83話 3日目
3日目。いつものルーチンをすまして……っと。報酬の件は昨日のうちにクリアナさんは王宮に戻って、オスカル様達に伝えてくれたみたい。仕事が早い。
「今日はどうするのー?」
「ん?センと遊ぶ」
「セン…ですか?」
「ん?俺らのお馬さん。言ってなかったか。じゃあ、相互理解を深めよう」
一階へ。皆の強い希望により、前のように滑り台。事故は起きなかった。原因さえわかっていれば対処は出来る。
馬小屋に入るといっぱい馬が。まぁ、当然なんだけど。馬小屋に馬がいなければ、それはただの小屋だ。
…センは目立つな。純白の馬などいないからだろうけど。
センは俺達を見るなり、くつろいでいたのにサッと立ち上がる。体中から喜色のオーラが溢れ、目は「遊んで!遊んで!」とばかりに輝いている。
「遊びたがり屋さんですね」
「だね。いつもこうだけどね。まじめな時はまじめにやってくれるけど」
「連れ出しましょうか」
「だね。閂外して。ん。ありがと。行くよ」
さて、外に出よ、
「ちょ。待って。重い重い。四季も巻き込んでるってぇ!」
「のしかかっちゃ…だめです!」
声をあげても、既にのしかかられているわけで、俺と四季はセンの圧力に耐えきれずに倒れる。
センはそんなのにお構いなしで、嬉しいのか顔をなめる。…ついでとばかりに魔力も持っていくね。別にいいけど。
「…セン!嬉しいからって、お父さんとお母さんにのしかかっちゃダメ!」
復帰したアイリがセンをぺシペシと叩く。センは少し落ち込んだそぶりを見せる。けれど、やっぱり遊べるのが嬉しいようで、
俺達が立ち上がるなり、再度キラキラした目を向けてくる。どんだけ遊びたいの!?
今度こそ外へ。既に走り回りたいのかワクワク感があふれ出している。でも、その前に。ちゃんと自己紹介をしてもらおうね。
「セン。この子たちがレイコとガロウ。もう既に2回ほど会っているけど、ちゃんとやってなかったからね」
「宜しくお願いいたします」
「よろしく」
レイコは礼儀正しく、ガロウはちょっとレイコに遅れたけど、馬には対抗心はないのか普通に挨拶した。センも頭を下げ返す。
レイコは前々から思っていたのか、
「……お父様。お母様。この子…。センは普通のお馬さんではないですよね?」
と言った。
「ん?そうだよ」
「やっぱり」という顔。だが、まだ違和感があるのか、センをジッと見つめる。センと目を合わせ…、センが「何?」というように首を傾げる。それにもお構いなしにセンを見る。
センがレイコに飛びかかろうとするが、ガロウが抑えた。レイコはそれに気づかず、さらに凝視。
「…魔獣……でもないですよね」
「ええ。すごいですね。レイコちゃん。そこまでわかるなんて」
完璧に気づいた人なんて、身内にそんなにいないぞ?
「って、ことは、この子ま…」
「はい!ガロウ。そこから先は言ってはなりません!」
「ムグッ!」
レイコは慌ただしくガロウの口を塞ぐ。うん。察してくれたのはいいけどさ、力加減を間違えてるよ。もうちょい優しく。…秘匿したいと思ってくれたんだろうけどさ。
「ゲホッ。ゲホッ。レイコォ…」
「あら。申し訳ないです」
辛そうだな…。回復いっておこうか。
「「『『回復』』」」
光がガロウを包み込む。
「あ。この光は…。ありがとう」
「「どういたしまして」」
さすがに父母呼びはなかったけど、ちゃんと感謝は口にしてくれた。
「で、どうしよう」
「走りたがっていますから、走らせてあげればいいのでは?」
「誰もなしで?」
「………」
センの目は、「誰か乗ってよ!」そんな感じ。沈黙せざるを得ない。全員は乗れないしなぁ…。
「…もう、二人だけでも乗っちゃえば?」
「「え?」」
「そうだねー。それがいいとボクも思うよー」
「何故に?」
俺が問い返せば、アイリ、カレンはおろか、レイコとガロウまでもが「やれやれ」と言わんばかりに首をすくめた。
うん。そこまでされたら言われずともわかる。あれだ。皆が言いたいのはこれだろう。「二人仲良く行ってらっしゃい!後で混ぜてね!」
…進展のない俺達への配慮か。それとも、単に二人乗せておけば、後で一人ずつ乗れば一緒に遊べるよねという思惑なのか。
…わからん。ただ、付き合いの浅いレイコとガロウまで、その考えになっているのは何故だ!
「えーと、そうします?」
「そうしよっか。センも待ちきれないみたいだs、うわっ」
「御託はいいからさっさと乗って」とばかりに、俺が首で持ち上げられた。突然は危ないって!
「うわっ」
センがしゃがみこむ。だから、突然は危ないって!
四季はいそいそとセンに乗りこむ。前が俺。後ろが四季。理性を削る時間が始まる…。気にしなければいいんだけど。無理です。
四季は気にしてないけど。凶器が俺に直撃していることなんて。…俺じゃなければ気にしたりするのだろうか? 個人的には気にして欲しいような。してほしくないような…。
「習君?どうしました?」
「んあっ!?ごめん。セン。出ていいよ!」
「ブルルッ!」
変な声出た…。怪しまれてない…よね?
「二人で乗るのは久しぶりですねー」
怪しまれてないね。セーフ。セーフ。
「だね。というか、二人で乗ったのも、ほんとのほんとの最初だけじゃない?」
「あー。ですねぇ。基本アイリちゃんとの3人乗りでしたしね」
「だったね。というか、二人きりってことがほぼなかったしねぇ…」
…やっぱり、二人きりにしてあげようと思ったのかな? こっちの理由のが強そうだ。
俺も四季もおそらく、同じ結論に至った。四季の頬が桜色に。たぶん俺も同じ色になっているだろう。
特に会話はないけれど、穏やかな、それでいて幸せな気持ちになれた。オアシスの北側をぐるりと一周。皆と合流だ。
戻ってきたら、みんなで鬼ごっこをしていたみたい。疲れたからか、俺達が戻ってきているのを見たからか、休憩中。
「…おかえり。楽しかった?」
「「うん」」
「…そっか。よかった。次は…、カレン。行く?」
「うん!じゃあ、次はー」
「私が行きたいです!」
「…ん。ガロウは?」
「俺?レイコと一緒に行きたいけど…」
「私達に騎乗能力はありませんよ?」
ガロウは「そうなんだよなぁ…」と黙った。4人はなぁ…。全員じゃないから乗れるけれども…、アイリ、カレンよりも二人とも体格がいいからかなりきつい。
「素直に分かれて乗りましょう」
「…わかったよ」
これで順番は決まった。ただし、「待っている間に決めておきなよ」は禁句。
「じゃあ、カレン行くよ」
「わーい」
俺が声をかけると、カレンはその場でジャンプ!
「ちょっ…」
俺がそんな声を出してもお構いなし。文字通り飛び乗ってきた。そして、密着してないから生まれている俺と四季の間にすっぽりと納まった。
「カレンちゃん…。あなたも割とこういう性格でしたね…」
「悪いー?」
「いえ。時と場合をあなたはちゃんと把握してくれますからね。では、習君」
「ああ。出発!」
俺が足で蹴りをいれずとも、空気を読んでセンは走り出す。
「何する?」
「弓使いたい!」
うーん。弓ねぇ…。あ。
「流鏑馬モドキでもする?」
「魔法使ってですか?どう?」
「やりたーい!」
「決まりだね」
流鏑馬モドキをしよう。的は俺らの放つ『ロックランス』静止していないし、スピードが速いけどカレンならできるさ。たぶん。
というわけでぐるりと一周開始。魔法は俺らの意思で消せるとはいえ、アホなところに打っちゃうと、大惨事不可避なので、上向きに。
「じゃ。やるよ!」
「うん。お願いー!」
「「『『ロックランス』』!」」
ズバババン!
うわぁ……。紙から飛び出た無数の岩の槍。それら全てが、わずか数秒で撃墜された。
「ちょっと待って。射るの早すぎ」
「槍が思ったより脆いー!」
ぷんぷん。と言った様子。さいですか。数重視がまずかったか。魔力もあるし、ケチらずやりますか。
「じゃあ、もう一回!」
「「『『ロックランス』』」」
数を抑えて質を上げる! 数は連射で補う。脳筋? 仕方ないね。他に方法が思いつかない。あ。俺らがセンから降りるというのは論外だよ。
…上手いのはいいんだけど、何で発射してから5秒は間隔開けてくれているのに撃墜できるんだよ!
「わーい!たーのしー!」
楽しそうで何より。こっちは連射に必死だけどね。打ちまくるだけでいいから、普段よりも弾幕の間隔密なんだけど…、あ。それはカレンも同じか。
ぐるっと一周したころには、中途半端に消費していた紙1枚と、新品1枚がお亡くなり。
待っていた子供たちに、「何やってんの?」という目で見られたけれど気にしない。割とよくあること。……あれ? とりあえず、昼食。昼食をはさんで、レイコの番。
レイコを先頭に四季。俺の順。前に乗せてあげたかったし、まだ合流してからの日も浅いから男の俺より、女性の四季の方がいいよね。と判断した。
先ほどとはうってかわってのんびりと。センもそんな空気に当てられたのかいつもよりも少し遅め。それでも普通の馬より早いけどね。
特に何を話すわけでもなく、楽しそうにはしゃいでいるレイコを俺と四季が眺める。それだけだったのに、割とすぐに時間は流れた。
「あれ?もう一周しちゃったのですか?」というレイコの言葉がこのことをよく示している。
「え?じゃあ俺の分も行く?」
とガロウ。しかし、レイコが「だめです!あなたはももっとお父様、お母様を敬うべきです!なので、触れ合う機会は必要です!」とちょっとぶっ飛んだ主張で押し切った。
何も言うまい…。
順番は、ガロウ。俺。四季。理由はレイコの時と同じ。
…というのは少しだけ嘘。ガロウを四季に近づけたくないという、どうしようもなく、しょうもない。みっともない理由だ。誰にもバレてなきゃいいな。アイリには察されてそうだけど。
それはそれとして、今度は、レイコの時とは違う理由でセンの歩みは遅くなった。聞きたくなったことを聞いていたので、空気を読んでくれた。
「そういえばさ、獣人の国って、どうなってるんだ?」
「そんなこと聞いて、どうするんだ?」
ガロウの目には疑いの色が。…レイコを守るにはいいかもしれないけど、もうちょい信用してよ。
「ああ。気分を害したのならごめん。一応、信用はしてるんだぞ?」
デレた…? よくわからん。
「とりあえず教えて」
「教えてくださいな」
「え゛。まぁ、いいけどさ…。獣人は国ちゃんとあるぞ。『バミトゥトゥ』…だったような?あれ?これ、中心地の名前だっけ?」
………。
「ごめん。わかんないや」
素直だな。困ったな…。いい加減な情報をくれるよりはいいけどね。本もそんなになかったんだよねぇ…。昔のばっか。それに、今と変わっているかもしれないし…。
でも、仕方ないか。次。
「国の形は?」
「形?ほぼ円形」
「ガロウ君。違います。習君の言い方も悪いですけど」
「ごめん」
うん。言ってから気づいた。
「聞きたいのはですね。トップが王様なのか…」
「ああ!そっちか!今は、龍人族の人だ」
「今は?」
「基本持ち回りなんだ。でも、今の人が有能すぎて、変わってないらしいぞ」
現実でもたまにある、今の人が有能すぎて、後が続かないパターンか?
ちょっと違うだろうけど、旧ユーゴのチトー大統領みたいなものだろうか? あ。やっぱり違うかな? 死後、国自体が崩壊したし。
「そう言えば、種族って、何種類あるのですか?」
「え?種族?何で?」
「レイコちゃんとガロウ君は、同じところで育ったって言ってましたよね?」
「あ?ああ。俺は、白狼で、レイコは名目上、妖孤だな。あいつは、まぁ。あの中でも別だけどな」
「霊孤だったね」
「そう。他にもあるけど、省略する。ところで、故郷に連れて行ってくれるんだよ…な?」
急に不安になったのかな?
「ああ。仕事とか関係なしにね」
「はい」
「ありがとう。で、俺らの種族というか、群は犬。そのほかに、鼠、牛、虎、兎、龍、蛇。それに、馬、羊。猿、鳥。猪!これだけだ」
干支だ…。もろに干支。今度から、頭の中では自動的に干支の面倒くさいほうの漢字が出てくるな。
「そういえば、首長の決め方は?ずっと龍人の人だ。って、言っていましたけど」
「首長?各群のトップから1年交代。今は、「時期だ。交代しよう!」と言っても、「貴方が有能すぎるので嫌です」×11 になっているらしいぞ」
うわぁ…。もし現首長が死んだらどうするつもりなんだ…。
「あ。群のリーダーは群で決めるぞ」
「へぇ…」
「群のことは割と、群が決める感じ。あ!国の形だったな。えっとね、こういうのを、レンポーセー?だっけ?って言うんだよな!」
「連邦制?」
えっと、地球で有名な連邦制国家は…、アメリカ。ロシア。ドイツか。たぶん微妙に制度上に差異はあるだろうけど。大憲章と同じく、偶然名前が被ったのか?
「そういえば、今の戌群のリーダーは?」
「知らない。首長の名前も、姿も知らない。レイコなら知っているかもしれないけど…、期待はしないでくれ。そこまで詳しく教えられていないと思う」
なるほど。レイコの好奇心が強いのは、そのせいもあるかな? 閉じ込められてもらえる情報が少ないから。…抜け出せてはいるけどね。
……何で抜け出せたんだ? マジで。あれから考えてみたが、やはり謎だ。
「そろそろ一周しますね」
ありゃ。この話は後回しだな。
「話、やめるぞ?」
「いいよ」
たいした理由でなければいいのだけど。
ガロウは到着するなり、センから飛び降りてレイコのそばへ。
「ガロウ!そんな行動をとっては、お父様とお母様と一緒に居たくないみたいですよ!」
「んなわけねぇだろ!人間なのにちゃんと扱ってくれんだぞ!?」
差別感情はあるみたいだね…。
本人が気にしていないから言う気はないけど、アイリを恐れる人はやっぱりいるし、ガロウとレイコも一緒。カレンだけが、そんな目で見られない。ただ、見た目が俺らと違いすぎるので、やっぱり疑惑の目を向ける人はいる。
ま、本格的に手を出してくるなら返り討ちにすればいいか。
なお、ここ『グラム=ヘルサ』では、デグラさんの人徳かそもそもそんなのは少なかったし、お話し──決して(物理)ではない──たらほぼ全員と仲良くなれた。
「…よいしょっと」
「んあ。来たか。アイリ」
「…ん」
「順番はどうします?」
「…このままで。お母さんにもたれさせて」
「いいですよ。はい」
アイリは俺と四季の間に。四季の方に体重をかけ幸せそうな顔に。アイリの顔を見ようとすると、四季の変形した胸が目に入る。……困った。出来るだけ気にしないようにしよう。
「じゃあ、しゅっぱー「敵襲!」うわぁ」
何と間の悪い…。
「どうする?」
「…絶対に許さない。血祭りにあげる」
アイリは体を起こしてそんなことを言う。目が爛々と輝いている。やる気満々である。
「後で、やってあげますから」
「…それとこれとは別」
ああ。うん。ま、俺としても若干腹立たしくはあるわけで。センも、「連れてって!」という目をしているのでこのまま行こう。
「みんなは普通に歩いて階段を上って!」
「おとーさんたちは?」
「私達はこのまま行きますよ!習君!」
四季から紙を渡される。書いててよかった。『階段』。
「「『『階段』』」」
紙から階段が出現。『グラム=ヘルサ』の頂上までの道が一瞬で出来た。
「わぁ。それ使うんだねー」
「正解!使ってくれてもいいぞ」
「制限時間は20分です!」
「十分だねー」
「俺も登れるな」
「私も余裕ですわ!」
「了解。じゃ、先に行く!」
センは階段を一段とばしで駆け上がる。あっという間に頂上。
「敵は?」
「ワハハ!こんなところまで、馬!ハハハ!」
「敵は、あそこです。砂が舞い上がっているところです」
クリアナさんの指さす方には砂煙。あれって、数が多いんじゃなくて、サイズの大きいやつが、割と早めの速度で移動しているだけじゃないの?
「…行くよ。セン」
「「え」」
俺らの言葉を完全に無視して、センは『グラム=ヘルサ』頂上から駆け出す。
「無茶です!」
「…わたしの恨み。思い知るといい」
クリアナさんの静止も一蹴。デグラさん? ああ。彼は笑ってるよ。いつもの5割増しで。
ッ、飛んだぁ!
そして、着地。同時に、真下にいたサンゴのコアを踏み抜く。もうこんなに近くに来たのか!?
「…あれはただのはぐれ。本命はあっち。…魚型が多いから、砂の中を泳いできたんじゃない?」
「なるほど」
烏賊や、イルカにアザラシ。そんな形のやつもいるけど。魚と言ってしまって問題ない。
そんなのが20ほど。あちらに向かって走っているからか、速度は相対速度の関係で早く感じるけど、絶対そんなにない。センの方がおそらく2倍は早い。
「…三枚に下ろす」
殺意が溢れている。殺すと素直に言わないあたりがヤバい。俺らから見ればほほえましいけど、サンゴの数匹はそれに恐れをなしたのか、逃走体勢。
「…逃がさない」
容赦なく、逃げようとしたやつはコアを切断された。
「…強度は普通のより、ちょっと強いぐらいかな?…瞬殺しよう。ね?」
「だね」
「強度がわからないので、割と強めにやりましょう」
結果、大型サンゴの群れは瞬く間に瓦解した。一撃で3匹ほど沈むとは…。
魔法の袋に詰め込めるだけ詰め込んでお持ち帰り。それを5往復。解体、死体処理をすまして、アイリと一周。かなりご満悦だった。言ってくれればやるのに。…言い出すのは迷惑だと思ってるんだろうなぁ…。
今日はそれ以外には夜に雨が降り出した以外、何もなかった。