第2話 立ち話
第2話ですよろしくお願いします!
「なあ、おばちゃんはさあ恋とかした?」
どら焼き片手に俺はバンダナを巻いた60代程度のおばさんに話しかけていた。
「そうさねえ・・・。私も昔はぶいぶい言わせたもんだよお?」
昔を思い出したのかどこか頬を赤く染めるおばさんを無視してこのどら焼きマジでうめえなーと適当な事を考えているとおばさんはジト目でこちらを見つめてきた。
「あんた絶対興味ないね!?あんたからこの話題振ってきたんだろうが!?」
これが美少女なら可愛いのだろうがおばさんだもんなあ・・・。
「いやほらね・・・。そんなことよりこのどら焼きまじでうまいんだけどおばさんの手作り?」
そんな急な話題転換におばさんはやれやれと言わんばかりに長い溜息を吐き出す。
俺が今いるのは船にある売店である。
ギャルゲー主人公の月島 ハルトとメインヒロインの日向 春香 の出会いイベントを邪魔をしてはいけないときたのだが・・・。
正直に言うと暇である・・・。
なーーーーーーーんにもやることがない。
たしかに色々と持ってきているのだが、なにせ船に乗るということだったので軽く遊ぶものそれこそトランプとかオセロとか将棋とかしか持ってきてない。
しかもどれも相手がいないとできないゲームばかりなのだ。
ほかに友人はいないのか?と聞きたい人もいるだろう。
仕方がないだろう!中学の友達なんてこの船にはほとんどいないんだよ!
なんせこの船にいるのは全国でも優秀な少年少女が選ばれているのだから。
学校とは行ったもののようはその国の優秀な人材を見せるようなものだ。
こうでもしないと多種族に舐められるという苦肉の策だかなんとかという話をたしか出発前に政府機関の男の人から聞いたな。
そんなわけで知らない奴に声をかけるのもなんだか面倒なので、今まで周りには声をかけていなかったが・・・。
こんな状況に落ち入るならばそろそろ周りにも声をかけねばと割と本気で考えている時だった。
通路の向こうから見知った姿を目撃したのである。
そこには楽しそうに話しをする金髪美少年ハルトと栗色ボブショー美少女の春香の姿があったのだ!
これどうしよう・・・。このまま隠れてようかしら?と悩んだ俺だったが、ハルトがこちらにむかい手を振ってきたのでおとなしくそっちへ行くしか無くなってしまった。
見るのはいいんやけど側にいるのはちっと気まずくねえ?
そう思いながらも仕方ないかと肩を落とし、俺は食いかけのどら焼きを一口で頬張った。
そして財布から二千円を引っ張り出すとおばさんへ向かって差し出す。
「おばさん!あんことイチゴホイップと抹茶とカスタードとチョコ餡のどら焼き二千円分頂戴!」
「あいよー」
とおばさんさんは手慣れた手つきでどら焼きを袋に詰め込むとはいよーと手渡してきた。
「なんか多い気がするんだけど?」
「おまけだよ。友達と一緒に食べなあ」
おばさんの厚意に深く感謝しながら俺は袋を持ってハルトの方へと歩き出したのだった。
自分の行動の所為ですでに自分の知っているギャルゲーとは違う物語が動き出していることにこの時はまだ知らないのである・・・。
◆◆◆
私の名前は日向 春香。
今年から学園に通う新入生だ。
今はその学園がある島に向かって豪華客船みたいな船に乗り込んで3日ほど過ぎたのだが、私は奇跡的な出会いを果たしたのである。
私の幼馴染で昔は毎日のように一緒に遊んだ記憶のある男の子。
昔よりもだいぶ身長も伸び、今では頼り甲斐がありそうな青年に成長していて、私は思わず頬を染めてしまう。
こんなにカッコよくなるなんてハルくんずるいよ・・・!
昔の面影はあるがだいぶ変わったハルくん。
思わず心臓の鼓動が早くなると思いきや何故だかそうはならなかった。
きっと彼と会う前だったら・・・。
もしかしたら私はこんなにも成長したハルくんに恋をしていただろう。
でも・・・、私にはすでに心に決めた人がいた。
あの時助けてくれた人の顔が未だに忘れられない。
あの時の彼の表情、言葉、魔法全てがつい昨日のことのように思い出せてしまう。それほど私は彼に心惹かれていた。
「そうだった!僕、春香に紹介したい友達がいるんだよ!きっと気にいると思うよ!」
昔話に花を咲かせる中、そう言うハルくんの顔はとても無邪気で、たったそれだけでその人がとても良い人なのだとすぐ分かった。
「いこ!」
と手を引く彼の手はあったかく男らしいくて、思わず少しドキッとしてしまったが次の瞬間にはそれも吹き飛んでいた。
少し眠たそうな顔にちょっとボサついた髪の毛、あの時に救ってもらった彼が今目の前にいる。
どら焼きが大量に入った袋を持ちながら、歩み寄ってきた彼は袋を持ってない方の手を挙げると眩しい笑顔で笑う。
たったそれだけで私の鼓動は早くなって行く。
こうして私と彼の運命的な出会いを果たすこととなったのだ。
◆◆◆
「よっ!ハルトその可愛い子誰だ?まさかお前早速逆ナンされたのか!?」
「そ、そんなわけないだろう!この子は僕の幼馴染でほら前に話したことあっただろ!?」
「ふーん」
目を細めて疑う顔をする俺に未だ抗議をするハルト。まあそんなことは分かっているのだが、こう言う反応はやっぱり新鮮で良いなと思ってしまう。
やっぱり俺は少し捻くれているのかもしれない。
少しハルトと会話をしながら俺はチラッと、ハルトのそばにいる少女を見る。
ちょうど目と目が合うと彼女はどこか恥ずかしがって目を背けてしまった。
お、俺なんかしたかなぁ?と本気で困惑している中恥じらいながらも春香が口を開く。
「あ、あの!私日向 春香っていいます!よ、よかったらあなたのお名前を教えてください!」
そんな彼女に俺は何度も頷きもちろんと答える。
「ああいいよ!初めまして俺の名前は神原 レイだよろしく」
「神原レイさん神原レイさん神原レイさん・・・」
なんだか下を向いてブツブツと呟く春香さん。
初めましてとは言ったけど実は彼女とは以前会ってたりする。確かあん時は家の仕事で、地方を巡っていた時のことだった。広い空き地に10人程度のチンピラに囲まれてる姿があったのだ。
本来ならばそんな相手苦もなく倒せる程春香は強いはずなのだが、彼女の友達が人質に取られているらしく動けないでいたので、その不良どもを俺は千切ってはないが投げたり、魔法を使って失神させたりと片付けた訳である。
2年前のことなので彼女は覚えてないだろう。
まあそれはそうとなんだか腹が空いてきてしまった。
俺は欲望に忠実なのだ。
「まあここじゃあれだから飯でも食って話でもしようぜー」
「うんそうだね。そろそろお昼だし僕も行こうかな・・・。ハルはどうする?」
「わ、私もいく!もうお腹ペコペコだよ!」
2人もどうやら昼食をとることに決めたらしいので船内にある食堂へ行こうとした時だった・・・。
俺は嫌な予感を感じ取り船の外に目を向けた。
春香もどこか真剣な表情を浮かべると少し顔を青くする。
「ど、どうしたんだ2人とも?」
とハルトの言葉に釣られるように船内が大きく揺らぎ始める。
ゴゴゴゴゴ!
「うわっと!」
俺は何とか倒れないように踏ん張ったが、側にいた春香はバランスを崩し倒れそうになるのをハルトが受け止めた。
「春香!大丈夫か!」
「う、うん。あ、ありがとうハルくん」
「当然だろう俺はお前を守るって約束したじゃないか・・・!」
「ハルくん・・・」
ハルトと春香のラブコメシーンが展開されるなか、俺は見たいという欲求を抑えつけ、その場から走り出して船内から出る。
するとそこには20メートルはあるかと思われる巨大なイカだかタコだかの化け物クラーケンが、何を考えているか分からない目で船を見下ろしているのだった!
ご感想などありましたら是非もらえると嬉しいです!