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2つの月-RoiとYun-  作者: 夏目 碧央
6/14

キスシーン

 明日は撮影最終日。もう主役の二人以外はクランクアップしていて、スタッフとRoi、Yunだけの現場になる。明日はラストシーンのみの撮影だ。SyuとKaiが両想いを確認してキスをするというシーン。

Yunは、毎晩寝る前に明日のセリフを覚えてから横になる。そして、目を閉じて、自分のセリフを言った時、Roiがどんな顔をするのか想像しながら眠りにつく。それがここのところの日課になっていた。それも、今夜が最後だ。だが、今夜は眠れそうもない。目を閉じるとRoiの顔が近づいてきて、はっとして目を開けてしまう。明日はRoiとキスをする・・・。けれどこれは演技だ、ドラマだ、と自分に言い聞かせ、これはSyuとKaiのことで、自分とRoiがキスをする、とは考えないようにしようと努めた。それでも、子供の頃の遠足の前の日みたいに、ワクワクドキドキして、いつまでも寝付けないYunだった。


 翌日、撮影最終日。この日は朝からRoiがとても緊張していた。Yunが撮影現場に到着すると、Roiはスマホもいじらずに座っていて、頭を後ろの壁にもたれて、目を閉じていた。

「おはよう、Roi。どうしたの?具合でも悪いの?」

Yunが聞くと、Roiは目を開けて、

「ああ、おはよう。なんか緊張しちゃって。」

と言った。

「え?Roiでも緊張するんだ。」

と言ってYunが笑った。

「僕も夕べは眠れなかったけどね。」

と、少し頬を赤らめてYunが言った。

「Yun、お前、キスシーンは初めてだろ?」

「そりゃ、ドラマの撮影が初めてなんだからね。Roiは前にキスシーンがあったんだよね、女の子と。」

「うん。けど、俺も男とのキスシーンは初めてだ。Yunは、その、男とキスしたことはあるのか?」

Roiは遠慮がちに聞いた。

「ないよ。昨日のがキスだとしたら、昨日が初めてだよ。」

「昨日のは事故みたいなものだからな。Yun、キス自体は初めてじゃないよな?」

RoiはじっとYunの目を見て言った。Yunは言葉に詰まった。Yunが黙っていると、Roiは察して、

「お前、初めての相手が俺でいいのか?ああ、俺はいたいけな未成年になんてことをしようとしているんだ。あ、そうだYun、先に誰か女の子としといたらどうだ?」

「Roi、落ち着いてよ。今更どうしようもないって。」

「だけど、お前・・・。」

「Roiは今日の為に誰かと練習したの?」

Yunが聞くと、Roiは、

「え、まあ、昨日・・・。」

と言う。Yunは自分で聞いておきながら、その答えを聞いてショックを受けてしまった。ショックが顔に思いっきり出たので、Roiは慌てて付け加えた。

「昨日、ぬいぐるみ相手に練習した。」

Yunはその姿を想像して、急におかしくなった。

「あはは、僕もぬいぐるみと練習すればよかったな。あははは。」

「笑うなよ。キスされる方より、する方がいろいろ大変なんだからな。」

Roiはちょっとすねた顔をした。


 「はい、ではシーン12の15、テスト行きまーす。」

シーンはベッドの上である。RoiとYunが並んで腰かける。ベッドの周りをカメラや機材、スタッフがずらっと取り囲む。この時になって、急にYunは心臓がバクバク言って体が硬くなってきた。怖い。演技をするのは今までと同じなのに、急に今までとは違う事をこれからするのだ、という実感が湧いてきた。

「Yun、だいぶ緊張してるわね。いつもと顔が違うわ。」

離れて見ていたSaiが、別のスタッフにつぶやいた。心配になって、Yunに近づいて行こうとしたとき、Yunの隣に座っていたRoiが、まだ演技が始まっていないのに、Yunの手の上に手を乗せて、ぎゅっと握った。YunはRoiを見た。

「これで最後だ。頑張ろうぜ。」

Roiが言うと、

「うん。」

まだ硬い表情のまま、けれど少しニコッとしてYunが答えた。

 シーンの撮影が始まった。セリフの途中でNGを出したYun。演技中はちゃんとにこやかな表情をしていたが、カットがかかると途端に泣きそうな顔をして頭を抱えた。そして、いよいよ最後のシーン。

「愛・・・してるんだ。」

SyuがKaiにそう言って、顔を近づける。が、その「愛してる」の言い方がまずかったのか、監督からカットがかかる。息を詰めていたのか、Yunはカットがかかった途端に一つ咳込んで、思い詰めた表情をした。もうすぐ、キスをすることになる。カメラの前でなくても、緊張することだ。

「愛して・・・るんだ。」

テイク2。けれど、またカットがかかる。またキスの直前で止められたので、さすがにYunはちょっとおかしくなって、ニヤっと笑ってしまった。けれどすぐに顔を戻す。そうだ、あんたは役者よ、頑張れ!と陰ながらSaiは応援していた。

「愛してるんだ。」

Syuのセリフ。そして、SyuがKaiの方へ顔を近づける。Kaiも顔を近づけて、とうとう、2人はキスをした。

「カーット。」

RoiとYunは唇を離し、お互いに大きくため息を漏らして体を離した。二人とも、達成感を感じてさわやかな笑顔だ。とうとうやった。今まで撮影で顔を近づける事はたくさんあったけれど、キスをするのとは全然違う。Yunは、今まで味わった事のないような、胸がうずくという感覚を味わった。唇が重なった瞬間、ズキッと心臓が痛みを覚えた。

 監督は、助監督と話していた。

「いいねえ。やや硬いけれども、初めての緊張感が漂っているよ。Yunの目がいい。」

監督が言うと、

「監督、Kaiはもっと受け身で、自分からキスしに行かない感じの方がいいんじゃないでしょうか?」

と助監督。

「いや、Syuは自信がないから、遠慮してるんだよ。Kaiの気持ちを確かめながら顔を近づけていって、それで、Kaiは自分もOKだよという意味で自分からも顔を近づけていくんだ。」

監督がそう言い、つまり今のでOKという事になった。だが、

「Roi、Yun、いろんな角度から撮っていくから、もう一度「愛してるんだ」からくれ。」

と監督。二人は、それから20回もキスシーンを演じた。ほぼ同じ事をするのだが、もう少しこうしてみよう、ああしてみよう、と少しずつ変化をつけ、後で監督がどれを採用するか考えようという事で、結果的に20回になったのだった。このドラマのラストシーンであり、肝であると監督が考えているこのシーン。役者の事など考えてはもらえず、こだわり抜いた結果であった。

 恋人同士でも、一度に20回もキスをするカップルはそれほど多くない。RoiとYunは今まで通りの二人でいられるのか?関係者は少し心配した。けれど、撮影が終わって、スタッフから花束をもらった二人は、いつものようにふざけ合っていた。それで、みな安心したのだが、Saiは気づいていた。RoiがYunを見る目、そしてYunがRoiを見る目が今までとは違うという事を。


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