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婚約話

「ヴィオラ。お前は自分が何をしたのかわかっているのかな?」


とても冷ややかな目で私を鋭く見下ろしてくるお父様。


その目に睨みつけられ私は震える事しかできない。


(と、都市伝説じゃなかったぁぁ~~~!)


お父様が怖い人だなんて想像できなかったけれど、今、この身で体感している。


そしてどうしてそこまでお父様を怒らせているのかというとさかのぼる事数時間前の婚約話に話は戻る。




「い……や……?な、何故ですか!?やはり私が公の場に出るのが恥ずかしく、弟にマイクをつけさせて会話を聞き取ったり、逆に僕の代わりにしゃべらせたりといった身代わりを頼むような卑怯者だからですか!?」


「え?あ、いや……。」


(あぁ……だから身代わりを使っていたにもかかわらず私を引き留めたとか言っていたのね。)


というか、そんな理由は完全どうでもいい。


さらに言えば、こんなこと子供同士で決められるわけもない。


(いや、っていうかこの話持ち帰られたら間違いなく国王陛下に婚約したいと話し、国王陛下のお許し出ちゃうパターンよね!?)


ここからはあくまで推測だけど、悪役令嬢ヴィオラはとにかく自分が大好きな女だ。男はステータスとか言って王子に将来を申し込まれたら王子に気持ちなどなくても簡単に許可しただろう。


しかし、そんな事私はしない!!というかできない!!


(そう、すべてはヒロインちゃんとの栄えある未来の為なのよ!!)


好きだというなら理解して!!


と、自身の思いも打ち明けずそんなことを思ってしまう。


でも、ヒロインちゃんがどうのとは言えない。


だって、まだ出会っていないのだから。


未来に会うとか言ったら予言かなんかの能力があるとも思われかねないし、とにかく嫌としか言えなかった。


そう、大変光栄ですがお断りしますだのなんだの言葉を選んでる心の余裕はなかったのだ。


「お願いします。私のようなものには貴方のような強く凛々しい女性が隣にいてくださらなければ駄目なのです!」


「い、いえ、ですから私は……。と、というか、こういった話は私たちでするものではないですし……。」


「……私たちでするものでは……ですか。」


「は、はい。それに貴方様は一国の王にゆくゆくはなられるお方。安易に決めるのは差し出がましい意見なのですが、い、いかがかと。」


「……ヴィオラ嬢。貴方は本当に変な人だ。」


(っ!?へ、変!?この人、今変って言った!?)


気弱な王子かと思えば以外という事は言うし、かと思えば自虐ネタ出すし、もう訳が分からない子の王子!


というか、このずぶとさとか行動力さえあれば私がいなくと駄目ではないはずだ。


……ていうか……


(非常に面倒くさい!!)


意外となつかれると面倒なタイプだったりする気がする。


(こ、これは友人になられても面倒なタイプかもしれない。……できればただの知人に落ち着きたい……!!)


心の底からの願いだ。


しかしそんな私の願いなど知るよしもなく、フォルテ様は私の手をいっそう強く握ってくる。


「わかりました。そういう事でしたら先にしかるべき行動をとりましょう。」


「は……?」


(ど、どう言う事……?)


意味が解らず呆ける私を無視してフォルテ様は近くで控えるフラットンお兄様の元へとすたすたと歩いて

いく。


フォルテ様がお兄様の近くまで行かれたところでふと我に返り、私はその後を追いかけた。


「フラットン、馬車を用意してください。やるべきことができたので今すぐ城へと戻ります。」


(や、やるべきことってなんだっ……!?)


嫌な予感しかしないその言葉は私の背筋をぞっと凍らせた。


一体何をするつもりなのだろうか。


「ヴィオラ嬢。」


「っ!!は、はい!!」


にっこりと柔らかな天使の笑みを向けられ、つられて私も頬を引きつりながらも笑顔を浮かべる。


正直、もうあからさまなつくり笑顔なんじゃと不安でたまらない。


「ヴィオラ嬢。僕は貴方のような方に初めて会いました。だから――――――――」


にっこりと浮かべられた笑みがどこか怖くて、ひどく緊張とこわばりを覚えていた私の手をフォルテ様はつかんだ。


そして私の体を勢い良く引き寄せると私の体を抱きしめ、私の顎を持ち上げる。


「必ずあなたを手に入れます。覚悟していてください。」


綺麗な顔で不敵な笑みを浮かべた彼はとても魅力的で私は言葉を失った。


そして、見とれてしまっている間に気づけば私とフォルテ様の唇は重なっていた。


「なっ……!!」


「ま、まぁ……。」


お兄様やお母様は何やら声をあげていた。


しかし、私にはそんな声は届かない。


やがて時が止まったかのように固まる私とフォルテ様の唇がゆっくりと離れていく。


「マーキングです。」


「っ……!!」


不敵に、そして子供なのにどこか艶っぽさを含んだ笑みに私の顔は真っ赤に染まり熱を帯びていく。


「し……失礼いたしますわ!!!!」


あまりの恥ずかしさに耐えきれなくなった私は王子を突き飛ばし、駆けだした。


(五歳児の癖に、五歳児の癖にっ……!!!)


消えない。


唇の熱。


柔らかかった感覚。


そして少し甘いお菓子の味。


(ほんとっ……意味が解らない!!!!)


王子の性格がよくわからない、付き合いきれない。


そんな思いを抱き、胸の中で叫びながら私は急ぎ邸へ入り、自室に閉じこもった。


そして王子は「また来ます。」と不穏な言葉を残して帰宅。


夜が来て私は帰宅後のお父様に呼び出されたのだった。


「さぁ、言ってみなさいヴィオラ。お前は何をしたのかな?」


蛇に睨まれた蛙とはこの事だ。


さながらお父様が蛇で私が蛙。


もう、胃が痛い。


「お、王子の婚姻の申し出をお断りして、えっと……お、王子を突き飛ばし……は、走り去りました。」


(ず、ずっと睨まれてるよ……!)


親馬鹿のお父様と思えない程の睨み具合に恐怖しか感じられなかった。


「……はぁ。本当であればアルトバーン家の人間として、当主として、私はお前を叱らなければならないのだろうな。」


(……え?)


ため息とともに力のない優しい声が聞こえてくる。


怯えて目をそらしていた私がお父様へと向き直るとお父様はとても困った顔をしていた。


「……おいで、ヴィオラ。」


「は、はい。」


かがんで私へ腕を広げてくれるお父様。


私は言われた通りお父様の腕の中へと近づいていく。


そして、優しく抱き寄せられた。


「……怖かっただろう。突然ほぼ知らぬ男からのキスなど……。」


「お……お父……様……?」


「国王陛下からもお言葉を頂戴してきた。……愚息が済まない、と。」


「こ……国王陛下が?」


突き飛ばしたりしたのは私で、無礼を働いたのは私だ。


なのに、何故。


そんな事を思っている私の頭をお父様の大きくて温かな手が撫でてくれる。


「女性に無体を働くよう育てた覚えはないとおっしゃっていらっしゃったよ。ただ、王子は執着心がお強いようなんだ。普段は臆病であまり広くは手を出されないお方だが、一度気になりだすと他に手を出さない分の力が全て気になるものへの動力と変わってしまうそうだ。それほどまでにお前を気に入ってしまったのだろうとも仰っておられてな。」


「は、はぁ…………。」


(……じゃあ、普段は本当に気弱な性格なのかしら。臆病という事は、そういう事よね?……でも、話を聞く限り欲しいものは何をしてでも手に入れるっていう暴君に聞こえるんだけど。それで臆病とかあり得なくない?)


でもまぁ、世の中にはヤンデレだのなんだのあるくらいだ。


……そういう性格に人もいるのかもしれない。


(……よくよく思い出せばヤンデレ、似合いそうだな……。)


今はまだ天使の笑顔だったけれど、数年後の彼が浮かべているのは天使の笑顔とは限らない。


……歪んだヤンデレ的な笑顔かもしれない。


(……というか、本当あんまりよ。私、ファーストキスだったのに…………――――――――ん?ちょっとまって?)


すごく自然にファーストキスという言葉が浮かんだ。


前世の私について私は色々思い出せない。


だけど、もしかしたら……!


(こ、こんなストレートにファーストキスって言葉が浮かぶなんて、私もしかして前世でキス経験ゼロっ!?)


恐ろしく不要な情報だ。


……むしろ、そんな悲しい女であったと知りたくなかった。


(……でもまぁ、国王陛下も無体だのなんだの謝罪してくれているわけだし、婚約話はもう――――――)


「そんなこんなでだ。お前のファーストキスを奪ってしまった責任を取ってもらい、将来妃として迎え入れてもらう事となった。」


「…………………………え?」


「良かったな、ヴィオラ。」


「え、いや………えっと…………―――――」


キラキラととても輝く瞳。すごくいい目で、心からめでたいと思っているといわんばかりの瞳。


そんな瞳を見たら―――――


「は、はい…………。」


(絶対いやだなんて言えない……。)


執着か何だか知らないけれど、将来的にその人に私は飽きられるんです。


だなんて言えるわけもなく、私はつくり笑顔を浮かべて父と共に婚約を喜んだのだった。


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