に細かくなって海へ落ちて行く。
『ギャアアアアアア!!』
痛むのか悲鳴の様な声を上げるクラーケンに追い打ちをかける様に、今まで魔力を高めていた春香が杖先を前に出して詠唱を開始した。
「第3階位 ウォーターキャノン!」
青色の大きな魔法陣がクラーケンの目の前に展開される。
魔法は神級と呼ばれる第一階位級から初級と呼ばれる第十階位級まで別れており、第一階位に近づくに連れ魔法の難易度や必要な魔力も多くなって行く。
「いっけーー!!」
まるで大砲の様に水の球が発射されクラーケンの体を数十メートルの距離まで吹き飛ばし、そのままクラーケンは動かなくなった。
微かの沈黙。
フーッと安堵からか息を吐き出すと後ろから凄まじい歓声が上がった。
思わず肩を震わせて後ろを見てみるとそこにはいつのまにか出てきたのか、代表の学生たちが皆俺たちに向かって歓声を送っている姿があったのだ。
戦闘で全然気がつかなかった・・・。
それにしても相当今回は運が良かった気がする。クラーケンは討伐するのは相当苦労すると魔物図鑑に載っていたはずなのだが、案外簡単に倒せてしまったからだ。
まあそれもそうか相手に交戦する暇を与えず、初見で触手を細切れにして高火力の魔法を打ち込みノックアウトさせたのだから・・・。
しかし何かが頭の隅っこに引っかかり、ムカムカした感覚がある。
何か忘れてる様な・・・?
俺が難しい顔をしているの中、明るい笑顔を浮かべながらハルトがこちらに向かって来た。
いや正確には俺の後ろにいる春香の元へだが・・・。
「すごいよハル!第3階位級の魔法を使えるなんて!」
「そ、そんなことないよ!ハルくんだってすごい剣術で私ビックリしちゃった・・・」
「うん。ハルを守るためにこれまで頑張ってきたからね・・・!」
肩に手を置かれた春香は顔を紅くしてハルトを見つめ、ハルトもそれを受け止める。
ほああああああああ!人のラブコメって見るのサイコおおおおおおおお!
と俺はそれを見ながらニヤニヤが止まらず、バレない様に口を手で覆った。
これで完全にハルトに落ちた春香。
これからの展開が妄想するだけで楽しくになってきてしまう。
完全に二人の世界になってしまったのを見届けて、未だキャーだの何だの言う学生達の方へ目を向ける。
触手が迫る中、防御魔法を展開し俺たちの命を救ったとも言える恩人。
それが誰かなのか俺は大体想像は付いていたが、その姿が見えない。
この世界へ転生し俺が1番想い続け会いたいと願っていた相手なのだが仕方ない。それも学園生活を送っていれば自然と会える様になるだろう。
学生達から視線を外し俺はもう見える位置にある島に目を向けた。
もうすぐ始まる学園生活。
どんな事が待っているのか俺も少しワクワクしながら笑みを浮かべ、未だ見つめて何か話し合う2人をそっとしようと踵を返そうとした。
その時俺の脳裏がスパークを受ける様に何かを思い出した。
そうそうだ。クラーケンは超再生という個性スキルを持った魔物であり、長期戦を強いられる魔物と書いてあったのだ。
倒されても数十秒後にはダメージを完全に回復させているため、現段階では再生させないまでに細切れにするか、眉間に埋め込まれている魔石を砕くしか討伐できない・・・。なんでこんな肝心なことも忘れてしまっていたのだろう。
背中に冷や汗が浮かび上がり、視界の隅に入り込んだそれを見て俺は本日2度目の叫び声を出す。
「ふたりともおおお!!あたまさげろおおお!!」
その声にキョトンとした2人。
次の瞬間まるで鞭の様に迫ってきた触手の攻撃が、ハルトの腹部を捕らえそのまま弾き飛ばす。
ゴフッ!と胃液を吐き出すハルトはそのまま海の方へと飛んで行く。
思わず舌打ちし持っていた杖を振るってハルトに向かって風魔法を行使。
瞬時に身体強化をかけるとそのままジャンプして今ので腰の抜けた春香を抱えた。
「か、神原くん!!」
彼女は恥ずかしさからか顔を先程よりも真っ赤にさせていた。俺は安心させる様に微笑みを浮かべると続いてきた触手の攻撃を防御魔法で完全に受け止める。
「す、すごい・・・!」
感嘆の声を出す春香を無視して俺はさらに続ける。
あのクラーケンを一発で倒せる魔法。そのための準備は今整った。
「雷神よ 轟け 光よりも早く 駆け抜けろ【第2階位魔法 レールガン】」
いくつもの魔法陣が形成されまた構築され金色に光る小さいが強大な魔力量の魔法陣が完成した。そのあまりの魔力に空気は震え、まるで地震が起きた様に船を揺らす。
「消し飛べ」
俺がそう口にすると魔法陣から光が出現しクラーケンを飲み込んだ。光の速度を超えたその攻撃は海を裂いてそのまま地平線に消えて行く。まるで近くで流れ星を見ている様な錯覚を起こしてしまうほどその姿は幻想的であった。
「あなたは一体何者なの・・・?」
突然そんな事を聞いてきた春香はどこか熱がある様にボーッとしていて少し色っぽく、濡れた目で俺を見つめてくる。
俺は少し考えるが、頬をかきこう答えるのが精一杯だった。
「俺は只の友人Aさ・・・」
そうしてクラーケン事件は幕を下ろし、次の日から怒涛の学園生活が幕を上げるのだった。
言い忘れていたが吹っ飛ばされたハルトは、後で俺が強めの回復系統の魔法をかけるとケロッとした表情で立ち上がったことをここに記載しておく。
次からは学園生活編になります
少しでも良かったまた読みたくなった方はブックマークまた評価、レビュー等などもらえると執筆の力になりますので待っています。
ここまでありがとうございました!