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必要悪の神髄  作者: 福馬運
その名は第七組織
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01 少年は憂う



 フレイスタという星のスエルア大陸と呼ばれる場所。その中の国の一つ、シクサード連合国。

 現在、スエルア戦争と称される四カ国間戦争の真っ只中の国である。

 とは言え、四カ国の中で南に位置するシクサードの、さらに南方の山に囲まれた中規模の町、ビニアであれば戦火は届かない。もちろん、十五歳を迎え義務教育を終えた少年から軍に入っていくわけだが。

 そのことに、家族も子供自身も違和感は抱かない。そういう風に育てられてきたからだ。


 なんて、つらつらと考えてみた。

 公園のベンチ。目の前を自動清掃機が落ち葉を拾い、去っていく。

 もう、十四歳が半年で終わる。

 そうなれば俺も戦争に参加するか、もしくは武器開発とかに向かうことになるわけだ。

 知ってる。分かってる。

 俺はこの国の国民の一人だし、この時代に生まれた時点で軍に入るのは今では義務。ついでに言うなら俺は……と、この話は良いか。

 どこぞの知り合いがごたついて、まぁ魔道具開発に回されることになるんだろうな、という予測はついている。

 父もそう言っていたし、下手に戦場に出るよりははるかに良いだろう。知り合い曰く、外交にも関わるとかなんとか。生まれただけで外交問題に発展するとか、どんな罰ゲームだ。

 その原因に伴った、白い髪。目にかかった前髪を払う。

 悪いことばかりじゃない。“そいつ”は持ってて損は無いし、何かと便利だ。案外使い勝手もいい。


「ササ!」


 公園に入ってきたその姿に心臓が少し跳ねた。

 イデア。俺の幼馴染。輝いているかのような綺麗な金髪が眩しい。

 恋愛感情補正? 気にしたら負けだ。


 と、あとその後ろにいるのは親友、ラウル。俺と同じく白髪。詳しいことはよく聞いていないけど、大体こいつのせいで俺は窮屈な思いをしているらしい。別に窮屈って言っても、人前で一部の魔法を使うなってだけだが。


「なに黄昏てんだよ」


「うっせぇ、黙れ」


 言葉と共に立ち上がる。


 白髪ってだけで初対面の人から毎度こいつと間違えられる。それだけ白髪ってのは珍しい、というか才能の証なのだ。

 髪色が薄いほど魔法への適性が高い。白髪、金髪、茶髪、黒髪って感じに。しかも白髪はものすごく少ない。ピラミッド型の分布なのだ。

 そして、我が親友は超が付くほどの有名人。まぁ顔写真はそんなに出回ってないわけで、この町にいるらしいってくらいしか情報は出ていないのだ。


 全くもって迷惑。いちいち俺は違いますよっていうのも面倒だ。まぁ当人のほうが大変そうなので許してやる。


「今日は長かったな。将来を期待されてるな、ラウル」


「あぁ、そうだな。軍に入れば即戦力として期待されてる。訓練は怠らないし、この国をなんとしてでも勝利に導くよ。だからササは安心して生きてろ」


 ……からかったつもりなんだが。ポジティブすぎるんだよな、こいつ。今更か。

 ラウルが期待されているのは、まさに才能のため、強力な加護を持つためだ。


 “空間の加護”。

 空間属性魔法無詠唱化、空間属性適性(極)、闇属性魔法省略化、闇属性適性(極)、魔素親和力向上(極)、自動断絶。


 加護というものは全ての人が持つわけではない。しかも、加護の中でも“空間の加護”は強力なものとして知られている。

 空間魔法は、防御不可能な攻撃や空間の断絶による絶対防御、さらには大量の兵士を敵陣に送り込むことができる。それをほいほいとできてしまうのが“空間の加護”の持ち主。


 世界に属性は十六個。火、水、雷、土、風、氷、光、闇。そしてその上位属性、消滅、生命、堕天、創造、覚醒、時間、精神、空間。

 当然“空間の加護”と同等のものがあと七つあるわけだが、それらは常に世界に一人ずつしかいないとされる。そしてそれぞれが強力。

 世界は彼らを監視する必要がある。あまりに強力すぎるためだ。同時に、その力を利用しようとする国が完全な国のコマとしないよう、正しい教育などを施される。

 それでも住んでいる国に愛着が湧くのは当然だし、加護持ちにも俺らみたいな友達ができるわけで。自由意志のもと、ラウルは戦争に参加するのだ。


 なんというか、建前で塗り固められた強制参加の様相だ。


「それで、イデアはどうだった?」


「うん、なんかね、推薦状は提出してくれるみたい」


 イデアには夢がある。

 自身の手でこの戦争を終わらせる、という夢だ。そのため、指揮官として軍に入ろうとしているのだ。

 女性の軍入りは一定数はいるものの、あまりにもその門は狭い。けど、イデアは相応の努力をしてきた。

 ようやく学校もそれを認めてくれたみたいだ。


「よかった、また一歩前進できたな」


 まぁそんなわけで二人は多忙だ。俺はそんな大層な夢もないし国を救うとかいう期待もされていない。

 おかげで俺は午前に通常授業、午後に少し訓練を受け、あとはフリーだ。娯楽は全て自粛されているのでひたすら暇。基本的に通信端末、オクトキューブで適当にネットサーフィンして暇は潰している。あとは、ちょっと町から出て森に行くとか。

 一年前までは部活に入ったわけだが、それももう終わりになった。まぁ来年から軍に入るのがほとんどなのだから、少しの訓練が入ってくるのだ。

 もうすぐみんな戦場に行くんだなと思うと、戦場から遠いこの町からするとほとんど他人事だった戦争をようやく身近に感じる。だからといってなにかするわけでもないけど。仲いいヤツとちょっといいメシを食いに行くくらいか。

 そんな日々だ。


「よし、じゃあ帰ろうか」


 日が暮れかかり、街灯が灯り始める時間帯。

 赤道に近く暑い毎日だが、この時間の風は少し冷たい。さっさと帰ってしまおう。


「それでね、ササ。ちょっと気になることがあるから帰る前に寄り道していかない?」


「ん?」


 気になること、ね。




よろしくお願いします。

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