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勘違い

前世、乙女ゲーマーであった私が好きだったゲーム。【歌姫と瞳の奥に隠されしヴェリテの詩】の悪役令嬢に転生した事実を知ってからはや2週間の時が流れた。


「ヴィオラ!今日こそ一緒にお風呂に入りましょう!もう一人は嫌よ!」


メロディンお兄様ことオネエ様であられるメロディお姉様は私に泣きついてきた……。


……二週間前の事だ。


「私、もうお姉様とお風呂に入るのはやめにします。」


兄のスキンシップが異常であり、おそらく私は兄にとっては性欲の対象という事を察したからにはこれが当たり前の対策だと思った。


しかし、そんな私の突然の発言にお姉様はひどくショックを受けられた。


「ど、どうして……?どうして突然そんな事っ……!」


「……わ、私もレディですから。い、一応お姉様はお姉様だけどお兄様ですし……。」


……身体の作りだって、私と違うし。


心が幼女のままであればまだよかった。


しかし、私は前世は成人していた立派な女性!


15歳の青年と裸の付き合いをするのはちょっと……あれなのだ。


(わ、私だって成人していたからちょ~っとくらいは18禁乙女ゲームにだって手を出してたのよ!ヒロインちゃん目当てに!!だから恥ずかしいのよ!!)


なんてことは言えず、とにかく言葉を濁しまくった。


だけど、そんな私の気持ちなんて知らず、お姉様は私の肩を掴んだ。


「一人で入るとでもいうの!?身体だっていつもお姉様が洗ってあげていたじゃない!」


(いや、だからそれが問題なんだってば……。)


目を潤ませながらも真剣な目つきで私に訴えかけてくるお姉様に私は心の中で突っ込んだ。


良い年下大人の精神を取り戻した私にとって今までのお兄……お姉様との入浴を思い出すと完全に【アウト】としか言えない……。


それほどまでにスキンシップがとにかく過激!!


身を守るためにここだけは譲れない。


そうおもってそこから二週間、屋敷の使用人たちを使い何とか一人でお風呂に入り続けた結果、今に至る訳だ。


「お、お姉様、良いお年なのですからお一人で入れるようになってください。」


「嫌よ!まだ貴方と入りたい!」


(そこ、粘らないでよ!!!!)


そうまでして入り違られると逆に身の危険を感じるのだ。


だけど、大人の精神を持っている私にとって現時点私より年上とはいえ、15歳の青年に泣きつかれるのは……というか、お姉様女装しているから完全女性にしか見えないし。……声変わりも遅いみたいでまだだし。


(こ、こんなかわいい子を泣かせているなんて心苦しい……!!)


「…………わ、わかりました。でも、週に一回だけ!あ、あと、その……お兄様は身体にタオルを巻いてください。その、仮にもお姉様が自信を淑女というのであれば恥じらいをもって、その…………」


「ヴィオラ~~~!」


「きゃぁっ!」


瞳をウルウルさせていたお姉様が私に思い切り抱き着く。


その行為はもじもじとどんどん声が小さくなっていった私に大きな悲鳴を上げさせた。


「それさえすれば一緒に入ってくれるのね!?」


「え……い、いや、えっと……あ、あと、体はもう自分で洗えます。なので一緒に入るだけ!入るだけですよ!!」


「それでもいいわ!!一緒にまた泡で遊びましょう!」


嬉しそうに私に抱き着いてくるお兄……お姉様。


すごく嬉しいのか、ちょっと痛い……。


(……にしても、泡で遊びましょう……か。)


変に警戒しすぎてやましいことをしたいんじゃなかろうかなどと考えていた自分に恥ずかしさを覚える。


(……ごめんなさい、お兄様。)


実の兄を何だと思っているのだといわれても仕方ないと思う。


そんな風に考えていてごめんなさいと心の底から私は思った。


「あっ、ヴィオラお嬢様。こちらでしたか。」


「あ、リディ。」


私を見つけて走ってくるメイドのリディ。


彼女はメイドの中でもすごく有能で、基本的に私のお世話を担当してくれている。


そばかすに赤毛。


ちょっとだけ赤毛のア●を思もわせるその身なりがちょっとツボだったりする。


「ヴィオラお嬢様。実は突然なのですが明日、私と共に奥様と旦那様のいらっしゃる別宅へ参りましょう。」


「……え?」


「ちょっと、リディ!どういう事よ!私とヴィオラを引き離す気!?」


突然のことに気が動転してまるで私を渡さないと言いたげに私を抱き寄せリディを睨むお姉様。


睨まれたリディは困ったように笑っている。


「ち、違いますよ。ぼ……お嬢様。奥様と旦那様がヴィオラ様と合わせたい方がいるとの事で……。」


「……お父様とお母様が?そう。なら私も行くわ。」


「「えっ!?」」


お兄様の発言に私とリディの声が重なる。


お兄様は基本この家から出たがらない。


なのに私と共に別宅へ行くだなんて耳を疑わずにはいられなかった。


「なんだか嫌な予感がするのよね。男の匂いがするわ……!」


(な、何それ……。)


男の匂いとは……と思いつつ苦笑いを浮かべてしまう。


そんな私を見てお姉様はムッと頬を膨らませた。


「信じていないわね!女の勘よ、女の勘!」


(そもそも男のお兄様にそんな勘あるの……?)


女の勘といわれてもしっくりこないというか、俄か信じがたいというか……そんなことを考えているとリディが困ったように笑った。


「メ、メロディ様?奥様と旦那様よりヴィオラ様だけを連れてくるように申し付かりまして……。その、メロディ様はお連れできなくてですね……。」


「なんでよ!妹が狼に食われないように監視することの何がいけないの!」


(……狼はお兄様だけだから。)


行き過ぎた心配にそんなことを考えてしまう。


正直、悪役令嬢の人生についてはあまり情報もなかったし、呼ばれた先で合わせられるのかが誰かなんて想像はできない。


だからヒロインちゃんの親友ポジ獲得のために何かをしなければいけないイベントなのかは判断はできない。


(でも……お父様とお母さまが呼んでるなら行かなきゃよね。)


そう、選択権など私にはない。


それが貴族だ。


「わかったわ、リディ。準備しておくわね。」


「ヴィ、ヴィオラ~~~。」


「大丈夫よ、泣かないでお姉様。そんな心配する事なんてきっとありませんわ。」


にっこり笑ってお姉様を安心させられるようふるまい、そっとハンカチをお姉様に差し出した。


お姉様は私のハンカチを受け取りにじみ出た涙をぬぐう。


(……にしても本気で泣いているのかしら、お姉様は。)


一応、この人男だよな……?と思いつつもいや?やはり心は女性……などと考えてしまう。


(そもそも、過度なスキンシップだと思っていた事すら私の思い過ごしでは?心が女性なら私をそういう目で見てはいないはずよね?)


恋愛対象、どっちだ!?


と、そんな疑問が私の頭によぎった。


こんなデリケートな問題、聞いてよいものなのか。


そうは思うものの一度気になるとどうも悶々として来てしまう。


聞くべきか、聞かぬべきか……!


私の返事を聞いて下がったリディの姿が完全に見えなくなった後に私はごくりと息をのんだ。


そして――――


「お、お姉様。いきなりで不躾かもしれないのですが、お姉様の好みのタイプって……どんな方なのですか?」


大人の知恵振り絞り、一番安全な問い方をした。


「えっ!?わ、私の好み?そ、それはヴィオ…………じゃ、じゃなかった!え、えっと――――」


(……今、一瞬私の名前を言おうとした!?)


一番聞きたくなかった返答が聞こえ駆けて耳が反応してしまう。


……いや、何かの聞き間違いだ。そう思う事にしよう!っていうかそうしたい!


そんなことを思いながら慌てふためくお姉様の返答を待ち続けた。


「え、えっと……そうね。凛々しい人が好き、かしら。」


ほんのりと顔を赤らめて言うお姉様。


それは必死に先程の言葉を訂正しようとつくろったとっさの言葉でないことはすぐに理解できた。


「こ、こういうのあんまり考えたことがなくて、なんていえばいいのかしら。その、凛々しい人っていうか、まっすぐな人?純粋で……目が輝いている人かしら。」


(……まんまヒロインちゃんの性格……。)


一瞬私の名前を上げようとしていたのはいつも私の事を大好きといっている癖なのかもしれない。


だけどよくよく冷静に考えれば……と、あげた理想のタイプはこのゲームのヒロインちゃんであるヴェリテであるとわかった、というところだろう。


(……だとすると、過度なスキンシップの件は私の考えすぎというか、私がやましい心を持ってるからやましく感じてただけ?……つまり、やらしいのは私!?)


いきなり顔の体温が上がる。


私がやましいから勝手にそんな想像しただけで、本当はお姉様にそんなつもりはなくて、ただ純粋にかわいがったりお世話してくれてただけで…………!


「……穴があったら入りたい。」


「えっ……穴?」


あまりにも恥ずかしすぎる自分の勘違いに私はしばらくお姉様と顔を合わせられなかったのだった。

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