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快活な少年

何故、何故私は今までお茶会に参加してこなかったのだろう。


(今すぐ帰りたい!!)


一人壁の華となりながら辺りを見回す。


私は遠巻きにされ、同年代の子は近づいてこない。


しかも、大人もいるらしいけれど大人は大人でお茶をしていてこの場にはいない。


(そ、そうよね。ヴィオラは気位が高いから同年代の子たちと仲が悪いというか、あまり親しくないというか、怖がられているというか……。)


今私の人格をほぼ形成しているのは前世の人格。


ヴィオラの記憶は死にたくない一心のせいかほんの欠片程度だ。


勿論、ヴィオラはヴィオラであることに変わりはないのだけど……


(前世小心者のオタクからしたらこんな華やかな世界はもうビビりまくりなのよ……。)


今の私は残念ながら社交性ゼロだ。


(はぁ……帰りたい。)


「ヴィ、ヴィオラ嬢!?」


「え……?」


聞き覚えのある声にふと顔を上げる。


するとそこにはひどく驚いた顔をしているフォルテ様がいた。


「フォ……フォルテ様……。」


あんなことがあってそう間もないからか私の体は自然と逃げ腰になってしまう。


「あ……えっと……。」


そんな私の反応に気づいてかフォルテ様の顔は気まずい顔へと変わった。


……やらかした。


その自覚はすぐに芽生えてきた。


王子様になんて失礼な態度をとっているのだろう、私。


「……き、奇遇ですね、こんな所で。」


「え?え、えぇ……。」


(……気まずい。)


いや、その気まずいのは誰のせいといえば自分のせいだとはわかってはいる。


だけど、どうにも何とも……


「……お手紙、嬉しかったです。」


「……え?」


「お友達からでいいというお手紙です。本当に貴方には失礼なことをしてしまいましたから。……謝りに行こうと思ったのですが、フラットンに止められまして……。まずは手紙で謝罪を、と。」


「お兄様から?」


「はい。王子がきたとなれば門前払いもできない。それはある意味立場で貴方を圧することと変わらない、と。なので手紙をしたためました。手紙だときっと考え、本心を返してくれるだろうと教えてもらったので。……友達から。それを了承していただけたことが嬉しかったんです。」


「……フォルテ様……。」


「……フォルテと呼び捨ててください。僕ら、友達……なんですよね。」


(僕……?あれ、今……――――)


初めて会った時、手紙の時。


彼が自身を呼ぶときは「私」だった気がする。


それが突然「僕」に変わっている事。


その事にどうしても私は考えてしまう。


少し頼りなさげに、気弱そうな雰囲気を出しているフォルテ様。


あの日お見かけした自信にあふれていそうな堂々とした姿とは違えるフォルテ様。


だけど、その雰囲気はどこか手紙のフォルテ様の様で、これがもしかするとありのままのフォルテ様なのかもしれない。


そう思うと不思議とフォルテ様を近く感じる。


「……では、私の事はヴィーと呼んで、フォルテ。貴方の事も愛称で呼ぶのだもの。私の事も愛称で呼んで?お友達でしょう?」


「……ヴィオラ嬢……。はい、ヴィーと呼ばせていただきます!」


「あと、友達なのだもの。堅苦しい話方話よ?」


「え?え、えぇっと、それはすこし困りますね。僕、基本この話方というか……。」


「そ、そうなの?」


「えぇ、そうなんです。」


(そっか。フォルテは美少女系ショタ&敬語キャラか。やっぱり好感度高いわね!)


やっぱりドストライク。


そんな事を思いながらフォルテの顔をじっと見つめる。


するとフォルテの顔はどんどん真っ赤に染まっていき、静かに視線だけがそらされる。


(おやおや……?ふふっ、可愛いところあるじゃない。)


なんだか大人っぽくつくろいすぎているせいか何を考えているかわからないフォルテ様より今のフォルテの方がなじみやすい。


(うんうん、仲良くなれるかもしれないわ!)


目の前にいるフォルテが少しだけ愛おしく感じた。


「フォルテ!!」


「あ……ロンド!」


私とフォルテの暖かな空気が醸し出された中に快活そうな一人の青年が走り寄ってくる。


(……この子、どこかで見たことあるわ。)


いつだっただろう。確か―――――


「よかったフォルテ。今日はお前が来てくれたんだな!」


「当り前ですよ。ロンドの誕生祝のお茶会なんですから。」


(あぁ、そうそう!確か彼は今日の主催者のご子息のロンド・ベルスター・ヴァイオリンで、私の誕生祝のお茶会の席で見かけたことが―――――って、えっ!?)


「お、お誕生日のお祝いのお茶会!?」


「ん?…………あっ!!!ヴィ、ヴィオラ・アルトバーン!?う、嘘!マジで!?」


「え、えっと……ご、ごきげんよう。お招きいただいてありがとう。ロンド・ベルスター・ヴァイオリン様。」


「い、いや、こちらこそ来てくれてありがとう。……ってか、マジで……?」


(ど、どんだけマジで言うんのよこの子っ……!)


あまりにも驚かれすぎて自分の驚きが吹っ飛んでしまう。


いや、驚きが落ち着き今は焦りが私を襲っている。


(た、誕生日のお祝い、何も用意してないわ!)


お祝いだなんて聞いていなかった為、何も用意していない。


流石にパーティーに呼ばれて来ておいてそれはまずいと思う。


「ロ、ロンド。そんなに驚いていては失礼ですよ。というか、どうしてそんなに驚いているんですか?」


「あ、いや、だってよ、ヴィオラ・アルトバーンは孤高の令嬢で有名じゃねぇか。お茶会には参加しないし、パーティー中はいつも兄の傍。誰もお近づきになれないっていう、あのヴィオラ・アルトバーンだぞ!?」


(わ、私、そんな風に言われていたの……?)


孤高の令嬢。


それってつまりみんなからあのこぼっちだねって言われてたって事だ。


(ぼっち……。)


ヴィオラはつるむのが好きじゃなかったし、ヴィオラの人格なら「私と同じくらいのレベルの人がいないのだもの」の一つくらいいそうだけど残念ながら今の人格にそれを言いきる勇気はない。


正直、今の今までぼっちで傷ついていたし……


「いやぁ、頼んでみるもんだな!父さんに誕生日プレゼント聞かれて冗談半分にヴィオラ・アルトバーンにお茶会に参加してもらいたいって言ったんだけど、まさかほんとに参加してもらえるなんてな!」


「……私の参加を誕生日プレゼントに?」


「あぁ。だってフォルテが女友達ができたって言って喜んでたからさ!しかもそれがヴィオラ・アルトバーンだって聞いて話してみたくなったんだよ。だって、前にヴィオラ嬢の誕生パーティーに招かれていったとき、挨拶したらヴィオラ嬢の兄上様にすぐ引き離されてゆっくり話なんてできなかったしさ!俺が主役ならそれもされねぇだろうし、機会は今日しかないって思ってさ!」


「は、はぁ……。」


なんといえばいいのだろう。


ロンド様はある意味見た目通りなのかもしれない。


やんちゃ坊主感満載のロンド様は身なりこそ貴族のそれだけどちょっとこう……


(サルっぽい。)


木のぼりがうまそうだ。


というか、言い換えれば結構動きそうなタイプに見える。


運動とか好きそうな感じだ。


「フォルテったらロンド様に私の事知らせていたなんて……。」


「め、迷惑だった?」


「……いいえ、少し驚いただけよ。人に知らせる程嬉しかったの?」


からかい半分でにやにやしながら問いかけてみる。


するとまた顔を赤らめられて視線を外されてしまう。


「う、嬉しいですよ。君は僕の、その、あこがれの人ですから。」


「っ!!」


照れて腕で口元を隠されながら視線をそらし、真っ赤な顔でそんなことを言われては私の心にダメージがないはずがない。


「お、大げさよっ……フォルテったら。」


私までなんだか恥ずかしくなってきてしまった。


……というか、本当に前回私が接したフォルテは何だったのだろう。


全くの別人だと思わなくない。


「……だ、大体、私みたいにそんなにすぐ照れられてはこっちが恥ずかしいわ!こちらの事も考えてもらえるかしら!」


「す、すみません!ど、堂々としていなければと思いはするんですが、変にこう、意識してふるまっているとまた暴走しそうで……。」


「べ、別に堂々となんてしてなくてもかまわないわよ。」


「え……。」


「わ、私は結構今の貴方、嫌いじゃないわよ?」


「っ!!」


(……って、私も同様のあまりヴィオラの人格強く出ちゃってるじゃない!)


明らかに言い方が上から目線というか、お高く構えた感じというか……


やっぱり私はヴィオラだな~なんて思ってしまう。


でも、嫌いじゃないのは本心だ。


こちらの方が親しみやすいのは間違いない。


「へぇ……ほんとに友達なんだな。すげぇな、フォルテ!お前本当に孤高の令嬢と友達なんて!」


「わっ!ろ、ロンド!急に飛びつかないで!」


「良いだろ!俺らだって仲良しな友達なんだしよ!あ……そうだ!ヴィオラ嬢!あんたに頼みがあったんだった!」


「……頼み、ですか?」


「会えたら絶対伝えたいって思ってた。そんで、今日は奇跡的に会えた!もう伝えるっきゃないって思った。悪いんだけど、どこかで二人きりで話せないか?」


「……え?」


ひどく真剣な目のロンド様。


そして、ロンド様のした発言。


(う、嘘、これって、これってまさか―――――!)


一つの予感に胸の鼓動が早くなる。


私はフォルテの顔をちらりと見る。


フォルテの顔は二人きりにさせたくないけどいってきてあげて、という顔だ。


「わ、わかりました。」


フォルテの反応を見て私はロンド様の提案を承諾したのだった。

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