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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
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閑話 ある主従の会話 3

 人っ子一人いないバシェル王城王の間。例によって例の如く男が器に水を張り、何かぼそぼそと呟く。



「はーい!あたしだよー。元気ー?」

「ああ、はい。元気ですよ。チヌリトリカ様」

「かなりいやそーな声だね」

「そりゃそうでしょうよ。このボケ何番煎じだと思っていらっしゃるので?」


 男が心底呆れたように言えば、悩んでいるのか反応が途切れた。待つことおよそ3分。どう考えてもまともな答えなど帰ってこないことが明らかであるのに、それでも待ってやる男は従僕の鏡だ。



「えっとねー。3回!」

「残念。似たボケを含めて5回です」

「うそぉ!?」

「本当です。というか毎回です」

「うわぉう!」


 このやりとりは3回目。3回目から毎回繰り広げられている様式美。どう考えてもうざい。



「報告会始めますよ」


 返事がない。何故なら女は演技をするかの如く、器の前で倒れ伏しているからだ。



「かなり前にウカギョシュが死にました」

「え。無視するの。無視しちゃうの?」

「いつもの事なので」


 男は淡々と答えた。なお、男が無視して始めだしたのは2回目からである。ネタの使いまわしには厳しいらしい。



「うわぉう。なんでよ」

「無視しないと始まらないからですよ。こちらは遅々として進まないんですから!」


 男が声を張り上げる。



「ほえ。何で?」

「私があまり力がないのが悪いのでしょう…。それと予想以上に魔法の効果がきついですね。さすがは大国ですね…」

「ふーん。無理なら撤退でいいよ」

「軽いですね…」

「ん?だって大した意義もないし…。あれ?そもそもあたしは何がしたかったんだっけ?」

「は?」


 男の声が上擦る。



「は?本気で言ってんですか?」

「イエス。ドイツ語でヤ―。フランス語でウィー」

「ああ。もういいです。はい。何で向こうの言葉を持ってくるんですか?」

「趣味!」


 女は言い切った。これ以上ないくらいに力を込めて。それはもうものすごく言い切った。



 もし漫画の中で、その様子が描かれるとすれば、集中線が多すぎてもはや真っ黒になるレベルである。



「あー。もういいです。はい。それはそうと、さっきの言葉、本当に言ってんですか?」

「え?あ。うん。ごめん。本当。わかんない」

「うぼわぁ…」

「そんな魂が抜けたような声出さなくてもよくない?」

「いや、出るでしょう」


 男は死んだ目で言う。



「しかし、仮にも我らの主」

「ちょい待て。「仮にも」って何?」

「え?「仮にも(・・・)」が何です?」

「なんであなた強調しちゃうの!?」

「本心が漏れ出たんじゃないですかね」

「適当ね!」

「あなたほどではないです」

「ブーメラン?」

「綺麗に刺さりましたね。すごいです。この前王城で叫んでいた貴族のようです」


 この前の貴族とは、今のバシェル王を糾弾した貴族のことである。王の施策によって彼の領地が盛大に割を喰ったため、とりあえず適当に使用人虐待をでっち上げたのだ。



 ……結論はお察しの通りだが。その貴族が使用人虐待をしていたために自爆した。その時に貴族たちの間で流行した言葉が「雉も鳴かずば撃たれまい」である。ちゃんちゃん。



 いずれ露呈していたかもしれないが、それはまた別の話。兎も角、彼は自爆したのだ。男が言っているのはそれだ。ただ、それを彼女が知っているわけもなく、



「はぁ?誰よ。それ。ま、いいわ。仮にもって何よ」

「え?ああ。それはつい口が滑って本音が出てしまったようです」

「一層たちがわるいのだけど!?」

「仕方ないですね。日頃の行いを鑑みてください」

「何でよ!威厳あるでしょ!?」

「は?」


 低い声。思わず主であるはずの彼女でさえも威圧されてしまうような声だ。



「振り返ってみてください。どこに威厳なぞあるのです?」

「え?そりゃもう。あちこちにあるじゃん」

「ないですね」

「何でよ!?」

「同じボケをかましまくる、無視されて凹むような演技をする…。どう考えてもないですね。これでもあると言い張るなら病気ですね。病気を治すために、早く寝てください。そうすれば寝言はいくら言っていただいても構いませんよ」

「え゛。ちょっと待ちなさい。何でそんなにおざなりなの!?私の成果を聞きなさいよ!」

「はいどうぞ」

「失礼過ぎない?」

「そう作ったのは貴方でしょうに…」


 はぁ…。と声には出さなかったもののため息を吐いた。



「いいから聞きなさいよ」

「はいどうぞ」

「ついに、件の敵を倒した」

「あ。そうですか。おめでとうございます」

「反応うっす!?」

「え?気のせいですよ。倒し方は?」

「あたし大活躍!というかあたししか仕事してないわ!」


 キュピン! と音が鳴りそうな勢いで親指を立てる。



「あ、さいですか」

「興味持ちなさいよ!」

「どう持つのですか…。私はあれのことはよく知ってますし…。あ。そうだ。怪我しました?」

「今まさに思いつきました感満載ね…」

「そうですね」

「悪びれもしやがらない…。グヌヌ…」


 女は歯ぎしりをする。



「で、どうなのです?」

「さぁ、どうでしょー?」

「無傷か、軽症ですか。よかったよかった」

「うっわぁ…」


 凄まじいまでの棒読み。



「ああ。となると、ちょうど同じころに全ての班が揃いそうですね」

「え。まじ!?」

「本当です」

「うぇー。まだうちの身内で手一杯なのに…」

「いや、無理にやろうとしなくてもいいじゃないですか。何でまとめてやろうとするんですか。手抜きですか?」

「まとめてやる方がさ、危機感あってさ、ワクワクしない?」


 「馬鹿だこいつ」男はそれを口にしなかったものの、それを態度で露骨に示した。



「まぁ、いいです。どのみち我らは貴方に従うよりほかないのですから。帰還をお待ちしております」

「ん。じゃねー!」


 彼女は頬を軽く赤く染めると、通信をやめた。



「さて…、私は私で頑張りましょうかね…」


 男はそう言うと器に布を投げ込み、器を持って部屋を後にした。

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