77話 続回想
相変わらずの回想?形式です。
「我らも行くか」
「だね」
フランシスカ様と別れた後、二人は歩き…、というより、競歩で。あり? 早くなった。もはや走り出した。って、いうのが正しいぜ! ははっ。
本当に、この日が待ち遠しかったんですね。
「王都中の動向は逐一見てるよ。一部見れないけど」
「そうか。では、指示を。不足のところへ行く」
「じゃあ、オルベール男爵家へ。あそこは一人でもいいよ。使用人含め黒。全員殺して構わない」
「了解」
「拓也様は俺と一緒に」
展開が早い!
「逐一って、どうやって?」
「シャイツァーですよ。生物を見ることはかないませんが…、部下たちには、制圧が終われば印を残すように指示していますから」
文字を残すなり、壁を俺にだけわかるように破壊するなど、いろいろ方法はあるのですよ。とニッコリほほ笑む。
怖い。
「今、どこを目指しているのです?」
「国立の博物館です。名前もそのままイベア国立博物館。捻りも何もありませんが、俺は好きですよ。コロメニアなんかと違って」
嫌悪感を露わに吐き捨てるラウル様。コロメニアって、何だったっけ?
「コロメニアはうちの馬鹿な貴族共が使う暗喩ですよ。さっぱり一般的ではありませんよ」
「何でそれをあなたが知ってるんですかねぇ…」
「これくらい基本ですよ。基本。相手の嫌がることは進んでやります」
うわぁ…。
「で、どういう意味です?」
「我々の栄光?繁栄?とかそういう意味ですね。「我々=本当に言っている奴らだけ」という素敵さですよ。ハハ。国の貴族のくせに、国の繁栄を祈っているわけではないんですよ?」
ラウル様の目は据わっていた。習とは別ベクトルで怖い。あっちは、基本心を折るけど、この人は…、殺す気だ。コロメニアの意味を聞けば、是非もなし! という感想持つけど。
修正不可能だろ。聞く限り、修正しようとする労力が勿体ないわ。
「イベア国立博物館を目指すのは、そこが王都の中心だからですか?」
「そうです。そこからなら、街の状況がわかりますので。あ、援護必要そうですね。腐っても伯爵家か…。ふん」
殺意溢れすぎぃ!
「すみません。近くのゴックス伯爵家に救援に行ってください。その後の指示は、伝令を走らせるか、申し訳ないのですが、ここまで来てください」
「了解です」
俺はそれだけ伝えて走りだ…、せない。
「ゴックス伯爵家って、どこです?」
「次の角を右に行ってまっすぐ行っていただいたところの3区画目です。あ、これをお持ちください。兵士に見せれば信用してもらえます」
「了解です」
場所が分かんなきゃどうしようもない。が、わかれば行ける。角を曲がって…。ああ、あれか。大絶賛炎上中だ。でも、援護がいるってことは、何か問題が起きているのだろう。
「ラウル様に頼まれて援護に来ました!」
「「お疲れ様です!」」
わお。士気が高いぜ。まだ、もらったもの見せてもないのに。
「とりあえず、これ、先ほどラウル様にいただいたものです。状況をお聞かせ願えますか?」
「かしこまりました。ゴックス伯爵は、家に立てこもっています。とりあえず捕まえれる人間は捕まえ切ったのち、家を焼いてみましたが…、あの魔道具のせいでどうしようもなく…」
指をさす先には黒っぽい棺桶のようなモノが。うん。地球とは違うとわかっていても思わずツッコミをいれたくなっちまうな。
「力押しじゃダメ?」
「え?構いませんよ。どのみちあの中の人間は処刑ですから。周りを巻き込まなければ問題ないです!」
すがすがしい顔で言い切るな。この兵士はあの皆さんが好きなんだろう。よし。じゃあ、さっさとすませてしまうか。
「この隊にシャイツァー持ちは?」
「いません!」
「了解」
じゃあ、シャイツァーで斬り続ければいいか。シャイツァー持ちは少ないのか? わかんね。とりあえず、近づいて斬って斬って斬り刻む!
俺のシャイツアーは火を操る双剣。だから、火事なんてありとあらゆる意味で関係がない。
煙を吸って、気道が焼けることもない。一酸化中毒になることも、酸素不足になることもない。熱で火傷することもない。魔力がなくなるとヤバいけど。
「でぇぃ!」
ガキン!
わお。音がかてぇ。でも、この手ごたえならすぐだ。ガンガンと斬りつける。火事で屋敷が崩れてきそうだ。先にぶっ壊すか。
「『我が魔力を喰らいて走れ!道にあるもの全てを灰燼に帰す炎の龍をここに!獄炎龍!』」
この前の獄炎龍よりはずいぶんとちっさいかわいらしい龍が、崩れ落ちてきそうな屋敷を食べ、灰すら残さず消し飛ばす。よし。続行だ。にしても…、これ、防がれたらどうするつもりだったんだろ? このあたりの事考えて…、なさそうだな!
ま、とにかく斬りつけよう。
ガギンガギン!
音はいっちょまえに鳴りやがるな!そろそろ開け!
バゴッ!
あ。開いたぜ。
「開きました!」
「お疲れ様です!その中に火魔法打ち込んでおいてもらえます?」
「了解です」
えーと、呪文は何だったっけ? ま。適当でいいか。適当で。発動すればいいんだし。
「『我が魔力を糧として、龍よ火を噴け。そして激しく燃え爆ぜるがいい!「ちょ、待って!」『龍の息吹』!」
ノリでやったら結構魔力食われてしまったぜ! ま、いいけど。兎も角、俺の作った魔法は、棺桶の中に着弾。中を燃やし尽くした。
「では、兵士の皆さま。お疲れ様です。俺はラウル様のもとへ向かいます」
「あ、ラウル様からの伝言です。次は、ソッミ子爵家の方へ行って欲しいと」
「了解です」
「私が案内しながら状況を説明します」
「お願いします」
「ソッミ子爵は、なんやかんやで無理やり結婚させた、ジュノー男爵令嬢を人質にしています。なので、我らが気を引いているうちに助け出してください」
「了解です」
なんやかんやが気にならないこともねぇが…、気にしないでおこう。だって、大抵心労が増えるだけなんだぜ…。
街を走れば時折、焼けた家、破壊された家が見受けられる。それでも、住民たちは避難しているのか、寝静まっているのか静かなもの。
「この角を右に曲がれば正門です。しかし、見つかっては元も子もないので、直進です。あ、ここです。ここ。窓から入ってください。ジュノー様の側近がいらっしゃると思いますので、彼の指示に従ってください」
「了解です。ここでは、ジュノー様の関係者を救出すればいいのですね?」
「はい。あ、でも、殺生は控えてください。屑なのはソッミの近親者ぐらいなので」
「かしこまりぃ!」
様付すらないのが少し笑いを誘う。全力でジャンプして、跳ねて行けば、目的の窓に到達。鍵は開いている。
「よいしょっと。あぁ、ジュノー様の救出に来ました」
そばにいた初老の男性にラウル様からいただいたものを見せる。
男性は頷くと、無言でついてくるように促した。戦闘で荒れた屋敷を通り抜ける。時折死体が転がっているのが、悲しさを誘う。
「下をご覧ください」
そう言われて、上から階下を見下ろす。すると、2つある階段のちょうど中央の一階部分に、大声を上げるハゲと令嬢がいた。
完全包囲じゃないですかー。それに…、
「ジュノー様の結婚相手って、あのハゲですか?」
「そうです…。あ、でも、襲われてはいないはずですよ」
奥さんの部下に「襲われる」といわれている時点で、あいつがどう思われているかまるわかり。
「あいつを始末して助ければいいんですよね。では、魔法でささっと片付けてしまいましょう」
呪文はいつものようにノリで。
「『我が魔力から生まれし鳥よ。我が望むものの心臓を喰らいて還れ。永劫流転の叫びを揚げよ!『不死鳥』!』」
俺の想像通りに誕生した炎の鳥は、2階から静かに一階へ。そして、心臓のあたりを一突きし、肉を焼く。これで血が飛び散ることはない。俺って優しい!
そして、炎の鳥は心臓を焼くと消えた。
「確保!」
隊長らしき人が叫ぶ。うん。おっけい! 令嬢のケアも、女の騎士さんがいるから何とかしてくれるだろ。
「では、俺は次の地点へ。行ってきます」
「お疲れ様です!」
見送ってくれる。ちょっとうれしい。これがルキィ様だともっと嬉しい。
「さて、戻ろう」
「あ、矢野様。ラウル様からの伝令です」
はや!? タイミングばっちりすぎるぜ…。
「えっと、ですね…。あ、ついてきてもらった方が早そうです」
?
よくわかんないけど、ついていく。今、俺が動いているのを知っている人の数は少ないから疑う必要はそんなにない。罠だったら粉砕すればいいし。
2本進んで道を右へ。次の曲がり角に差し掛かる。
「ここで待機みたいです。あちらから走ってくる奴を、私達が今来た方向とは逆方向に追い込んで欲しいらしいです」
「はぁ」
「で、そのまま追跡だそうです。捕まえなくていいそうです」
「は?」
「では、お願いします」
えー。行っちゃうのか。全然わかってないぜ俺。えーと、あっちから来る奴を、捕まえずに、俺達が北方向とは逆方向に追い込み、追跡。
……うん。意味が分かんないな。なんて考えてたら来たぜ…。後ろに、俺のお仲間がいる。えっと、とりあえず…。
「止まれ!お前には捕縛命令が出ている!」
と剣を持って叫んでみる。これでこっちに来たら阿保だ。
「ええい!またか!私はニハヤゲ子爵だぞ!なんでこんな目に!」
「あなたが罪を犯したからでしょう!神妙にお縄につけ!」
あれ? 言葉変? ま、いいか。って、早いな! 貴族のくせに! えっと、とりあえず…。
「待てー!!」
誘導は成功した。そのまま追いかけると、なぜかニハヤゲとか言うやつの後ろにいた騎士がどっかに行った。と、思ったら次の角で一人いた。使いまわしかよ…。
壮絶 (俺を除く)な追いかけっこをすること暫し、一本道でついに挟み込まれたニハヤゲ子爵は、そばにあった家の門をこじ開け飛び込んだ。
「矢野様、追いかけてください!家の人は怪我しないように黙らせてください!なるべく凶悪犯を追いかけている感じで!」
は!? 指示が意味わからんのですぜ…。まぁ、やるけど。
「待て!凶悪犯!」
えっと…、あ、そうだ。当てる気のない魔法を……、すぐ消えるように、簡単な呪文で…。
『火球よ。あの男を焼き払え!『火球』!』
「私は、ニハヤゲ子爵だぞ!?そんなのうつでない!」
「知りませんよ!あっ、外した!」
嘘だぜ。わざとだ。あれ? あ。威力が思ったより高ーい。屋敷燃えちゃうんじゃない?
後ろをチラッと見ると、そのまま! と目で合図された。消してくれるのだろう。たぶん。
屋敷の中に逃げ込むニハヤゲ子爵を追いかける。怪我させないようにね! と言われたが、あいつが全部薙ぎ払ってくれるから進みやすいことこの上ないぜ!
たまに、こけたまま足掴もうとしてくる人がいるけど、回避して踏みつける。
あ、曲がった。
「マキワート男爵!私を助けるがいい!」
「ふぁ!?私も私のことで精一杯ですよ!できることと出来ないことが…」
「ちぇすーと!確保!あ、お邪魔してます。では」
「あ。はい」
文句言われる前に、襟をがっと掴んでひきずって逃走! 俺悪くないもん!
あ、呼吸がヤバいか? 逃げきるまで耐えて! ルキィ様なら絶対に抱っこするけど、野郎を抱える趣味はねぇ! あ、でも友達なら別だぜ。
廊下から外が見える。まだ燃えてる…。というか消す気ないぜ、あれ…。あ! そうだ、外が見えるなら、外に飛び出してしまえばいいじゃん!
窓を開け放って…。
「君、何をする気かね?」
「あ、おはようございます」
よく気を取り戻したな…。雑な扱いをした記憶しかないけど。とりあえず、ぶん殴って…、
「痛い!」
おお、騒げるか。とりあえず、気絶したような気がするから、縛って…。
「みなさーん!落としますよ!」
「あ、どうぞ!」
まじかよ。いいのかよ。とりあえず、窓の枠にかけて…、
「行きますよ?受け止めてくださいよ?絶対ですよ?」
「はーい」
嫌な予感しかしねぇ。目を逸らしておこう。
「3-、2-、1-、0!」
腕を離してぽいっとな。
ドグチャァ!
…………………。
「あー。失敗しちゃいましたねー。ハハハ」
音おかしいから。たぶん。人落ちたときそんな音しねぇから!
「あー。落ちてきた人が火事に巻き込まれたー」
白々しい棒読み。そもそも何があったら火事に巻き込まれるんだよ。火事は俺のせいだけど、消してないのは騎士たちの怠慢だぜ。というか、これ、絶対火事なかったら起こしてたろ…。突然騎士さんから声をかけられる。
「矢野様―。犯罪者見失いましたかー?」
「え?はい」
炎の中に。
「あー。では、まだ犯罪者が中にいるかもしれませんねー。一回合流しましょう。」
「あー」から、「ねー」までの棒読み感がすげぇ。
ま、いっか。俺一人ならぶっちゃけ、ここからでも普通に飛び降りられるんだぜ。というわけで、ぴょんと。
「じゃあ、探しますかー」
騎士さんは部屋の中に突撃。一切の迷いなく、階段をスルー。無事な屋敷の人間を実力行使で黙らせて行く。
いちいち、殴る前に、「あー。奥に犯罪者がー」という言いつくろう気もないセリフを言ってから殴るのはあれか。免罪符のつもりか。
そして、やっぱり迷いなく、というかもはやここが目的だよね。という速度で部屋に突入。うん。道中の部屋完全にスルーしたしね! ハハ…。
「あれれー。おっかしーぞー。こんなところに通路があるぞー」
!? いつの間に本棚破壊したの? そして何だその、どっかで聞いたようなセリフは…。そしてそのままのノリで突入。
「隊長!奴隷がいます!」
「何だって!?救出するんだ!矢野様!当主を捕まえてきてください!」
「あ。はい。了解です。
さっきまでのテンションの違いにこっちはドン引きだ。とりあえず、走って3階へ。あ、ここか。
「君ぃ!さっきは何を…。」
とりあえず殴って確保! そして一階へ。
「はい。お疲れ様です。あのですね、実は隣のキマゾール伯爵家に逃げ込んだらしいですよ。捜査しましょう!」
は? え?
「はい。わかりました」
さっき火事に突っ込んだのを見たような気がしたのも、喋っている騎士さんの後ろの新人っぽいメイドさんが震えているように見えるのも、全部気のせいだ。うん。
俺が先頭に立って塀を乗り越え侵入。当然のようにキマゾール伯爵っぽい人が来るので、なぜか俺が事情説明。「こっちもよくわからないんです」と応答していたら、先ほどを彷彿とさせるノリで関係者を捕縛した。今回は、奴隷ではなく、不正の証拠が見つかったらしい。本当にそれ、この家の?
腹黒というより、強引だぜ、これ!
「さて、戻りましょうか」
言われた通り戻る。戻るとラウル様が実にすがすがしい顔をしていた。
「お疲れ様です」
「えっと…、」
「キマゾール伯爵は自業自得ですから」
あ、はい。
「第一ですよ、我々王族が気にくわないからという理由で処断するわけないじゃないですか。暴君でもないのに…」
「そうですね…」
「さて、じゃあ、宮殿に戻りましょうか。兄さんも戻るように指示だしたしね」
ラウル様に引き連れられ宮殿にもどった。
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ガチャ
タクの話がひと段落したと同時にタイミングを読んでいたのかと錯覚するほど完璧なタイミングでメイドさんが入ってきて、ジュースと、軽食を置いていった。
「とりあえず食えよ」
「そうだな…。いただきます」
「いただきます」
あ。美味しい。それにしても…。
「長いな。」
「長いですね…。それに途中必要ないですよね」
「だよねー。タクが頑張ってたのはわかるけど、お前の性格は知ってる…」
「私は習君から聞いてますからね…。それに、イベアでそこそこ一緒にいますから」
「「はぁ…」」
小声で愚痴りあっていても、話すのが楽しかったのか聞いていないようだ。それか、意図的に無視しているか。どっちだろね。どっちにしろ、まだ話が続くのは変わらないわけだけど!
「お前ら仲いいよなー。羨ましい」
ああ。こいつ、聞こえていていじるほうにはしったか。ならば!
「四季。はい。どうぞ」
「え、あ、ありがとうございます。もきゅもきゅ…。美味しいです。習君もどうぞ。はい。あーん」
口に四季が食べていた軽食を運んでくれる。うん。美味しい。同じのだからというツッコミはなしで。
「お。間接キスか。二人ともかじりついていたから唾液ついていたはず…、すなわち!ディープ間接キス!と言っても過言ではないのではなかろうか!?」
ゲフッ。
言われてみれば俺、何してんだろ…。キスなんて、カレンが産まれたときのお風呂の時だけなのに…。
「お前ら…。好きなら慣れろよ…。というか、これくらいの反撃で凹むなよ…。爆発しろ」
「「うるさい(です)」」
「…真っ赤な顔で言われてもねぇ…。ま、続き話すぞ」
真っ赤ということを指摘され、二人ともうつむいたところ、タクはそれを首肯ととったのか、再び長い話を始めだす。