76話 お祭り
回想という名の視点変更有です。
「とりあえず習。お前から話せよ。お前らの方が早いだろ」
「ああ。了解」
かくかくしかじか、やったことを話した。さて、タクの第一声は…?
「お前らさ。新しいことできるようになるきっかけが綿菓子ってどうなの?」
知ってた。そんな反応なのは予想できてた。
「ま、ガロウのことは了解した。あ、そうだ。お前らが連れて行くのはガロウとレイコだけになりそうだ」
「確定?」
「たぶんな。なんだかんだで獣人が10人ほど見つかったらしい。お前らの馬車を拡張したところで、そんなに乗れないだろうからな」
「そんなにいたのか?」
「ああ。どうやったのかは知らないけどな。当然、容疑者は全部お祭りで始末されたけど」
「お祭り。ねぇ…」
「ただの言葉遊びですよねぇ…」
あ、言っちゃったか。全員それがわかっているので苦い顔になる。ま、それでもカレンがいるし…、今はレイコ、ガロウも増えたし…、そのほうがいい。
あれ? あの子らの目の前で粛清って言ったっけ? …たぶん言ってないよね。
「コホン。まぁ、その話は脇に置いておこう。やっぱりなんだかんだでお前らの方がちゃんとあの子らから情報得れてるのな。だから、あの子らの話はカットするぞ。お前らの方が情報量多いし…」
「本当か?何か欠けてることはないか?」
「うーん。ちょっと待て」
タクは部屋の上…。豪華なシャンデリアをじっと見つめると、ポンと手を置いた。
「ああ、レイコちゃん、本気でお前らの子供を狙っているかもしれない」
ああ、うん。そんな気はしてた。こっちもそんな気がしていたから対応があんな感じだったわけだけど…。タクに言われると、ほぼ確定かな。ちゃんと獣人領域でさよなら出来るのか? 今考えても仕方のないことだとはわかってるんだけど…。
「心当たりがおありか」
タクの問いに、俺達は揃って首を縦に振る。タクは顔を軽く引きつらせると、
「ほら、うん。俺でもさ、見込み違いがあるかもしれないじゃん。うん」
と、目を泳がせまくりながら。それはもう、必死に誤魔化してますオーラしか感じられない誤魔化し方をする。ああ、うん。そんな気遣い要らないから。
「コホン。うん。とりあえず、レイコちゃんのくだりをざっくり省略するぞ。レイコちゃんたちが出て行ってから話をするぞ」
タクはわざとらしく咳払いをすると、前置きして話始める。
______
レイコちゃんとガロウが退出する。これで部屋にいるのは、俺と、ルキィ様と、イベア王族4人衆だけだ。
「さて、幼子たちはいなくなったし、さっさと血生臭い話をしようじゃないか」
「幼子…?」
誰かが口を開いた。その言葉は俺達の気持ちを代弁するものだった。
「うん。でもね。ルキィ様とタク君がいるからさ、青年とかだとかぶりそうな気がしたんだよね。って、無駄な話だったね。30字程無駄遣いしたかな?」
「いちいち言うほうが、時間の無駄遣いじゃないですか?」という言葉は喉元まで出てきたけれど、なんとか呑み込んだ。確実に話がそれるだけなのはわかるから。
習とは違うのだよ。習とは! …とはいうものの…あいつも自重しそうだな。
「とりあえず、僕は明日の粛清祭りの招待状書くから…、フランシスカ姉さんは、送るべきやつを明らかにして」
「既にやっておる。いかんせん、コロメニア博物館で捕まった奴らの数が多すぎるのじゃ。重複もかなり発生しておるぞ。実に面倒じゃ。まじめにやるがな」
「ごめんね。任せるよ。ラウル兄さんは…、」
「既に、余罪の洗い出し、博物館にいたやつらの家宅捜索は始めている。門も封鎖した。逃がしはせん。やれるときにやる」
「うん。お願い。ディナン兄さんは?」
「我は…、帰ってきたばっかだからな、ラウルの指示通りに動くことにする」
「了解。じゃ、みんな仕事に戻って。あ、ルキィ様。申し訳ないけど、明日のパーティに参加していただけませんか?」
「はい。構いませんよ。では、打ち合わせをいたしましょう。あ、拓也様。護衛は近衛に任せるので…」
ルキィ様の視線がスッと、ディナン様、ラウル様の方へ。
「ラウル様とディナン様のお手伝いですね。了解しました」
ルキィ様のそばでお顔をみていられないのはのは残念だけど、戦力を持て余すわけにはいかないしな…。
ディナン様、ラウル様の方へかけよって、二人のそばに行くと、お二人はいつの間にかそばに来ていたフランシスカ様も引き連れ、退出。
「タク。お前、ひょっとしなくても、ルキィ様がお前を我らにつかせた理由。わかっているのか?」
「一応。戦力を持て余すわけにはいかない。という点と…、後、近衛を大々的に動かした場合、後に控える粛清祭りのせいで、内政干渉にとられかねない。という点を考慮されたのでしょう。パーティへの参加は…「招待されたら何か始まった」という体でいくのでしょうか?他国の王族の目があればやりやすいでしょうし」
「すごいですね…。大正解です」
ディナン様はポカンと口を開け、ラウル様に褒められた。
「では、何故、お主を動かしたのかは、わかるか?」
試すようにフランシスカ様が問う。
「勇者ですから。俺が独断で動いたことにすればいいのです。それに、俺が動きたいのは事実ですから」
「ルキィ様のためにという下心があるがな!」
ディナン様にバレてるー! ラウル様とフランシスカ様は、くすくすと笑う。くっそう…。
「ま、結果的にオスカルのためになるからな」
「だな」
「そうじゃな」
3人全員が嬉しそうに言う。そこで、ふと思いついた疑問を口にする。
「どうして皆さま、オスカル様をそこまでして支えるのですか?」
「ん?それはな…、我は説明したろ?根本的に王に向いてないんだよ」
「力でごり押しですからね…」
「力も必要じゃが、それだけでは不可能じゃ。妾は、女じゃからな。兄さまがいるのに、差し置いて女王にはなれん」
あー。そんなのあったね。
「女王だと、婿を取らないといけないからですか?」
「それもあるの。一番は妊娠した場合働きにくくなるのが問題なのじゃが」
「後、フランシスカ姉さんも王に向いてないんですよね」
「どういう点が?女性である。という以外にどこに…」
俺が言っている最中に、フランシスカ様は少し寂しそうに腰に付けた天秤を外して、俺に見せてくれた。
「これじゃ。このシャイツァーである天秤が悪い。『真想天秤 ハリヴ』。こいつがの」
天秤は基本的に金色で出来ている。皿の色は、片方は全ての光を反射するような白。方や、全ての光を呑みこむような黒の二色。装飾も豪華で…、ん?
「この天秤…、振れませんよね?支点で固定されていませんか?」
支点となるべき部分が固定されていて回らないように見える。俺の質問にフランシスカ様は頷く。
「そうじゃ。それ故にか、この天秤は厄介なのじゃ。この天秤は妾の気持ちに関わらず、相対するものの言動の真偽を見抜く」
はい?
「それだけじゃない。フランシスカの精神状況にもよるが、相手の心の表層部分を勝手に読み取る」
「え」
「俺達であれば、姉さんも読み取らないことは出来るみたいなんですけど。信用していない相手だとか、気分が悪いときは表層よりも深い部分もわかるみたいですよ」
「それって…」
俺が言葉を紡ぐ前にフランシスカ様が声を出す。
「そうじゃ。妾は逃げたのじゃ。」
「それは仕方のないことでは?」
「皆もそう言ってくれたがな。心の底から言ってくれるのは家族だけ。大抵のやつは、貴族であれば、おべっかは普通。そんな感じじゃ。今はそんなことわかってはいるし、頑張って折り合いはつけたがの。昔は嫌じゃった。いや、言いつくろっても無駄じゃな。無理だったのじゃ。求婚されたところで狙いは王族という身分の妾だけ。わかるか?「貴方が好きです!」という言葉が、「嘘」だと判定されたときの気持ち。そのせいで、さらにそいつの心を読めてしまった時の、あのどうしようもなく、言葉にしようもないあの気持ちが!」
ダン! と足を踏み鳴らしそうなほどの勢い。
「ま、お主に言っても仕方ないがの。すまぬ」
だが、フランシスカ様は、叫んでからわずかに呼吸を整えると、謝罪した。
「いえ。大丈夫です。聞きにくいのですが、一つだけ聞いても?」
「なんじゃ?」
「今、折り合いが付けれているのであれば、王になってもいいのでは?」
「ダメじゃの。折り合いをつけたといってもの、頭の中を優先事項で埋めるという形で解決しているにすぎんのじゃ。だから妾は、基本は法律なのじゃ。法律を作るだけであれば、皆の心がわかるからの、妥協点も探しやすいのじゃ。後、裁判の手伝いもじゃな。じゃが、王は…」
「そこまで言われればわかります。ありがとうございます」
フランシスカ様は笑って、「よいよい」と言ってくれた。
「ま、我としちゃ、フランシスカに犯罪者共の心なんて読んでほしくないがな」
「馬鹿に影響されて、姉さんが荒れても困るしね。オスカルもわかってるでしょ。姉さんに任せきりはダメだって」
相手の感情がわかるとは、どういうものなのか、俺にはわからない。
本のように字を読むだけであれば、感情を無にし、ただ文字を記号として読み取れば、影響は受けにくい。限度はあるだろうけれど。…アークラインの図書館の二人凄かったな。あの量を読むんだしな。グロイのや、嫌なのもあっただろうけれど。影響受けてないように見えた。
それはさておき、もし、ビデオのようなモノであればヤバい。俺でも簡単に想像がつく。
ひょっとすると、ファンタジー的に本当に心の表層に触れて、それが流れ込んでくる。というのかもしれない。その場合、影響は想像できない。
「愛されとるのぅ。妾」
フランシスカ様がポツリとこぼす。
「じゃが、今回だけは、あれを使う。数が多すぎて時間もない。口を割らせるのも難しい。そんな奴らにうってつけのアレを」
「今回だけは仕方ないかな。早さが命だし」
「我はいつも、嫌なんだがな…」
「あれとは?」
「一日一回だけ、範囲内の人間、もしくはそれに類するもの…、そいつらの心を全てをフランシスカの目の前に曝け出す、フランシスカの奥義ともいえるものだ」
忌々しそうにディナン様が言い、
「溢れんばかりのその心の中から必要な情報だけを素早く抜き出す。姉さんはすごいでしょう?」
ラウル様が続けた。
「その名も、『真想天秤』。兄さまの反応からわかるじゃろうが…、使いたくないものじゃ。出来れば使いたくない。見たくないものまで見なければならないからの…」
フランシスカ様は弱気なことを言う。だが、その瞳は固く決意した目だ。
「で、俺なんですけど」
え、今ですか? ラウル様。確かに聞こうと思いましたけど、今ですか?
「今じゃないとダメなのです。俺はオスカルと違って、簡潔に言うと、人間味が少し欠けているんですよ。だから、王になれない」
それで今。ね。タイミングを読めてない。それが証左か。
「わかっていただけましたか」
「笑えませんがね」
「でしょうね」
「腹黒眼鏡は、こいつのこの性格を端的に表しているといえるだろ?」
「だから兄さん。俺の眼鏡は本体じゃない!」
ついでに、ラウル様の人間味を醸し出す役目も果たしていますね。俺がそんな目でディナン様とフランシスカ様を見ると、二人とも笑って頷いた。
「こいつ、家族に対しては人間味あるんだがな」
「時たま、覗かすのじゃ。先ほど、兄さまが止めたのに、ラウルは止めんかったじゃろう?効率重視なのじゃ。ああ、でも、命にかかわる場合は、命を重視してくれるがの。妾達は」
ぼろくそに言われているにもかかわらず、ラウル様は笑うだけ。それどころか、
「仕方ない。それが俺ですから。実は、お祭りにアイリ様、レイコ様、ガロウ様を参加させようかな?と考えましたから」
「おい。馬鹿。やめろ」「絶対やめてください」
「考えました。って、言ってるじゃないですか」
笑いながら言うラウル様。笑い事じゃないから。
お祭りにアイリとか、瞬間核融合炉待ったなしだぞ。ガロウとレイコも、父母呼びしてるから、特大地雷化している可能性がある。
「やめた理由が「あ、でも、これで釣れるような馬鹿だと、他の方法の方が早いな」ですから。アイリ様を見て、「エルモンツィ!?」からの罵詈雑言。もしくは、両獣人を見て、「汚らわしい獣人め!以下略!」とか言う人、絶対他の罠でも引っかかりますよね」
ハッハッハ。と笑うラウル様。
……。習や、清水さんに似てるような気がする。大切なモノ──あいつらは家族──のために手段を選ばないところが。
「ま、お祭りでは、俺も本気を出しますよ」
「当然じゃ。妾が本気を出すのじゃからな」
「お二人ともかなりやる気ですし…、ディナン様も、「止めたいけど、止められない」という顔をされているのはなぜですか?」
俺の質問に3人はそろって顔を見合わせて、
「「「オスカルのため」」」
と、かなり真面目な顔で声を揃え言った。
「我達の代わりに色々してくれているあいつの」
「ひいては、妾達のため」
「そして、僕たち3人がシャイツァー持ちのせいで、肩身の狭い思いをしているはずなのに、そんなそぶりを見せずに頑張る弟への贖罪です」
3人の目は、複雑な感情を湛えていた。だが、共通項はある。今回の粛清で敵は全て潰す。この一点だ。
ん?
「オスカル様、シャイツァーないんですか?」
「そうだぞ」
「たぶん妾のせいじゃな。苦労しているところを見せていたからのぅ…」
「姉さんが悪いなら俺もだね。わりと貴族に俺、叩かれたし。逆に粉砕したけど…、オスカルは嫌だったろ。確実に」
「我のもいいとは言い難いしなぁ…」
「そもそも、大憲章自体が、俺らのシャイツァーを勝手に使えないように縛っていたのを拡大解釈したもんだしね。俺の地形把握とか、姉さんの『真想天秤』筆頭に。抜け道あるけど」
ふぁ!? と思ったのとほぼ同時に、目的の分岐に着いた。
「じゃ、またあとで。パーティで会おう」
「ああ。またなフランシスカ」
「じゃ、また。姉さん」
「また、後で」
言葉を交わし、別れた。
_____
「ちょっと待ってくれ」
タクはそう言うと、お茶を飲む。
俺らももらおう。案の定長い。確かに、あの人たちの人となりを知るうえでは大切だったけど。
「ちょ」
「ほい。清水さんもどうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
頂戴。と言い切る前に出された…。付き合い長いからか、傾向把握されているのかねぇ…。ま、もらおう。あ、美味しい。
「ところでさ、万が一、ラウル様がアイリちゃんや、レイコちゃん、ガロウを使って罠作ったらどう思う?」
「ん?ああ、回想の中で出てたやつか?本人がやりたいって言うなら本人の意思に沿うけど?」
「当然、引き受けることで生じるかもしれないあれこれも説明しますけど」
タクは、へぇ~。という顔をする。こいつ…。どんなふうに思ってやがる。あ、瞬間核融合炉とか言ってやがりましたね!
「…聞くまでもないけど、万一、無理やりやらせようとした場合は?」
「ハハ。本当に聞くまでもないな」
「ですよね!」
「「口にしたことを後悔させてやるよ」」
「知ってた。とりあえず、座れ。それと、その見てるだけで俺以外だと正気を失いそうな
極悪な顔をやめなさい。後、溢れ出てきている魔力も」
いつの間に立ってたのやら。あと、注意点多いなおい。
「ふぅ、怖かった。なんで俺わざわざ地雷踏んだんだろう?というか、やっぱりあれだな。うん。清水さんも増えて迫力が2倍になってるぜ。…あれ?下手したら2倍じゃきかないかもしんない」
ぶつぶつなんか言ってる。
「ねぇ、タクさん何言っているんです?」
「別に聞かなくてもいいよ。たまにある独り言タイムだから」
「そうですか…。では、気にしないことにしますね」
「それでいいよ」
「いや、ちょっとは気にしろ。災害起こすな。いや、今回は俺が起こしたけど」
ポリポリと頭を掻くタク。大切な人のために起こるのは大切だと思う。だから反省はしない。
「それより、続きを。まだまだあるんだろ?」
「そうですよ。聞かせてもらっているのに悪いですけれど、そろそろ眠いです」
「俺だって眠いわ!」
徹夜だったっけ? タクなら大丈夫。3徹はいける。前にそう言ってたろ。
俺は徹夜などしたことないけど。
「ああ、もういいや。うん。じゃ、続きな」
タクは再び口を開く。