前世の記憶
それはある日、本当に、かなり突然の出来事だった。
こんなことを言えば誰もが馬鹿にするだろう。
だけど、これは真実なんです。
(う、嘘……こんなことって……!)
たまたま女装趣味のお兄様……いや、オネエ様に読み聞かせてもらったロマンス小説がきっかけだった。
それに出てきた物語。
それはよく私が知る物語にとても似ていた。
前世で私がプレイしていた乙女ゲーム。
【歌姫と瞳の奥に隠されしヴェリテの詩】と!
(ど、どうしよう……!歌ヴェリに似た物語聞いて私、いろいろ……思い出してしまった……!)
何かがきっかけで前世の記憶がよみがえる。
それはまれにある事だと聞く。
知らないはずのものを知っている気がしたり、行った事のない場所が妙に懐かしいとか……
だけど、こんなにはっきりと前世というものを思い出すことなんてあるのだろうか。
それも――――
(寄りにもよって乙女ゲームの世界の転生って何!?何これ、夢なの!?)
オタクはきっと一度は夢に見るであろうゲームの中へのトリップ。
……まぁ、今回は転生だけど。
(ちょぉ~っとは憧れた事があった!確かにあった!けど、それがまさか、まさか、実際に起きるなんて――――――!)
前世の記憶を思い出したのは私が5歳の春だった。