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「薬草って、どんな物なの?」
次の日の朝、治療に必要な薬草を探すとの事で、僕は朝早くからリーンに連れ出されていた。いや、僕が疲れに任せてなんとか眠り、そして目が覚めたときにはすでにリーンの姿は無かった。ご飯を用意してくれた奥さんも笑っているように見えし、朝早くと思ってるのは僕だけかもしれない。
ともかく、僕はリーンの後を付いて森に入っていた。僕が何の役に立つとも思えないけれど、残ってもやることはないし言葉も通じない。まあ荷物持ちぐらいは出来るはずだ。
「消炎、解熱、鎮痛に効果のある野草です」
彼女は剣を振りながら答えた。風を切る鋭い音とともに、進路を邪魔していた枝が落ちる。先程からそうして彼女が切り開いてくれるおかげで、快適とは言えない獣道を僕はついていく事が出来ていた。彼女がずっと持っていたその剣を振るう所を初めて見たけれど、その剣さばきは正確で切っ先が見えないほど速い。というか、普通に歩きながらただ腕を振ってるだけに見えるんだけど……それはどう考えても力を込められる体勢には思えない。なんでそんなに鋭く振るえるんだろうか。そんな不思議な光景を眺めつつ、僕は会話を続けた。
「魔法の薬草とかないんだ?」
「ありません。この世界で魔力を帯びるのは、第三種生命と魔物だけです」
僕は改めて周囲を見回す。地球の人間がこの森を見てここが異世界だと信じることはできないだろう。不思議な草だとか謎の鉱物だとか、そういうファンタジー色はまったくなかった。植物に詳しいわけではない僕には、それが地球とどう違うかなんて分からない。もしかしたら地球の植物学者が見たら泣いて喜ぶ光景だったりするのかもしれないけれど……うん?
「魔物?」
「イズミさんの持つ語彙から近いものを考えるとそうなると思います」
「なにが……?」
「魔法を使えて人間に襲いかかる危険な存在です。だから魔物」
え?
「なにそれ……。初めて聞いたんだけど」
「言ってませんし」
相変わらず彼女は平然としていた。うん、確かに僕は「この世界に魔物って居るの?」って聞いたりはしてない。これだけ地球に近いんだからそんな事思いつくわけない。
「なんでそういう大事そうな事を言ってくれないの!」
それにしてもこれは酷くないだろうか。思わず声を荒げた僕は悪くないはずだ。魔物って。そんなのが居るなら、この森の中だって危険なんじゃ?
「危険と言っても、めったに遭遇することはありませんから。イズミさんが元の世界で交通事故に合うよりよっぽど低い確率ですよ」
てっきり「聞かれませんでしたので」と返ってくると思っていたけど、彼女の答えは違っていた。いやしかし、それって確率の問題なんだろうか? 逆の立場で考えてみる。日本に来た異世界人が居たとして、「交通事故で突然死ぬ事があるから注意してください」と……は、確かに言わないか。むしろ「安全な国ですよ」と言いそうだ。あれ? なんか納得してしまった。
「いや、うーん、それならまあいいんだけど……なんで魔物は魔法使えるの?」
なんだか問い詰めるのも馬鹿らしくなって、僕は別の事を聞いた。……折を見て「この世界と元の世界の違いを教えてくれ」とでも言っておいた方がいいかもしれない。
「それは……そうですね、それを知りたいというのがイズミさんの願いですか?」
「え、なんで?」
特に意味があるわけでなく、ふと思いついた疑問だったのだけど、彼女は不思議な事を言いだした。わざわざそう言うからには神様に願いを叶えてもらえる権利を使うかと言ってる?
「私はこの世界の一般的知識内でならイズミさんの疑問に答えます。これは、一般常識は願いを叶える上で必要であるという判断です。しかしながら、先程の疑問の答えは一般的に知られている知識ではありません。ですので知りたければそう願ってください」
その冷たいとも言える物言いにちょっとびっくりしたけれど、それはよく考えてみればもっともだ。彼女は神様の知識をもった人間で、なんでも答えてくれるなら何かを知りたいという願いは要らなくなる。なんで魔物が魔法を使えるのかは、この世界の住人にとっても謎で、もしかしたら神様にお願いしてでも知りたい事なのかもしれない。気を取り直して、僕は別の疑問を口にした。
「なるほど……じゃあ、魔物ってどういうやつなの? 一般常識だと」
「どういう、と言われると困りますけど……人間の形をした魔力で構築される奇妙な存在、でしょうか? 何故か人間に襲いかかってきて、しかも魔法を使ってくるのでかなり危険です。死体……の一部が魔力を帯びることから、死骸は高値で取引されます。なので専門で狩る人間もいます」
何故か襲いかかってくるって、どういう事だ。
「危険度は千差万別で、魔法が使えない一般人でも対処可能なものから、たった一体の魔物が国を滅ぼしたなんて話まであります。そこまで行くともはや災害だとか呼ばれますね。弱いものはよく出現しますが、そこまで強力なものはめったに居ません」
国が滅びるなんて、地球だったら火山の噴火とか大きな戦争だろうか。たしかにそれは災害だ。というか、やっぱりこの星って危険なんじゃ?
「要するに、人間と一緒ですね」
初めて知った地球とこの星の違いに怯んでいた僕に、最後に彼女はそう付け加えた。
一緒って何が? ……まさか危険度? え、この星の人間って一人で国滅ぼせるの?
「あ、そこに生えてる草です。根っこから切り取ってください」
唖然とした僕を気にもせず軽い調子でそう語ると、彼女は僕に地面を指し示した。
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本来の目的を思い出した僕は、借りてきたナイフで彼女が指した野草を採取にかかった。ギザギザの葉が放射状に、層をなして生えている。見たことのない草だ。確か感染症を防ぐ魔法は無いって話だったけど、こうやって薬草が必要になるということは病気を治すこともできないのだろうか。
「病気を治す魔法は無いの?」
「そうですね。一般的には不可能とされています」
「一般的には?」
「はい。とても難しいというだけで、理論上は可能なので。もしそんな魔法を使えるようになりたければ、そう願ってください。万病を念じただけで治すような魔法は不可能ですけれど」
やっぱりそんな便利な魔法は無い。でもそんな奇跡のような魔法じゃなくても、簡単な病気を治せるだけでも、それで生活していく事もできるかもしれない。怪我をした男性の家で、男の子がリーンに向けていた尊敬の眼差しを思い出す。
「そういえばあの人って、この森で大怪我したんだよね」
「そうですね。狩猟の途中と聞きました」
「それは魔物じゃないの?」
「野生動物と聞きましたけど」
そういえばそう言っていたか。なら安心……じゃないよね? 猟師って要するに野生動物を狩る専門家で、それがあんな大怪我をしたのだ。
「危なくないの? 今。僕たち」
「まだ狩られて無いそうですし、危ないですよ。しかし頼りになる護衛が居ますので」
護衛?
「我々は旅の医者とその護衛という事になっています」
「え……医者と?」
「護衛」
指さされた。
「え、なんで護衛?」
「あれ、奴隷のほうが良かったですか?」
「いや、もうちょっとましな、例えば……」
例えば、なんだろう。僕らは少なくとも家族には見えない。リーンが信じられないくらいの美少女で僕が十人並みという悲しい理由だけでなく、そもそも髪の色も目の色も全く違う。それに僕はこの国の言葉も分からない。彼女が何の役にも立たない一般人を連れて旅をしていると言うよりは、不思議な格好をした謎の異国人護衛が付いているとしたほうがまだマシか? 奴隷よりは格好いいし。いや、そうじゃない。
「いやまあそれは置いておくとしても……それは単に設定上でしょ? 現実問題として、僕は野良犬にも勝てるか怪しいけど?」
「野生動物ぐらいなら私がなんとかしますよ」
「なんとかって……」
猟師ですら大怪我したのに、彼女の細腕で? まさかその剣でどうにか……いや違うか。
「それはつまり、魔法で?」
「はい」
「魔法ってどんなものなの?」
「そうですね……」
一瞬で怪我を治したり病気を治したりは出来ないのは分かった。じゃあ魔法で出来る事ってなんだろう? その僕の疑問に、彼女はすこし考え込むと、振り向いて持っていた剣を差し出してきた。刀身を上に向け、柄をこちらに向けているのは、僕に剣を持てということだろうか。柄を握る彼女の指は細くしなやかで、こんな所にも彼女の美しさが現れていた。
というか手ごと握っちゃいそうなんだけど良いんだろうか? そんなどうでもいい事を考えていたせいか、僕はその剣が渡された瞬間驚くことになる。
「重っ!?」
ついさっきまでリーンの細腕で、それこそ目にも止まらない速度で振るわれていたその剣は、しかし渡されてみるとずっしりと重かった。さすがに取り落とす程ではないし、振れと言われればなんとかなる。でもこれを正確に、しかも風切り音をさせて振るなんて無理だ。いかに細くとも、腕の長さほどもある金属の塊がどれほどの重さになるのか、僕は初めて知った。
「私の筋力は普通の人間と同程度です。この体格にしては結構あるほうだと思いますけど、イズミさんと変わらないでしょう」
僕の手から剣を取り戻しながらリーンは言う。なんか僕をすごい非力だと言ってないかな? いや、非力なんだけども。男としてどうなんだろう。
「それでもこうやって剣を振る事が出来るのは、魔法の力によります。これは最も基本的な魔法の一つである運動量の操作です」
そう言ってやはり目にも留まらぬ速さで剣を振るい、更には手を離す。しかし手を離れた剣が地面に落ちること無かった。誰も触れていない剣が、空中に静止している。更にそれはゆっくりと回り始めて、ついには風を切って高速回転しだした。その不思議な、まさに魔法の光景に、僕は目をみはる。
「正確には、運動量を持つ粒子を生み出して物体を操作する魔法です」
そう言いつつリーンが手を伸ばすと、剣は唐突に静止して再び彼女の手に収まった。そのまま剣を鞘に収めた彼女は、今度は足元の小石を拾う。
「これを利用すると、こういう事も出来ます」
小石を手のひらにのせ、遠くを見据える彼女。次の瞬間、手のひらの小石は消え失せた。風を切る音と何かがぶつかる音、そして甲高い動物の鳴き声が、随分先の木の上から聞こえた。
「当たりましたね。貴重な蛋白源ですよ」
そう言って彼女が指さした方向に、1羽の鳥が地面に落ちていた。
「魔法の力の源は空間を充填するエネルギーの一種です。これをわかりやすく魔力と呼びましょう。魔力によって人間の魂は作られていて、余剰分を魂の方向性、つまり意思によって世界に物質として作り出す。これが魔法の基本原理です。詠唱や動作はその方向性を作り出す補助的手段として用いられます」
地面に落ちた小鳥の元に向かいながら、彼女はそう語った。と言っても先程のリーンには特に詠唱も動作も無いように見えるのだけど。治療の時も詠唱は雰囲気とか言ってたし。それにそもそも。
「というか、魂ってなんなの?」
「人間の精神を作る……なにか、ですね。詳しく知りたければそう願ってください」
ああ、僕はその魂が違うから、願いを叶える権利を得たのだった。この質問に答えが得られる訳がない。しょうがなく僕は自分なりの解釈を口にした。
「神様が人間のために作った不思議な装置が魂で、魂は魔法で出来てるから人間は魔法が使える?」
「そういう事ですね。見た目上無から生み出している様に見えますが、これは通常の物理法則に従った力です」
そう言いながら彼女は獲物を拾って僕に渡してくる。
「でも……どう見ても物理法則無視してるように見えるけど……たとえばエネルギー保存の法則とか」
「空間の対称性は保たれてますよ? 魔法によって作られる物質は、時間の上位構造よりエネルギーが支払われています」
対称性? 時間の上位構造? この子が喋っているのは僕の知識から得られた日本語のはずなのに、なんで分からない単語が飛び出すんだろう。
「つまり……」
僕が全く理解できていないのを感じたのか、彼女はしばらく考え込んでから口を開く。
「つまり、魔法によって物質を作り出すとします」
言葉と共に上向きに差し出された彼女の手のひらの上に黒い針、というより小さな矢か。それが音もなく出現する。それは彼女の手のひらから数センチ離れたところで浮かんでいた。その不思議な現象に目をむく僕だったけれど、すぐにその矢は風を切る音を残して射出された。
「作られた物質は、エネルギーを必要とせず出現し、エネルギーを伴わず消滅します。よってエネルギーは保存されています」
語りながら歩を進める彼女に着いて、僕はその矢が飛んでいった先に向かう。そこにはリスのような小動物が横たわっていた。彼女に促されて、恐る恐るそれを拾った僕は目を疑った。
リスというより耳の長くないウサギだろうか? その小動物には確かに穿たれた傷が残っていて、そこから赤い血を流して絶命している。やっぱり血は赤いのかという疑問が頭をよぎったけれど、そんな事より問題は傷が残っている事ではない。
傷しか残っていないのだ。
突き刺さっているはずの魔法の矢は跡形もなく消えていた。
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……いや、やっぱり物理法則無視してるでしょこれ。
「魔法を使わなくても、石を投げれば同じことができますよね。投げられた石は突然動き出したように見えますが、それは人間の動作によるものです。この場合の運動量はより上位の構造、この星の角運動量から支払われていると言えます。同じ様に魔法は一見不思議な現象でも、それは魂の動作によって起きています。そしてそれは通常の物理法則の範疇に収まります」
彼女はそう付け加えたけれど、僕には理解できたとは言えなかった。
「うーん、やっぱり不思議な力としか思えないけど。これって疲れたりしないの?」
魔法で石を投げるのと、魔法を使わず石を投げるのが同じだというなら、魔法を使う分疲れないとおかしくないだろうか。さっきから彼女は説明のためにどんどん魔法を使っている。いや説明はついでで単に食料を集めてるだけかもしれないけど。仕留めた動物は僕の背負っている籠にしっかり収められている。しかし剣を振るのも魔法だという話だし、同じことをやれと言われたら、僕はヘトヘトになるだろう。
「そうですね。個人差はありますが行使量に限界があります。人間が物理的に活動し続ける事に限界があるように、ですね。何もしていなければゆっくり回復しますが、限界が近くなると疲労や頭痛を感じ魔法を使うのが難しくなって行きます」
「やっぱり疲れはするんだ。限界になると使えなくなるって事?」
「いえ、使えはするのですが、限界を超えると魂を固定できなくなり死に至ります」
「死ぬの!?」
「はい。ですので感じる限界のかなり手前で使うのを止めるのが推奨されています。それでも戦争などの極限状態ですと死亡例が多数あるらしいですよ? もし魔法関係の願いを叶えるのであれば覚えておいてください。魔法行使量の限界を無くす事は願いの範疇を超えますので」
「う、うん」
そう、なんか恐ろしい話になったけど、僕が魔法について聞いてるのは魔法を使えるような願いを叶えるかどうかを考えていたからだった。彼女は親切で、少なくとも願いに関係することには誠実だ。多分誤解の生まれないとても正しいことを言っているのだろう。でも誠実すぎて、神様の知識から語られる彼女の言葉は難しすぎる。僕はもっと直球で聞いてみることにした。
「結局魔法って何が出来るの?」
「それはまた、哲学的な質問ですね」
「哲学?」
「この世界で魔法とは、現象であって物理法則であって、またはそれを利用する技術の事です。ですので出来るといえば何でも出来ますし、かと言って何でも出来るわけではありません」
「ええ?」
「イズミさんは科学とは何が出来るのかと聞かれたら、なんと答えるのです?」
「それは……」
答えようとして僕は言葉に詰まる。確かに科学技術だって突き詰めれば何でも出来るといえるかもしれない。現代の、僕がいた地球の科学で出来ない事だって、将来的に絶対出来るようにならないとは言えないだろう。しかし、科学技術で出来ないことは確実にある。要するに、これも質問が悪いのだ。
「じゃあ科学で出来る事は魔法でも出来る? というより、そうだね、地球の科学技術で出来ないことでも魔法でなら出来るって事はあるのかな。あとはその逆」
「そうですねえ、先程のように一見無から物質を取り出すような事は科学ではとても困難でしょうね。しかし小動物を狩るという結果だけ見るならば同じことはいくらでも出来ます」
「ふむ」と少し考えてから、彼女は付け加える。
「一般物質と同じものを作り出すならば、科学技術と魔法は同等と言えるかも知れません。魔法の得意な分野はやはり一般物質で無いものを作り出せる事でしょうか。慣性制御や……あるいは見た目上の無限機関なども魔法では比較的容易です」
「慣性制御?」
「えーと、反重力のような物です」
要するに宙に浮くってことだろうか。いや、それなら科学でも結果的に同じことは出来る。疑問に思った僕だったけど、それはとりあえず置いておいて彼女の言葉に耳を傾ける。
「科学技術と違うのは、それが一般的になり得ないという事ですね。魔法技術はそれを使う人間の才能による所が大きいのです。例えば失われた四肢を再生する魔法がある一方で、昨日のような単純な治療の魔法でも使い手は限られます。変わった所では確実に当たる占いの魔法なんてのもありますが、おそらく唯一の使い手である女性が死ねば失われるでしょう。これらは技術の蓄積によって生まれた物ではないからです」
つまり不思議な事はいくらでもできるけど、本人でもなんで使えてるか分からないから教えることが出来ないのか。
「そういう意味で魔法は技術の集積による機構を作る事は不得意と言えますね。コンピューターのような物を魔法で再現するのは難しいですし、意味がないでしょう。願いの権利を使えば大抵の魔法は使えるようになりますが、限度はあります。これは使い方次第でもありますが」
「使い方?」
「例えば高速で移動する魔法を考えます。瞬間移動は第三種限界……つまり物理法則上の限界を超えていて、願いの権利で使えるようにするのは不可能です。しかし、単にとても早く移動する魔法ならば問題ありません。瞬時に移動するという目的を果たす事は出来るわけです」
そうか、結局魔法を使えるようにするというのも、なにか目的があって願う事なのだ。
「あとは、特殊な魔法が使えるからといってそれが生活を保証する訳ではないのも注意点ですね。有りすぎればトラブルの元になるのはお金も魔法の才能も同じです」
彼女の言葉に、僕は再び考え込む。魔法を使えてなにがしたいのだろうか。
「例えば知らない言葉が分かるようになる魔法っていうのは?」
「ええ?」
とりあえず今僕が困ってるのは言葉が通じない事だ。しかしその言葉に、今まで歩きながら会話していた彼女は立ち止まって振り返る。
「それはどういう仕組みで働く魔法なんでしょう。一応不可能ではないですが同時通訳のような便利な作用は無理ですね。そもそもそれは言語を覚えたほうが早いのでは?」
盛大に呆れらた。
「でもさ、言葉も通じないし……生きていく方法だって必要だよね」
「そうですね」
「結局その辺の問題、全部なんとかなる願いって無いかな」
僕の言葉に彼女は小さく嘆息して答える。
「その質問に答える事が、イズミさんの願いですか?」
いや、それが叶ったらすごい悲しい事になるよね? 方法だけ知ってどうするのさ。
「そうじゃなくて、うまく色々叶う願いってないかなって」
「確かに様々な恩恵が同時に与えられる願いはあります。しかしそれはこうありたいという願望を叶えているだけです」
願望?
「何か望みがあるなら、それに沿う形で願いが叶います。世界一の魔物ハンターになりたいのなら、魔物と戦う力や知識、立場が同時に叶えられる訳です。イズミさんの場合、現状の不満を解消したいだけで、それは望みではないですよね?」
え、そうだろうか。確かに、僕は与えられた環境で生きていくにはどうしたら良いかと考えてる。それは望みじゃないんだろうか。
「ただ漠然と、なるべく不満の無い人生を願う事も可能ですが、効果は保証しませんよ。イズミさん別に魔法が使えなければ、それはそれで大きな不満は感じないでしょう? お金や言葉だってそうです」
それは……確かにそうかも知れないけれど。ただ平穏に生きていきたいって、願望じゃないのかな?
リーン3「魔法」-3
魔法によって増減する情報量を考えると頭がおかしくなって死ぬのでやめてください。