勘違いする彼女は手に負えない〜早くその勘違いを治さないと〜
本日は幼馴染に呼び出された。なんでも、紹介したい人がいるようだ。
目の前にいる茶髪で身長が一七四cmの男。顔はかっこいい部類に入る。ふとした時の笑顔が素敵だそうで女性にモテる男。彼の名前は宏哉という。彼が私の幼馴染だ。そして、彼が隣にいる美人さんを紹介してきた。
「こいつ、悠人っていうんだ」
悠人というのは、だいたいが男の名前ではないだろうか。はて、と首を傾げた。だって、目の前にいるのはどうみても女性である。胸元は膨らんでいるし、着ている服はワンピース。髪も腰にあるくらい長い。
改めて、悠人と呼ばれた人を観察する。目が大きくパッチリとしていて、二重でまつげも長い。肌は白くて綺麗だし、髪はサラサラと風になびいていた。薄く化粧もしていると思う。だから、私は最終的に女性だと結論づけた。
悠人という名前を親につけられたのは、何か理由があるのだろう。
「私は宏哉の幼馴染のあきっていいます。お願いします」
「よろしくね、あきちゃん」
ペコリと頭を下げ合う二人であった。
悠人さんの声は高くもなく、低くもなく、中性的な声。彼女の素敵な要素の一つだろう。
「宏哉。悠人さんみたいな彼女さんがよくできたよね」
うんうん、と一人で首を縦に動かしている私であった。宏哉は私の発した言葉と行動に目を丸くさせていたようだ。
「はい!? やめてくれよ、あき。冗談いうなって!」
「私に事実を言われたから? それとも、悠人さんがいるから? まぁ、どちらにしても照れる必要はないですよ」
ニコニコと微笑ましく、宏哉を見た。
「お前、まさか……」
私の反応に、嘘だろ、とでもいうように宏哉は呟いた。私はそのことを不思議に思うだけだった。
僕は悠人。友達の宏哉の幼馴染を紹介してもらえることになった。上から目線で言われて、突然幼馴染に会うから来いと言われた。会う当日に連絡があるってどういうことだといいたいが、そこはグッと我慢した。
僕を宏哉の彼女だと勘違いしているあきちゃんは可愛いと正直に思う。小さくてふわふわしていて柔らかそうだ。美人な女の子よりは可愛いといわれる女の子だろう。
黒い髪を揺らして、ちょこちょこと歩み寄る姿が小動物のようだ。たれ目をしていて、ガラス玉のような瞳が綺麗だ。唇にあっているピンクのグロスも似合っている。頰が赤く染まって、照れている姿はもっと可愛いんだろうなと想像した。
「もう、何度も言わせないで! 宏哉がそんなに薄情な人だとは思わなかった。酷すぎる!!」
「だ・か・ら! 言ってるだろう? 悠人は俺の彼女じゃなくて友達!」
「うわーー。 本当に最低! こんなに綺麗な人を捕まえておいて、他の人もって魂胆なの? 私、宏哉を軽蔑する」
冷ややかな視線を宏哉に向ける彼女。その目にうっ、となって少し怖気付いている彼。そろそろ、ボロボロに言い負かされている彼が可哀想だから助けよう。
「あきちゃん」
「はい、なんですか? 悠人さん」
宏哉を見ていた氷のような目ではなく、陽だまりのような温かな目をしていた。僕はそんな些細なことに心中で舞い上がりながら、彼女に尋ねる。
「あきちゃんは、僕を女の子だと思っているの?」
「わー! ボクっ娘なんですね。萌え要素だーー」
「えと、あきちゃん?」
「はっ!? ご、ごめんなさい。なんですか?」
僕はもう一度彼女に同じことを尋ねた。返ってきた反応は想像通り。
「悠人さんは女の子ですよね? 肌が白くて、綺麗な顔しています。それに、ワンピースを着ていて、胸の膨らみもあり、髪が長いです。女の子でないはずがありません!」
ハッキリと否定されてしまう。彼女の様子に苦笑している宏哉がいた。彼女の自信満々な表情を見て、自然と笑みを浮かべてしまう。しかし、残念なことに僕は男だ。
「ごめんね、あきちゃん。僕は男なんだ」
「そんなわけがありません! 私のためにそんな冗談言わなくていいですよ。私は宏哉とは幼馴染であって、恋人ではありません。なので、心配はご無用です。」
「あ、あきちゃん?」
「私は二人のことを応援します!」
キラキラとした目で僕を見つめる彼女。僕は目をパチパチとさせてしまった。男と言って信じてもらえず、さらに応援されてしまうとは思わなかった。宏哉に目線を向けると、あちらもこちらを見ていたようで、目が合う。
「(僕、宏哉の彼女とか嫌なんだけど……)」
「(俺も悠人の彼氏は嫌だよ。早くあきをなんとかしてくれ)」
「(えーー。どうしようかな? 勘違いしている彼女も可愛いからこのままにしておく?)」
「(お前、俺の彼女は嫌だって言っただろう。ずっと俺の彼女の演技し続ける気かよ)」
「(可愛い彼女を見れるのは嬉しいけど、それは拒否したいな。うん、ちゃんと訂正して、男だと認識させるよ)」
そのように目で会話している僕たちを見て、彼女がまた勘違いすることになるとは知らなかった。
宏哉と悠人さんが見つめ合っている。私はお邪魔虫かな。二人は照れていて、公にするのは恥ずかしいから、恋人だってことを私に言えないのかな。まぁ、なにはともあれ、二人は思い合っていてラブラブだってことだね。
「あとは、二人でごゆっくり〜〜!」
ニヤニヤと笑い、見つめ合っている二人の前から去っていこうとした。
「待って! あきちゃん」
「待て、あき。」
宏哉には手首を、悠人さんには腕を掴まれてしまう。私は二人の行動に困惑した。とてもこの行動の意味がわからない。
「えっと? 私はもうご退場した方がよろしいと思うのですけど?」
「あき、まだ盛大な勘違いをしているな」
「あきちゃん、僕の話をちゃんと聞いてほしい」
「もう! 惚気話なら他でやってください。恥ずかしくて聞けませんよ!」
はぁ、とため息を吐いている二人。同時のタイミングだったので、それほどに仲が良いのかと感心した。
「あきちゃん、お願いだから、ね?」
私の顔を覗き込んで小首を傾げる仕草は反則技です。私は、それを悠人さんがやることに、なんて美しさがあるのかと悶えていた。
「あーぁ、悠人。やりすぎだ」
「うん、ごめん。あきちゃんが微動だにしないほど、この仕草に破壊力があるとはね。」
「そろそろ、自覚した方がいいと思うぞ。悠人の女顔にも行動にも破壊力はある」
「僕、そんなものいらなかったよ。それより、あきちゃんの意識が彼方に行ってるけど、どうする?」
宏哉は再度ため息を吐いて、彼女を呼びかける。
「あき! おい、あき!!」
「しあわせ〜〜」
ぽわっと遠くを見て、そう呟く彼女にどうすることもできずに手をこまねいた。
結局、あきは勘違いしたまま俺たちの前から去っていった。
「頑張れ、悠人。お前の恋は前途多難だな」
「元はといえば、君のせいだよね」
「あれ? そ、そうだっけ?」
「君が、女の子の姿で行けば、距離が近くし、気軽に話せるって言うからこんな屈辱的なことをしたのにさ。」
「す、すまん。 だが、俺もあいつが俺の彼女だと勘違いするとは思わなかったんだよ」
二人して作戦の練り直しになるだろう。ちなみに、悠人があきを知ったのは、宏哉が自慢して見せた写真からである。悠人はそれを見て、彼女を紹介してほしいと彼に必死に頼み込んだのだ。
悠人は、彼女との仲良くなることが失敗するくらいなら、女装なんかしないで会えば良かったと思う。また、どうせ女顔なんだからする必要がなかったかもと思っていた。
「とにかく、僕が君と付き合ってるってことを訂正しておいてよね。このままだと、僕の想いは彼女に届かないからさ。こんなことになったのも君のせいなんだから、頼んだよ」
「お、おい! 待てよ。 おい!!」
スタスタと歩いて帰っていく悠人。たしかに、女装すれば視覚的には女同士になるから、仲良くなりやすいとは言ったさ。でも、決めたのはお前だろう、という愚痴を奥深くに飲み込んだ。そして、あきの勘違いを正すために邁進することになるのである。
約半年あきの勘違いを正すために動き続けた宏哉。最初はあきが悠人が男だということを否定していて、俺を冷たい視線で貫くのだ。
あの視線は虫ケラを見るような目だった。しまいには、なんで悠人さんはこんなのを選んだんだろう、という始末。頼むから俺が悠人にチクチクと言葉で刺されないように、彼が男だと早く認めてくれ、と何度も思ったよ。
あきの勘違いが直るまで、俺は悠人に毒を吐かれ続けた。こいつらもうやだ、と自分の運命を呪ったことさえある。俺は頑張った。なぜなら、悠人に言われたあの言葉は本当に恐ろしかったからだ。
「宏哉。あきちゃんの勘違いを早く訂正して。もし、できないなんて諦めたら、僕は君に何するかわからないよ?」
うん、思い出しても身震いがする。悠人の背後に吹雪が見えたからね。
あきの勘違いが正されて、対面することになった彼女と悠人。
「む、胸がなくなってる……。髪の毛も短い……。本当に、男の人だったの?」
再度、彼と会った時の一言がそれだ。
「宏哉」
悠人にギロリと睨みつけられ、どういうこと、と目線が語っている。しかし、俺はブンブンと首を振って、勘違いは正されていることを示す。これ以上何かあっては困る。自分の身は大切なのだ。
「あきちゃん、僕は男だよ?」
「でもでも、やっぱり信じられません! 悠人さんが男の人なんて……」
「うーん、……あきちゃん」
急にあきの手を取った悠人。彼の胸元に彼女のそれは触れる。彼女は彼の行動に頰を真っ赤に染めていたが、疑問系で呟いている。
「か、かたい?」
「そうだよ。僕は男だよ、あきちゃん。手だって女の子の君とは違って大きいでしょう?」
「えぇと、女性にしては背が大きいと思っていたけれど、男の人だったから?」
「女性でも背は高い人はいると思うけど、あきちゃんの言う通り。僕は男だ」
「じゃ、じゃ、じゃあ、宏哉とは……」
「?」
なんだか、俺は嫌な予感がしてきた。悠人が男だと言うことをあきが認めたのはいいが、とてつもなく嫌な予感がする。
「男同士の恋人だったっていうことですか!?」
「あれ? そっちにいっちゃうの?」
あきの反応に悠人は俺を見て、なんとかして、と訴えている。俺は冷や汗を流しながら、なんとかするために動き出すのだ。
本当にやだ、この二人、と思うも悠人と二人がかりであきの更なる勘違いを正そうと動くのだ。