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2つの月-RoiとYun-  作者: 夏目 碧央
8/14

突然の別れ

 毎日忙しく、楽しく、6人で仲良く、ツアーが行われ、とうとう最後のファンミーティングの日がやってきた。実は日程をギリギリで切ってあり、明日からRoiは自国でドラマの撮影が始まるのだ。ファンミーティングは夜なので、飛行機の時間の都合で、Roiは途中で抜けないといけないのだった。

 いつものように通訳を交えながらインタビューやゲームが行われ、そして、Roiがここまでという時間になった。

「みんな、ありがとう!さようなら!」

Roiが観客に挨拶をして、一人で舞台から去ろうとしたとき、思わずYunはRoiにハグを求めた。Roiはハグをしてくれたけれど、いつもファンの前でするサービスのような、甘いハグではなかった。男同士のハグ。Yunとハグしてすぐに他のメンバーともハグをして、Roiは去って行った。

 その後、ファンが持っているネームボードをもらったりして、「Roi&Yun」と書いてある看板を手に取ったYunは、それを上着の中に入れて抱えた。どうしても、笑えない。Yunは観客に背を向けた。それに気づいたGenがYunの方を見た。

 Yunは、涙を流していた。GenはYunの肩に手を置く。他のメンバーも気づいて、Yunを取り囲む。

「Yun、大丈夫か?」

「どうする?Yunを引っ込めるか?」

お兄ちゃんたちは話し合った。

「ごめん、大丈夫だよ。舞台に穴開けるわけにはいかないでしょ。」

Yunは無理に笑ったが、涙がまたあふれた。Genがその涙をぬぐう。

「まあ、ここでYunが引っ込むと、Roiを追っかけてったみたいになっちゃうしな。」

「よし、がんばれ、Yun!」

話がまとまり、ファンミーティングは続行された。司会者から、

「Yunは泣いていましたが、どうしてですか?」

と、やはり聞かれた。

「それは、ずっと一緒に仕事をしてきたRoiと、しばらく会えないと思ったら、悲しくなっちゃって。」

Yunが言うと、意外にも観客はしんみりしていた。Sakuが、

「ほら、すぐ元気になるよ。いないない、ばあ!」

と、Yunの顔を手で隠してから手を開くと、Yunはにっこりした。Sakuが客席に向かって拍手を促し、会場は拍手であふれた。けれど、その後にドラマの曲を5人で歌った時も、Yunの目にはまた涙があふれてきた。ドラマは終わってしまった。自分たちの関係も終わってしまった。もう会えないかもしれない。目を伏せると、涙が一筋頬を伝わった。


 飛行機に乗ったRoi。ここで明日の台本をもう一度読んでおこうと出したものの、今抜けてきたファンミーティングの事が気になって仕方がなかった。台本を開いてはいるけれど、心ここにあらず。最後にハグを求めてきたYunの顔がちらつく。思い詰めたような顔をしていた。すべてを我慢しているような。分かっていたけれど、自分はちょっと突き放した。もっと熱いハグをすることもできたし、笑いかけてあげることもできたかもしれない。いや、あの時は自分も笑えなかった。すごく寂しい想いを我慢していたから。


 翌日から、Roiはドラマの撮影に入った。主役は女の子で、その想い人役を演じる。2Luna storiesの時のように男の子が何人もいるわけではないので、いつも静かな現場だった。あの5人はどうしているか、ふと気になったRoiは、空き時間に動画検索をした。途中で抜けたファンミーティングの様子は、既に大勢の人がアップしていた。それを見ていると、自分が抜けた時の映像がはっきり映っていた。そう、自分もYunも、顔が少し引きつっている。これが別れの瞬間だなんて、とRoiは苦笑いをした。その後、自分が知らない様子が映し出された。

「え?」

Roiは目を見張った。そう、Yunが涙を流す。胸が、かきむしられる。RoiはTシャツの胸のあたりをぎゅっと掴んだ。そして、歌を歌うYun。頬を一筋の涙が伝う。Roiは見ていられなくなって、こぶしで壁をドン!と殴った。そして顔を伏せる。

「どうしたの?」

共演者の女の子が声をかけてきたけれど、Roiは何も答えなかった。


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