ドストライクなショタ登場
「まぁ、とても可愛いわ、ヴィオラ!!」
「あ、ありがとうございます、お母様。」
浮かない顔をする私を着せ替え人形のようにして何着もドレスを着せてくるお母様。
お母様と一緒にそんな着せ替えを楽しんでる侍女たちもいる。
(早く解放して……。)
いくら王子様が来るからといってドレスを着せるなんて流石におかしい。
お見合いでもさせる気なのだろうか。
(……ん?お見合い…………?)
何故だろう。
なんだか引っかかる。
何が引っ掛かるのか、それを必死で考える。
何か、何かを忘れている気がする。
(あぁっ!!思い出したわ!!フォルテッシモ第一王子は攻略対象じゃない!!)
なんですぐに気づかなかったのか。
そう思うけれど仕方がない。
だって、ゲーム内表記はずっと「フォルン」だった上に、ヒロインちゃんに身分を偽って近づき、仲良くなり、最後にひどく溺愛していた婚約者のヴィオラからヒロインちゃんに乗り換えるストーリーだった。
……フォルンで覚えていたせいか第一王子という大ヒントがあったのに思い出せなかったのだ。
(……これは、これはまずい……!)
フォルテッシモ第一王子は確かヒロインちゃんに「一目惚れ」と告げていた。
自分の意志が強く、堂々としていて、何より我がままが言えるところがまた素直で好きとか言っていた気がする……。
(一目惚れって事は既に好かれている可能性があるって事よね!?……やばい、やばいわ!その婚約はヒロインちゃんの親友ポジになるにはかなり邪魔じゃない!!)
仮に私が親友になれたとしよう。親友の婚約者を好きになって、その婚約者と最終結ばれることはヒロインちゃんの心優しき性格が許さないと思う。
もしヒロインちゃんが王子ルートに進んでしまったらその先の未来はBADに行きかねない!
そしてヒロインちゃんの恋のキューピッドどころか邪魔する私は親友を大っぴらに名乗れなくなる!!
むしろ、「親友なんだから何でも相談してね?」とか言った暁には反感だって買うかもしれない!
そして、それらを置いておいてもこちらは名門公爵家の令嬢。
庶民であるヒロインちゃんと王子が仲良くしていたら私の家より階級の下の家の女の子たちが絶対嫌がらせとかするはず!「身分をわきまえなさい。」とかいって!
(た、確かヒロインちゃん以外は夜会であった事とかがあって王子であることは知っているって設定だった気がする。だから、余計にヤバい……!)
もし仮に私がヒロインちゃんとの接触に少しでも出遅れたとしよう。
(確実に女の子の嫌がらせは私の差し金と思われ、出会う前から嫌われる恐れあり……!)
そうなればヒロインちゃんの傍にはいられない。
(下手をすると私はそのままずるずる投獄または死刑の道をたどるかもしれない……運命という名の忌々しいものによって……!)
昔、何かのゲームで小さな運命は変わりやすいが大きな運命の波は変えられないと聞いた事がある。
そして間違いなくどのルートでも投獄もしくは死刑のヴィオラはそういう大きな運命の波の中にいるはず!
(こ、これは一つもしくじれないわ……!)
私の人生の結末は一つしくじるとこんにちはバッドエンド、さようならハッピーエンドっ……!
(こ、婚約反対……。)
何が何でも婚約をしてはいけない理由ができてしまった。
(……と、なれば一目惚れした私ではない私で接すればいいんだわ!!)
まずは「嫌われない程度に興味をそぎ落とそう大作戦!」を決行しよう。
(嫌われてしまうと楽かもしれないけど、それするとお父様のお仕事に差し支えたりするかもしれないし、それは嫌だもの……。)
なので、嫌われない程度に「思っていた女の子と違った。」という印象を相手に植え付ければOK!
(でも、多分大丈夫だわ!確かに二週間前までの私はちょ~っとわがままなお嬢様で、気に食わない事があったらすねる。そんな少女だったわ。でももう大人の精神を取り戻した私はこの贅沢すぎる転生生活においてわがままを言う事はないわ!)
まぁ、正直に言うと結婚関連は言いたいけど。
でも、それは貴族の娘に生まれた定め。いつかは家の為にどこかに嫁ぐ覚悟は正直できている。
しかし、ヒロインちゃんに出会う前の結婚は反対!
そしてヒロインちゃんと親友になった暁にはどこぞのモブでも構わない!攻略対象以外との結婚を望むわ!!
(……それによくよく考えれば学校に通いだしたら貴族ばっかなんでしょ?だったらそこでまぁまぁ位の高い適当な人見つけたらお父様も許して下さるんじゃ……?)
そんなことを考えて一度しっかりと計画を立ててみる。
(いけるっ……!!)
お父様の事だから同じ公爵家とかだったら許してくれそうな気がする。
そしてあの親馬鹿だ。
好きな公爵家の人がいるとなれば身分も申し分ないし恋愛結婚させてくれるはず!
(そうよ、そういう作戦で行きましょう!)
そして私がそのどこぞの公爵のご子息と結ばれればヒロインちゃんの恋路を邪魔することはなく、ヒロインちゃんの幸せを見守っていられる!
(最っ高の作戦だわ!!)
自分の作戦に自画自賛をし、一人盛り上がる私の耳に扉をノックする音が聞こえてくる。
「奥様、ヴィオラお嬢様、第一王子フォルテッシモ様がお見えになりました。」
(えぇっ、もう!?)
あれやこれやと着せ替え人形にされている最中だというのに来てしまったというのだろうか。
(これでは王子を待たせるなんていう失礼なことになるんじゃ……!)
「あら、ちょうどよかった。今準備ができましたのよ。」
(……え?)
準備ができたといわれて近くにあった鏡を見る。
(誰っ!?)
可愛らしい5歳児の女の子にはちょっと似合わない肩が完全に出ているドレスを身にまとい、髪は大きな三つ編みに編まれてなんだか小さな花のようなものがところどころにささっている。
(何故こうなった!!!)
お母様の趣味なのかもしれないけれど、この髪型は某プリンセスの一人の塔の上にいるお姫様みたいだ。
いや、髪型はまだいい、問題はドレスだ!
「おおおお、お母様!さ、流石にこんな肩を露出していては私、恥ずかしいですわ!」
「あら、ローブ・デコルテのドレスはよく似合っているじゃない。」
顔を真っ赤にして講義を始める私の言葉を聞く耳持たないという感じに受け流すお母様。
(こういうデコルテのドレスは胸とかある人が似合うのよ!!)
子供が着るものでは絶対ない!!
「う~ん、だってね?ヴィオラったらとても大人っぽくなったんですもの。所作もそうですし食事の仕方も。なんだかこう、ね?だから大人っぽいドレスも可愛いんじゃないかと思ったら大正解!これからはこういったドレスをたくさん着ていきましょうね?」
(いやいや!着てどうする!!子供がこんなドレス着てたらおかしいから絶対!!)
夜会で悩殺でもしまくれとでもいうのだろうか。
これでは変にませてる子供って印象しかきっと受けないだろう。
「あ、あの、奥様、お嬢様。その、大変申し上げにくいのですが、先程から王子様がこちらにお見えになっておりまして……」
「!?」
「あらいやだ、お待たせしているの!?ほら、いきますよヴィオラ!」
「えっ、あっ、お、お母様っ!?」
(さ、流石にこのドレスはまずいですって~~~!!)
そんなことを思うもどこか天然な母は止められず、ついにその先に手王子が待つ扉が開いてしまう。
(会うだけでも憂鬱なのに、その上こんなドレスを着続けていなきゃいけないだなんて……)
あぁ、もう嫌だ。
「ヴィオラ嬢!!!」
(……ん?)
扉が開くと共にすごく明るく、嬉しそうな声が聞こえてくる。
その声が気になり、気分が下がっていたせいでうつむいていた私の目に一人の少年が映った。
「お久しぶりです。私を覚えてくださっていますか、ヴィオラ嬢。」
キラキラと嬉しそうに笑うとても可愛い美少年。
(ド、ドストライクショタ来た―――――――!!!)
ヒロインちゃんが大好きな私。
だけどそんな私にはほかにも大好きな属性がいた。
それが、美少年ショタだった……。