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大事な話

翌朝、まだ日が昇り切らないうちに屋敷を発ち、別宅へと到着したのはもう日が傾き始めた夕刻ゆうこくの事だった。


(うぅ、緊張するっ……!)


もう長らく顔を合わせていないお母様とお父様。


二人はとても優しい。


二人とも怒ると怖いけれど、基本的には温厚で優しい人だ。


そう、だからこそこの悪役令嬢であるヴィオラが生意気かつわがままに育ったんであろうと考えられる。


(だ、大丈夫!前世の記憶がある今、きっと大人社会でも私はうまくやっていける!!)


……気がする。


そんなことを思っていると屋敷の扉がゆっくりと開いた。


「ヴィオラ―――!」


「っ!!」


扉が開くとともに一人の女性が私へと抱き着いてくる。


……母だ。


「お、お母様、ご無沙汰しております。お変わりありませんでしたか?」


「えぇ、母は何も変わりませんよヴィオラ!」


私に抱き着き、頬ずりをしながら私の頭をなでる器用な母。


お変わりない溺愛度だ。


「うおぉぉぉぉ、ヴィオラぁぁ――――!」


「っ!!」


私を抱きしめる母ごと抱きしめてくる男性。


ちょび髭が少し可愛い情けなさげなのが我らが家長の父だ。


しかし、今は情けなさげに見えるけれど、仕事の際は人が変わったように冷酷になり政をするそうで……正直、想像ができないので都市伝説的な何かだと思っている。


「お、お父様もお変わりありませんか?」


「変わらないよ、すごく変わらない!でも愛しい娘、お前は大きくなったね!!」


(そ、そりゃ半年も離れてたらね……。)


子供の成長は速い。


半年ほどでまぁ、少しは目に見えて変わると思う。


そんな中二週間ほど前に前世の記憶を取り戻した私は――――


「なんだか急に大人っぽくなったわね、ヴィオラ。」


「えっ!?あ、そ、そうですか?」


……母の言うよう急成長しているように見えてもおかしくない。


「いやぁ、女の子が育つのは速いというが、本当に早いものだね。」


「そうね、貴方。もう立派なレディですわ。」


私を見ながら目を潤ませ喜ぶ二人。


前世で子はもちろん、恋人すらいなかった私は子供が何なのかなんて考えたことがない。


こんなに感動する事……なのだろうか。


それともうちの親が異常?


そんなことを考えていると扉の先からもう一人姿を現した。


「ようやくついたか、ヴィオラ。」


「フ、フラットンお兄様っ!?」


きっちりとした身なりに透き通るような美しくやわらかそうな金髪を揺らし、

金色の瞳で私を凛々しくも優しく見つめてくるのは長男、フラットンお兄様だった。


「どどど、どうしてこちらにいらっしゃるんですか!?今は王宮に部屋をいただいていると伺っていたのですがっ……!」


「おやおや、少し見ない間に私の妹は言葉の使い方が大人になったようだ。」


(はっ……!!!)


しまった。


そう思いながら私の頬に汗が流れる。


思い出してみれば私は一切の敬語を使っていなかった。


……最後にフラットンお兄様に会った時は。


数か月前にフラットンお兄様が本堤へ戻られた時は私は「敬語を無理に使わなくていいよ。」というお兄様のやさしさに甘え、お兄様に敬語を一切使っていなかった。


だけど、フラットンお兄様が帰ってからすぐメロディお姉様が「言葉は女のたしなみよ。」といって私に敬語を教え、フラットンお兄様にも使うよう言われたのだ。


だから、敬語が使える様になっていてもおかしいことではない。


でも、いくら何でもこの使い慣れた感は流石に怪しまれるレベルなのかもしれない……!!


「メ、メロディンお兄様に教わったの!!どう!?上手に話せてた!?」


わざわざ敬語をやめて問いかける。


するとフラットンお兄様は小さく息を吹き出し、私の頭をなでた。


「とても上手だったよ。立派なレディで思わず求婚してしまうそうだった。」


優しくも真剣なまなざしに見つめられ、私の頬は赤く染まる。


お世辞という事はわかっていてもこんなイケメンに見つめられては恥ずかしがらずにはいられないというものだ。


「こんなに愛おしい妹だ。メロディンから奪ってしまいたくなるよ。」


「え?……きゃぁ!」


笑い交じりの言葉を吐いたフラットンお兄様は私を高々と抱き上げた。


「ヴィオラ。挨拶のキスをしてもいいかい?」


「も、もちろんです、お兄様。」


「ふふっ、また敬語に戻ったね。」


私のコロコロ変わる口調が面白いのか、お兄様は笑いをこぼすと私の頬にキスをした。


そして、「僕にもしてくれるかい?」と聞かれたので私もお兄様の頬にキスをした。





(……よくよく考えると自然にキスしてしまったけれど、私、なんて恥ずかしいことしたのよ!!)


前世、私はおくてな日本人女性。


キスだなんて事したことがなかった。


いくらこの国のあいさつとして慣れてしまっていて体が勝手に動くといっても、前世の記憶を思い出したからかひどく恥ずかしくなった。


それに……


「あ、あの、お兄様?そろそろおろしてくださいませ。」


「おや、もうかい?もう少しだけだ、構わないだろう?」


お兄様に抱き上げらながらお父様とお母さまの後を追う私。


(心は成人女性な私には羞恥プレイだ!!)


と、思いながらピカピカに磨かれた窓に映る私とお兄様を見つける。


そこに映るのは可愛い幼女とお兄様。


それを見ると不思議と「ありだ。」と思って心が落ち着いた。


「さぁ、この部屋に入って。もう夜も遅いしここで話そう。」


「フラットン。貴方もぜひ食べて帰ってね。」


「ありがとうございます、母上。」


招かれた部屋は食堂だった。


長い長いテーブルがこの家ではよく晩餐会でも開かれるのだろうという事を察しさせた。


(本当にお父様とお母様はすごい人なんだなぁ……。)


お父様は仕事に奔走し、お母様はお父様が仕事をしやすいようにいろんな方とお付き合いをされている。


……違う世界の人間。


そんな風に感じてしまう。


「さて、ヴィオラ。お前にはとても大事な話があるのだ。」


(っ!!き、来た!!)


話といわれてごくりと唾をのむ。


一体、何の話が――――――


「第一王子のフォルテッシモ様の事はお前も知っているだろう?」


「え?あ、は、はい。年明けに王宮で開かれた晩餐会でご挨拶しましたわ。」


「うむ。よかった、覚えていてくれたか。実はな、その時に話した話の内容がどうも楽しかったそうでな。もう一度会いたいとおっしゃっておられるのだ。」


「は、話の内容……?」


(……まって、私、一体何の話をしたかしら。)


そう思い必死になって記憶を探る。


……だけど残念ながら何も思い出せない。


むしろ、その時、しっかりと男性のお姿で出席されていたメロディンお兄様にひどく早く会話を切り上げてオーラを送られていて、本当に早く話を切り上げる事しか考えていなかったはず。


(な、何の話をしたっけ……本当に。)


思い出さないとやばい奴ではなかろうか。


「そういう事でな、明日、わが家に訪ねてくるそうなんだ。」


「えぇ!?明日ですか!?」


「えぇ。私たちも貴方に会いたかったし、貴方を呼ぶにはちょうどいいと思って。本当はメロディンも呼びたかったのだけれど、フォルテッシモ様がどうかメロディンは外していただきたいというものだから……。」


(……ちょ、ちょっと待って、第一王子って確か私と同じ歳でしょ!?その年にしてお兄様の溺愛ぶりを見抜いたといういの!?)


なんと末恐ろしい子供だ。


……いや、王になる器である由縁なのだろうか。


人を見る力があるという事なんだろう。


(で、でも、急に明日だなんて……!)


「ちなみにこれは決定事項だ。私が明日、王子を屋敷へとお連れする。ずいぶん大人っぽくなったお前だったら大丈夫だと思うが、粗相の無いようにな。」


そういいながら優しく笑うフラットンお兄様。


そして、お父様とお母様も嬉しそうに、楽しみそうに笑っている。


(か、帰りたい…………。)


誰もが笑みを浮かべる晩餐で一番幼い私だけが一番浮かない顔をしていたのだった。


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