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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
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80話 グラム=ヘルサ

 一気に顔が真っ赤になる。うぅぅ…。やらかした…。



「お父様、お母様。どうされました?顔が…、真っ赤でs」

「レイコ。黙っててやってくれ」


 レイコは不思議そうな顔をしながらも、理解を示してくれた。



 ありがとうガロウ。君、俺達の事そこまで好きじゃないだろうに…。死体蹴りを回避してくれるなんて…。



 カレンは空気を読んで黙ってくれている。アイリは俺達を見かねて、とっとと馬小屋に入れてしまうようにクリアナさんに言ってくれた。ありがとう…。



「…まさか、馬車が着いているのに気づかないなんて…」

「…言わないでおこう。四季。虚しくなるから」


 全員空気を読んで無言。レイコだけは口を再度塞がれているから、空気を読んでとは言い難いけど。さっきからガロウの優しさが身に染みる…。



 ……よし!



「行こっか!」

「はい!」


 この場にタクがいれば、「ラスボスを倒しに行くような意気込みで言わないでもいいぞ?」と言われそうなテンションなのは自覚してる。でも、こうでもしておかないと…。



 馬車置き場兼馬小屋から、守護するための建物内へ。生暖かい視線がぐさぐさと俺らに突き刺さる。



 この視線に耐えきれる気がしないからね。しょうがないよね。



「オスカル様から、ここを抜ける兵士の代わりに守って!と依頼を受けた習です」

「四季です」

「…アイリ」

「カレンだよー」

「レイコです」

「ガロウ」


 生暖かい視線に耐えて、というか、ガン無視して自己紹介。これで相手も仕事モードに入ってくれるはずだ!



「…ご丁寧にどうも。私はここ『グラム=ヘルサ』を任されております、5番隊隊長、デグラ=ムーライルです。何とでもお呼びください」


 よし。ごまかしているのはバレバレだろうけど、ちゃんと話題を変えるのに付き合ってくれた。デグラさんは体格のがっしりした男性。絶対に体重は100 kgはある。でも、体脂肪率はたぶん1割切ってる。とりあえず、デグラさんと呼んでおこう。



「とりあえず、お部屋に案内しますね」


 体格に似合わず、上品に歩いて行くデグラさん。部下らしき人達は俺達に構わず、外の監視を続けるようだ。…さっきも外を監視してくれていてよかったんですよ?



「あ」


 何かを思いだしたような声を出すデグラさん。何だろう? と思っているうちに、その場でくるりと半回転。おお。軸がぶれてない!



「お部屋は、二つ用意しますか?こちらとしては出来れば一つの方がいいのですけど。兵士たちが寝れなくなっても困りますから」

「「一つでいいです!」」

「ガハハハ。ですよね」


 この人…。いろんな意味ですごいな。



わたくし、お父様と、お母様がいなくても泣いたりしませんよ?」

「当然、俺もだぞ!」


 獣人の二人は純粋だねぇ…。



「シュウ様。シキ様。デグは、たまーに、ああいうこと言いますので…。揶揄いたいだけですので…。悪い人ではないのですよ?」

「それは、わかってます。俺らに敬語?使ってくれてますから…」

「はい。私達、「自分が敬語を使われるほど立派だ」なんて、驕るつもりはないのですから」

「それはそれで、卑下しすぎだと思いますけど…」

「ハッハッハ。皆さま!置いていきますよ!」

「…いつまで笑ってるのかな?」


 気にしなかったことを言葉にするアイリ。俺に聞かれても…。



「さぁ…?わからないな。クリアナさんどうなのです?」

「飽きるまでですよ…」


 達観したような顔で言うクリアナさん。



 うげぇ…。うん。今思ったことはポイして、笑い声の後をついていこう。それでいいや。



 中は少し複雑。砂漠側から攻められること…、つまりは、獣人の襲撃を受けることを警戒しての仕様だろう。



 固まってる間にデグラさんの姿はとうに見失ってしまった。でも、大丈夫。だって、笑い声が反響して、だいたいデグラさんのいる位置がわかる。



 うん。何かすっごい複雑な気持ちになるな…。笑い声が癖であればいいのだけど、建物前でやらかしたことが原因ならば、恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ。



 石造りの建物の階段を上り、廊下を走り、笑い声を追いかけて行けば、着いたのは最上階の角部屋。



「ハハ。ここなら迷わないでしょう!部屋の大きさも十分ですし!クリアナは隣を使え。たまに攻撃が飛んできて壊れることもありますが、些細な事でしょう!ワッハッハ。では、また後で、先に戻ってますので」


 再びワッハッハと笑いながら歩いて行く。ドップラー効果で、行きと帰りで声の高さが違うなぁ…。



「…ねぇ、あの人、いつまで笑ってるの?」

「知らないよ…。攻撃云々がツボに入ったんじゃないの?」

「あ、そうでした。それって本当なんですか?クリアナさん」


 四季が聞くと、クリアナさんはサッと顔を背けた。………。目が合うように移動。さらに背ける。さらに移動。こっちを見ろ。



「ええ、本当ですよ!でも、それはこの施設共通の悩みですから!ええ!最上階の方が、直上に兵がいるために、余計に攻撃を受けやすいなんてことはありませんとも!」


 誤魔化しきれてない! なるほど、攻撃受けやすいんですね…。



「はっ!?あ、でも、迷いにくいのは本当ですよ!?ここは階段を上って分岐のたびに曲がればつけますから…。下の階は、階段上下しないといけなかったりしますので!」


 必死ですねえ…。全員、生暖かい目でクリアナさんを見つめる。



「ま、いいんですけどね。迷うほうが面倒ですし」

「攻撃は、私達が全て粉砕してしまえばいいんですよ」

「…なんでしょう。皆さまなら、どれだけ敵が来ようとやってのけてしまいそうな気がします」

「一応、勇者ですから」


 さて、荷物を置いて…。



「見てください!お父様、お母様!眺めはいいですよ!」


 ん? 窓の外を見てみれば一面の砂漠。地平線まで続く橙色の砂の大海。あそこをセンと一緒に爆走したわけだ。そりゃいかれるよね。



 そして、窓を開けているときに風が吹けば大惨事待ったなしだ。



「荷物おけました?あ、窓は開けても大丈夫ですよ。勝手に閉まりますから」


 それは窓を開けてもいい理由にはなってないですよね…。むしろ、窓の開け忘れを防止するための機能じゃないですかね。クリアナさんを見てると、そんな気しかしない。



「集合場所は一階でしたっけ?」

「そうですよ!」

「じゃあ…。ショートカットしようか。紙頂戴」

「はい。どうぞ」


 というわけで、さっと書く。『滑り台』っと。アークライン神聖国以来かな、この字。持続時間は…、10分もあればいいか。



 窓を開け放って…。お。これ、奥に押して開けるタイプの窓か。窓についている砂が中にまで入らないようにする工夫か。



 あ。ここの入り口どこだ? こっからじゃ見えないな。…町側に着地できればいいか。

砂漠側だと面倒がありそうだし。



「「『『滑り台』』」」


 よし。イメージ通り、途中で折れ曲がりのある岩の滑り台が出来た。角度が急すぎて、遠心力で外に放り投げられる…。なんてことはないはず。



「わぁ!すごいです。お父様!お母様!」


 レイコはかなりテンション高め。ガロウは目を丸くしている。君らの前で使った魔法は、綿菓子作りのための割とちっさめのやつだったもんね。アイリとカレンはクリアナさんに自慢するかのように胸を張っている。かわいい。



 クリアナさんは…と言うと、



「わぁ!こんなことも出来るんですね!」


 と近づいて身を乗り出して滑り台を見ている。危なっかしいなぁ…。



「あ」


 そんな言葉とともに、予想通りというか、何と言うか、身を乗り出しすぎてそのまま滑って行った。



「きゃー!」


 頭から滑って行ったからね…。そのままカーブに突っ込む。ちゃんと曲がれたね。うん。俺らでも大丈夫っぽいね。



わたくしもやりたいです!」

「あ、待て。先に俺が行く!」


 レイコを押しのけ、ガロウが滑り、間髪入れずにレイコが滑って行った。止める間もなかった…。



「事故確定ですね」

「…だねぇ」


 ガロウは確実にレイコにつぶされるな。クリアナさんは…回避できるか? それとも事故る? …ま、見ればわかるか。



「じゃ、俺から」

「どうぞー」


 窓辺に座ると、カレンが



「とー。一緒に滑ろ!」


 と乗り込んできた。見るものの心を奪うような満面の笑顔。実に愛らしい。



「ドスンは危ないって。今回は大丈夫だったけど」


 一応、言っとかないとね。



「ごめんなさーい」

「いいよ。じゃ、行こうか」


 勢いよく手で押せば滑り出す。あっちの滑り台と何も変わんないな…。アークラインの時とはまた違うけど。そういや、あの時、何年ぶりに滑ったんだろうね。



「結構早いねー」

「だね」


 俺はそこまで楽しくはないけど、カレンは楽しそう。初めてだからだろう。喜んでくれるのはいいことだ。



「あー。まだ3人あんなところにいるよー」

「ん?あ、本当だ」


 忘れてたわ…。



「四季!案の定だった!気を付けて!」


 出口のところでくんずほぐれつ。聞こえるかどうかは怪しいけど、注意を促しておいて…っと。



「しっかり掴まってて」

「んー」


 何でこんな状況でも楽しそうなんですかねぇ…。ま、今はやるべきことをやりましょうか!



 腕に力を入れて立ちあがりながら、カレンを抱き上げる。そして…、地面に着く前にちょっと余裕を持って、滑り台からジャンプ! 『身体強化』で着地。



「わー。すごーい!」


 上機嫌だな。カレン。



 こんなことあっちの滑り台なんかじゃできないんだけどなぁ。そもそも滑ってる最中に立つのが危ない。滑り台の中にこけるだけならまだいいけど、外に落ちたら最悪死ぬ。



 人は案外脆い。特に頭。頭を強く打てばそれだけで簡単に死ぬ。



 飛び降りるのも似たようなもの。無事な高さなんて人によるけど、きちんと着地できても足を折る。へたしたらやっぱり死ぬ。その場合、どんな滑り台だ。って、ツッコミが入るだろうけど。兎も角、『身体強化』があるからできることだ。



 さてっと。変に動くと四季が、俺がどこにいるかわからなくなっちゃいそうだ。だから、少し距離を取って立っておこう。これで、少なくとも俺と四季の事故は防げる。



 そう思って振り向くと、四季が俺と同じようにアイリを膝の上に乗せて滑り下りてきていた。



「アイリちゃん!減速!」

「…ん!」


 アイリは滑り台に思いっきり鎌を突き刺し、四季は腕で滑り台の端をホールドした。



 なるほど。四季は無理やり停止するほうを選んだか。俺では、四季がいたから無理な方法だ。



 四季とアイリは割とあっさりと止まった。対策が早かったのもあるだろうけど。ゆっくり滑り降りてきて、終端部で立ち上がってよける。



「四季。アイリ。怪我ない?」

「はい。ないですよ!」

「…わたしもない」

「そっか。よかった。摩擦でやられてないか心配だった。で、クリアナさーん。ガロウ。大丈夫?」


 今更ながらに視線を向けると、クリアナさんが色々とひどいことになっていた。うん。大丈夫じゃないわ。



「「『『回復』』」」


 光が3人を包み込んだ。よし、(傷は)大丈夫そうだな。服に着いた血はどうにもならないけど。で、



「大丈夫?」


 四季が声をかけながらレイコを持ち上げ、俺もそれに続いて、ガロウを持ち上げる。アイリとカレンがクリアナさんのフォローに入る。



 とりあえず、全員から「大丈夫。」そんなニュアンスの返事は返ってきた。ふむ、状況的に…、



 クリアナさんが頭から地面に突っ込む。で、出血。直後、ガロウが滑り降りてきて、クリアナさんの背中にドン! 状況を確認しようとクリアナさんが頭をあげ、ガロウがどこうとしたところに、レイコがさらにドン!



 ガロウは前に倒れ、再びクリアナさんが頭を地面に打ち付ける。ガロウもレイコも衝撃で動けず。そんなところか。



 ……異世界でよかった。地球なら高確率でクリアナさんは死んでる。さっきも言ったけれど、頭を打つのは本当によくないからなぁ…。



 閑話休題それはともかく



「デグラさんはいつまで笑い転げてるんだ?」

「さぁ…?」

「…ツボが致命的に変なんじゃない?」

「ワハハー。って、ずっと笑ってるねー」


 いつからいたのかわからないが、デグラさんと部下っぽい人数名がわざわざ見に来てくれている。その中で笑い転げているのはデグラさん。先にやるべきことをやっとかないと…。お説教の時間。



「レイコ。ガロウ。説明する前に飛びつくのはダメだ」

「危ないでしょう?というか、実際に危なかったですよね?」

「ふぁい…」

「ごめんなさい…」

「よろしい。こっちが説明する前に動いたのも悪かっただろうけど…」

「今度から気を付けてくださいね?」

「わかりました。お父様。お母様」

「…わかったよ」


 聞き分けのいい子で何より。ガロウは反抗的に見えるけど、やっぱり根が素直なんだろうな。素直な子は抜け出さない? そんなこと知らん。言う人がいなかったんじゃない? 「抜け出すのはダメ」って。



「ぎゃあ!?服が血まみれ…!?」


 元気そうだな。クリアナさん。



「換えの服。あります?」

「むー。ありますけど…。取りに行くのが面倒です…」


  ですよね。着替えを置いている部屋から今来たばかりなのですから。



「服についた土や血を汚れと認識すれば、私達の魔法で何とかできませんかね?」

「水でも何でもない謎の液体で汚れだけ溶かす感じ?…行けるかも」


 じゃあ、早速試そう。紙に書く字は、『洗浄』だ。これを、さっきの認識で使おう。



「動かないでくださいねー」

「「『『洗浄』』」」


  紙から飛び出たスライムっぽい液体はクリアナさんを包み込む。え゛なんで、顔まで包み込んでんの?そう思ったのもつかの間、すぐさま消えた。ものの見事に汚れだけを洗い流した。おお、予想以上だ。一瞬焦ったけど。「服の汚れだけ落ちればいいか」と考えていたのに。



「おおう!?綺麗になりましたね!でも…、驚いているのはなぜです?…何故、目を逸らすのです?」


 …いや、実験もしてないのに魔法ぶっかけるのはやっぱりまずいな…。って、思ってるだけです。ええ。言えないけど。



「ハハハ!大方、勇者様方は今、始めてその魔法を使ったんだろうよ!ハハハ!」


 何故言った。



「え!?そうなんですか!?」


 思わず目逸らし。四季と目が合う。このまま見つめあっていれば誤魔化されてくれはしないだろうか。



「その通りなんですねぇ!?何でですかぁ!?」


 無理でした。



「ワハハハハハ!お前のキャラをわかってるんだろ!」

「キャラ!?キャラって何です!?私、狙ってやってませんよ!?」

「ワハハ!つまりそれはお前が産まれ持った性質なんだろうさ!ああ。そろそろ中に入るぞ!いつまでも遊んでいるわけにはいかないからな!ワッハッハ!」

「ちょ。デグ!説明を求めます!」


 二人と、部下っぽい人は中に入っていった。うん。ごめんね。クリアナさん。



 俺達も続いて中に入ると兵士さんらしき人に着席を促された。



「ハッハッハ!」

「いつまで笑ってんですか!」


 クリアナさんの回し蹴り! 頭を狙ったぽいけど、残念、圧倒的に高さが足りない。デグラさん2 mは身長あるっぽいからなぁ。クリアナさんも低いわけじゃないけど、差がひどすぎる。



「クッ…。届きませんか」

「とりあえず座れ。はい。説明。ここでやることは、外敵を町の中まで通さないこと!以上だ!ワハハ!」


 デグラさんは立ち上がると見た目に反した機敏な動きで去って行った。えぇ…。



「私が補足しますね。とはいえ、あれで全てなのです。あれに、出来るだけ壁…要は、『グラム=ヘルサ』を攻撃されないようにしてください。と言うのと、主な敵は『サンゴ』です。と言うぐらいですし…。普段はそうそう『サンゴ』も来ませんけどね」


 それフラグ。あ、忘れないうちに謝っておかないとね。こちらも、相手も。



「先ほどはすみませんでした。色々と」

「ごめんなさい」


 俺と四季が頭を下げると、クリアナさんは目をさまよわせる。



「あー。それですか。私がはしゃぎすぎたことがそもそもの発端なのです。気になさらないでください」


 許してくれた。よかった。部屋の中を弛緩した空気が包み込む。だが、そんな折、



「敵襲!敵は『サンゴ』の群れ!いつもより数が多い!至急、頂上に上ってこられたし!繰り返す!敵襲!」


 …さっそく回収されたか。



「クリアナさん。案内お願いします」

「はい。こちらです。この部屋の階段を登れば一直線です!」


 クリアナさんの声に従い俺たちは階段を駆け上がる。

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