お友達から
何とか婚約阻止をと「多分」頑張っていたフォルテ王子とのお茶会から数日。
私の気分はひどく沈んでいた。
(投獄死刑……。)
恐れる未来に一歩、近づいてしまっている事実に嘆かずにはいられない。
「大丈夫よ、私の可愛いヴィオラ。いざとなったらお姉様が貴方を逃がしてあげるから。」
明るい声で暗く落ち込む私を抱きしめるメロディお姉様。
普通なら大好きなお兄……お姉様にそういわれれば励まされるのかもしれない。
けれど、大人になった彼女は変わらず婚約したままだった事実を考えると不安がらずにはいられない。
(おそらくゲームのヴィオラは男はステータスの女だったから、婚約解消は望んでなかったとは思う。でも……――――)
ゲームのシナリオ、つまり私に待ち受けるであろう未来がそうなのであればそう簡単に婚約解消などできると思っていない。
逃げたら逃げたでそれもまた投獄ものな気がする。
外は明るく晴れている今日という日の昼下がりの私の気持ちは真っ暗な雲に包まれた曇り模様が広がっていた。
そんな私の耳に部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「お嬢様、少しよろしいでしょうか。」
扉の向こう側から聞こえてくるのは私の一番仲良しな侍女のリディの声。
「大丈夫よ、リディ。」
私の返答を聞いたリディは静かに扉を開け、メロディお姉様を見て少し苦い顔で笑みを浮かべた。
メロディお姉様は私に抱き着いていてリディの顔を見てはいないから気づかないものの、見ていたらメロディお姉様がいる事が不都合なのは一瞬でわかるというわかりやすいものだった。
「あの、お姉様?少しリディと二人でお話がしたいんですが……。」
「そんな顔をされたら……」と、なる訳であって、私はリディの想いをくみ取りお姉様の体を押し離す。
その瞬間、お姉様の頬は大きく膨らみ、面白くなさそうな表情になっている。
だけど、私が困っていることに気づいたのかお姉様は「わかったわ。」といって部屋から出て行った。
「も、申し訳ありません。その、あまりメロディン様のお耳に入れたくないものでして……。」
そういいながらリディが静かに出してきたのは一通の手紙だった。
送り主は私もできれば今は目にもしたくない名前、フォルテ王子の名前だった。
「……あ、ありがとう。」
とはいえ、仮にも王子からの手紙。
読まないわけにもいかないと私は渋々手紙を取り出した。
(え~っと、とりあえず挨拶は飛ばして本題本題……。)
一体どんな内容なのか。
不安を募らせ、いやいやに手紙に眼を通し始めた。
先日のお茶会では大変失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした。
謝っても許されることではないとわかってはおりますが、どうしても謝りたかったのです。
そして謝る事はほかにもございます。
婚約の件ですが、嫌だというあなたの気持ちを無視し、勝手な私の行為で婚姻の約束を取り決められてしまった事も重ねて謝罪申し上げます。
信じて頂けるかはわかりませんが、こちらの婚約は私の取り計らいではない事だけはお分かりいただけますと幸いです。
今の私の心の真意はこのような婚約を快くは思ってはいないのです。
本当のことを言えば私は王にお叱りを受けるまで両親で婚約を決めてもらおうと貴方の気持ちを無視し、婚約を取り決めてもらおうと思っておりました。
お恥ずかしい話をいたしますと私はひどく心の弱い男です。
しかし、同時にひどく欲深い男でもあるのです。
欲しいと願うものを手に入れるために後も先も考えず、愚かな行動をしてしまうまさに愚なる男なのです。
しかし、王のお叱りを受けた事により冷静さを取り戻し、貴方の事を思い出すと私はひどく自身の行動が恥ずかしくなりました。
このような男が貴方と婚約など不相応であるとひどく感じております。
しかしながらヴィオラ嬢、私はこんな愚かな男ですが貴方を心より愛しています。
そんな貴方の想いを無視してしまったことを反省するとともに、貴方に見合う、貴方に振り向いてもらえる立派な男になりたいと固く誓いを立てました。
貴方には大変不本意な婚約かとは思います。
しかしながらどうか、私たちが大人となるその日まではどうか私に少しでも貴方に好いてもらえる機会をお与えいただけないでしょうか。
もし機会をいただけるのであればまずは友人として貴方とお付き合いをさせて頂きたく思います。
良いお返事委がいただけますことを心より願っております。
――――シェパードラード王家第一王子フォルテッシモ・シェパードラード・ハーモニー。
「…………。」
手紙を黙読した私は何とも言えない気持ちで手紙を握っていた。
(勝手……すぎる。でも……――――)
――――憎めない。
そう、素直に感じた。
手紙にもあるように一目惚れの女性を前にして彼は暴走してしまったのだろう。
その気持ちはすこし、わかる。
(ヒロインちゃんがもし目の前に現れたら私だってきっと暴走するわ。)
そう、きっと変態か何かと間違われてドン引きされるほどに。
もしそれと同じだというのなら憎めない。
(それに、自分の非を認めてしっかりと謝罪出来るだなんて、しっかりしていると思うわ。)
それができる子供は立派だと思う。
手紙は割と自身を非難する内容が多かったけれど、私はすこしだけ将来的に彼が治める国に興味を持ってしまった。
(……まぁ、その時には投獄死刑になってるかもしれないけど……。)
そうならないためにはここで王子を突き放すのが一番なのかもしれない。
と、私の中で悪魔の声がささやく。
でも、それに反するように天使の声もささやく。
こんな誠意ある手紙にそんな不誠意な反応を返していいのか、と。
(一人の大人だったものとして時に保身に回る事を覚えている私には保身のために断る事なんてできるといえばできる。だけど、これから頑張って変わろうって決意を持ってる子供の心を痛めてしまうような内容を返すのは一大人だったものとして最低よね。)
小さくため息を吐き、私は苦笑いをしながら肩をすくめた。
「リディ、悪いのだけれど便箋を用意してくれないかしら。」
「……かしこまりました、お嬢様。」
私の反応に少しほっとしたリディの顔が目に入る。
リディも婚約の件で落ち込んでいた私を見て心配をしていてくれた一人だった。
だからこそ私の反応を見て安心したのだろう。
ホッとしたと同時にどこか嬉しそうな顔を浮かべてリディは便箋を取りに行った。
(……そうよ、まだ投獄死刑と決まったわけじゃないわ。)
ヒロインちゃんの敵にさえ回らなければきっと投獄死刑なんて日は来ない。
まず、そもそも私はゲームのヴィオラ嬢とは性格も違うから王子がヒロインちゃんと出会うまでに私から心が離れている恐れもあるし、そうなったらいつでも私はその恋を応援するとでも言っておけばいい話だ。絶対に敵にはならない。そう何度も伝えよう。
(それで無理ならその時よね。)
そんな事を思いながら私は晴れ渡る空を窓越しに見あげた。
投獄死刑のつらい未来なんて今は想像しかできない。
そんな未来のつらい思いよりも今は目の前の事。
あのドストライクショタの王子につらい思いをさせるほうがショタ好きの女としてつらいから。
そんな事を思いながら私は王子に「お友達からよろしくお願いします。」と手紙を返したのだった。




