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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こちらテンプレ勇者対策課、魔王城支部

RAINさんにタイトルを貰ったので、書いてみました。


素晴らしい題材をもらって感謝感謝です! イメージと違ったらごめんなさい(笑)

「こちら、テンプレ勇者対策課、魔王城支部です。は? アスタロト様を出せ? あ、はい。アスタロト様ー。第8魔防軍オクトバ様から魔通信です」


「はい。変わりました。な、なに! 勇者が虹の脚立を作った? あれだけ世界中に材料を散りばめたのに? 何をしているのです! いや、失礼しました。早急に次の手を打たなければ。え? 四天王の出陣を要請されるので? 分かりました。土の四天王様に向かって貰います。仕方がないでしょ! 他の方はお忙しいのです!」


(ああ。アース様が貧乏くじを引かされたな。四天王の中でも最弱と呼ばれている方を派遣して大丈夫なのか? 勇者が中継ポイントを超えたんだろ? かなり強い者のはず)


「おい! ターナカ! ボーとするな! お前が大魔王様から推薦でなければ、とっくの昔に首にしてるぞ! とっとと最後の祠の棚卸をして来い!」


 ターナカと呼ばれた男性は、上司のアスタロスから叱責を受けると首を竦めながら席を立って旅の準備を始める。ここは魔王城地下にある部屋であり、勇者対策を検討し実行する部署であった。


「おい。最後の祠に行くなら、滅びた街にいるメッサレータに補給物資を持って行ってくれ」

「え? 滅びた街に行くの? なら、沈んだ城に縛り付けている王族への食糧も頼む。あいつらが死んだら結界が弱体化するからな。大量に運んでおくんだぞ!」

「こっちもー。吟遊詩人の洞窟に竪琴が安置されているけど磨いといて! あれは、魔王様が世界制覇をされた時に、魔物を集めるのに使うのに必要だから!」


 立ち上がったターナカに、次々と声を掛ける同僚達。怒っていい案件なのだろうが、自分よりも上位者である同僚達に歯向かう事はせずに、ヘコヘコと頭を下げて了解すると旅立った。


「これが銀の粉です。これをミスリルの布で拭き上げて下さい。間違っても下から上に拭いてはダメです。上から下にですからね!」


「ああ。はいはい。拭けば良い――」


「話半分に聞くとは! あれは至高の逸品! 触れるだけでも感謝する魔物が多い中、貴方は分かっておられない! いいですか! そもそも、あの作品は大魔王様の命により作られた――」


 吟遊詩人の洞窟に設置されている竪琴を磨くのに必要な道具を取りに来たターナカに、竪琴を作った魔物タギテンゴトは手入れの方法を伝える。適当に袋に入った銀の粉を覗きながら説明を聞いているターナカに、怒った怒タギテンゴトは銀の粉とミスリルの布が入った箱を投げつける。


「分かったら、さっさと行ってこい! ごく潰しが!」


「危なっ! ああ。分かった! 分かったよ。上から下に拭いたらいいんだろ」


 飛んできた箱を受け取ったターナカは、慌てて部屋から飛び出す。その後も、各所で罵詈雑言を浴びながら資材を調達すると仕事に向かった。


【最後の祠】


「えっと、まずは棚卸だな。自分が管轄している祠の棚卸を他人にさせやがって、あとでアスタロト様にチクってやる」


 ターナカはブツブツと呟きながら、宝箱の中身を順番に確認する。宝箱には貨幣や回復薬に武器防具などが多岐に渡って収納されいた。


「おい。何をしている?」


「ん? 誰だよ……。え? 勇者?」


 宝箱を開けた瞬間に背後から声が掛かる。面倒くさそうに振り返ったターナカが、その場で固まった。視線の先には青く輝く剣を片手に、白銀の鎧を身に纏った人間が立っていた。


「どこかで会ったかな? 君も冒険者? ここまで来れるなんて、かなり強いよね。名前は?」


「え? ああ。ターナカと言う。ここが最後の祠と知ってきたのか?」


「最後の祠?」


 勇者からの問い掛けに、思わず本名を名乗ったターナカは内心頭を抱えていた。本名を名乗っただけでなく、魔王軍で命名した名称を勇者に告げてしまったのである。背中から冷や汗が滝のように流れるのを自覚しながら、なんとか話しを変えようとする。


「ああ、俺達の部族では、ここを最後の祠と言っているんだ」


「へー。そうなのか。ちなみに宝箱には良いのが入っていたかい?」


「ん? そうだな。ここには金が――。うぉ! どうしたよ?」


 ターナカの内心焦りまくりな事情に気付いていない勇者は、興味津々に宝箱の中身を確認する。金貨の詰まった袋を取り出しながら、中身を告げたターナカが驚いた表情を浮かべる。先ほどまで凜々しくしていたはずの勇者が土下座をしていた。


「頼む! 私の聖剣ホーリーソードを渡すから、その金を譲ってくれないか! もう、本当に限界なんだ! 伝説の素材と言われるサンストーンに、レイニーウッドを手に入れたと思ったらレインボーカラーのハシゴになっちゃうし、変な洞窟にあった竪琴を手に入れたと思ったら、魔物が大量に溢れたから思わず破壊したし」


「あ。竪琴破壊したんだ」


「ああ、使っている素材は買い取って貰えた。100ゴーキンにはなったかな? あの日の晩ご飯は美味しかった」


 号泣しながら苦労話を告げる勇者と、呆然とした表情で感想を述べるターナカ。しかも破壊不可能の魔道具であるはずの竪琴が破壊された事に、目の前の人物が勇者であると確信したターナカは宝箱に入っていた金貨を差し出す。


「え? いいのかい?」


「土下座までして、今さら遠慮しなくてもいいよ。それに剣も渡さなくていい」


「申し訳ない! 本当に助かる。これで1週間は生きていける。もう、ドラゴンの焼き肉から解放される。アースドラゴンは土ぽくって嫌だったんだ。いつも食べてるアースドラゴンより強い個体だったけど、苦労したわりには味は変わらなかったからなー」


「アース様……」


 四天王アースはドラゴン族であり、テンプレ勇者対策課の要請で勇者討伐に向かっているはずだった。すでに討ち取られた四天王を偲んでいるターナカに、勇者が困った表情で話し掛けてきた。


「本当に剣は要らないのかい? だったら、この聖鎧のホーリーアーマーを――」


「そんな、勇者が装備しているのを貰えるわけないだろ。いいさ。俺は金には困ってないからな。気にするなよ」


 勇者の聖属性の装備をもらっても、持つだけでダメージを受ける魔族のターナカからするとイヤゲモノでしかなく、それよりも一刻でも早く勇者から、この場から逃げ出したかった。


「なんて気高き人なんだ。ひょっとして聖者なのか?」


「それは100パーセントない」


 なにも要らないと告げてきたターナカに、勇者が尊敬の眼差しを向けてきた。魔族の自分を聖者扱いしている勇者に、ターナカは苦笑を浮かべながら会話を打ち切ろうとする。


「よし。それだけあれば、しばらくは食いつなげるのだろ? じゃあ、これからもお互い頑張ろうじゃないか。じゃあな」


 一気にまくし立てるように告げ、ターナカが踵を返して逃げ始める。しかし回り込まれてしまった。勇者からは逃げられない。


「待って! ここまでしてもらって、なにもしないのは私の矜持が許さない。どうだろう。なにかお返しをさせてくれないか?」


「いや、気にするな。世界平和の為に頑張ってくれたら良い。そうだ! この銀の粉と、ミスリルの布もやろう。別の宝箱に入っていた。食料も付けようじゃないか。じゃあ、今度こそ俺はこれで!」


「あ! ちょっと!」


 ターナカは魔法袋から次々と食料や素材を取り出すと、勇者に押し付けて全力で逃げ去った。


「ふー。ヤバかった。あの勇者は実にヤバい。あの実力なら魔王様の前まで辿り着きそうだな。アスタロト様に連絡をしておこう」


 祠から全力で逃げ出したターナカは、周りに誰もいない事を確認すると通信道具を取り出し魔力を込める。耳に当てた通信道具からは発信音がしばらく流れていた。


『こちらテンプレ勇者対策課、魔王城支部』


「ターナカです。アスタロト様は?」


 不機嫌そうに通話に出た男性に、名前を告げると苛立たしげな声が返ってきた。


『あ? 忙しいのが分かって連絡してきたのか? こっちは勇者対策でてんてこ舞いなんだぞ』


「その件について報告が、勇者が最後の祠まで来ています」


『なんだと! それを先に言え! アース様の敗戦連絡が数日前にあったばかりなのに、勇者はもうそこまで来ているのか! 分かった。ちょっと待ってろ』


 通信先の魔王城にいるターナカの上位者は保留状態にしたようで、重苦しい重低音がターナカの耳に届いていた。5分ほど待たされたターナカが、暇つぶしに重低音へ歌詞を付けて口ずさんでいると突然鳴り止む。


『ターナカ。話しは聞いた。楽しそうでなによりだ』


「いえいえ。結構大変ですよ。アスタロト様。勇者ですが、どうしましょうか?」


『勇者は一人か? それ以外に調べた情報を話すように』


 現状を確認するアスタロトに、自分が持っている情報を全て伝える。四天王のアースを倒した勇者であると説明した時には、思った以上に沈黙が続いた。


『アース様を倒して、虹の脚立を持つ勇者か』


「竪琴も破壊してますよ。100ゴーキンになったそうです」


 竪琴は重要でないのかスルーされているが、念のために伝えたターナカに舌打ちの声が聞こえてきた。


『そんな報告はいらん。勇者と話しをしたのだな?』


「え? はい。会話しましたが、それがなにか?」


 通信道具の向こう側でアスタロトがブツブツと呟いているのが聞こえる。


『まあ、元々役に立たない奴だったからな。問題ないか』


「もしもーし。アスタロト様。なにを話しているのか聞こえませ――。な! ゆ、勇者?」


 通信道具が見えないように慌てて背中に隠したターナカを見付けた勇者が、嬉しそうな顔で近付いてきた。


「良かった。まだ、遠くに行ってなくて」


「どうかしたのか? 金ならもうないぞ?」


「貰いっぱなしなのは、やっぱり良くないと思ってね。君と一緒に行動して、その時に稼いだ金額を少しずつ返済すると決めたんだ」


「は?」


 決意を持った目で握り拳を作っている勇者に、唖然とした表情となってるターナカ。しばらく沈黙が流れる中、通信道具からターナカだけに声が届いた。


『都合が良い。そのまま旅の同行を引き受けろ。そして魔王城から離れるように誘導して時間を稼げ。その間に、こちらは対策を練る。次の通信は1週間後とする。少なくとも100キロマーナドは離すように。検討を祈る』


「え? ちょっと? アスタロト様? 切りやがった! ひでぇ! なんて奴だ!」


「どうかしたのか?」


 首を傾げている勇者に、ターナカは引きつった笑みを深めるとなにもないように話し始める。


「気にするな。そう言えば、俺に恩を感じていると言ったな?」


「ああ。当然だ。君は救いの神だからね」


 渡した煎餅をバリバリと頬張りながら頷いている勇者に、ターナカはため息を吐く。


「よし。じゃあ、俺の用事を手伝ってくれ。魔王退治じゃないから、危険はないからな大丈夫だ」


「魔王対峙? 魔王ならいつでも討伐出来るだろ? それよりも美味いものを食べに行こう。今日は私の奢りだ」


「いや。金は大事に使えよ」


 投げやりな言葉に勇者は笑って応えると、嫌がるターナカの手を取って最後の祠を出て街に向かった。


 ◇□◇□◇□


(どうしてこうなった? せっかく身分を隠して平和に生きる予定が……)


 古文書を見付けたのは偶然だった。改修工事で出てきた5000年前に隠された部屋に厳重に収納されていた一冊の本。そこには5000年後に魔王が勇者によって墓場に連れて行かれるまでが、綿密に書かれていた。それを見た魔王は影武者を仕立てると、自らは閑職を創設して雑用係となる事を決める。


「まさか、能力を封印した事が裏目に出るとは、この勇者のレベルなら瞬殺できるものを」


「なにか言った?」


 魔力や闇の力で存在が明るみに出る事を恐れた魔王は魔族の中でも多い名前のターナカを使い、全ての能力を闇に封印して一般魔族として生活していた。そう、勇者の目の前にいる人物ターナカこそが魔王であり人類の天敵なのである。


「いや。なにも。それよりも竪琴を破壊したらしいが、作り主が怒っているのではないか?」


「え? や、やっぱりそうかな? でも、誰が作ったか分からないし。だ、大丈夫だよね。100ゴーキンとか言われても払えないよ」


「いや。そこは手に持っている金貨袋から支払えよ」


 挙動不審になっている勇者に、ターナカがツッコむ。その後、旅の友となった二人は滅びた街にいた死霊騎士を討伐し、沈んだ城に縛り付けられていた王族を解放する。そして竪琴は魔改造され、かき鳴らすごとに兵士達の士気向上するマジックアイテムとして重宝されたのである。


 ◇□◇□◇□


『こちらテンプレ勇者対策課、魔王城支部。おい! ターナカ! どうなってるんだ! 勇者の快進撃が止まらないぞ。早く対処をしろ。魔王様もお怒りだぞ』


「はい。すいません。やることなすこと裏目に出ておりまして……。はい。頑張ります。はい! はい。では。……。ちくしょう。なんで俺が魔王軍討伐課、王都本部の本部長をしているんだよ」


「ターナカさん! 今回の作戦も完璧でしたね! さすがはターナカさんです。まるで魔族の生態を研究している人みたいです!」


 王城にある特別な部屋でターナカが頭を抱えていた。勢いよく開いた扉から入って来た勇者は、満面の笑みで右手に持っているこぶし大の魔石を渡してくる。


「これは?」


「うん! 四天王筆頭のエクスプロジオンだったかな。他と違って食べられないから魔石だけ持って帰ってきたよ。取り出すのも一苦労だよ。超暑かった」


「(エクスプロジオーン! まさかお前まで)それにしても四天王筆頭なら炎の化身と言われているのに、暑かったで済ますとは。熱くすら感じないのか。これだから能力馬鹿は……。そうですか、それは素晴らしい。この調子で頑張りましょうね」


 引きつった笑みで労るターナカに勇者は満面の笑みで応えるのだった。

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