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白黒神の勇者召喚陣  作者: 三価種
3章 イベア
79/306

72話 ベンジスクート

 何だあれは…。



 黒い謎の生き物が下からふわふわとさまよい出てきた。それはカネリアがあれほど嫌悪していたチヌカ特有のいつものアレ。つまり、瘴気が見える。形も定まってない。



「『ベンジクスート』…」


 思わず漏れたというような声に誘われ、振り返ると気絶していた狐の女の子が立っていた。



「情報を」

「セン。情報をいただいた後、貴方が避難させてください」

「ブルルッ!」


 「了解」というように鳴くセン。俺達の視線が女の子に集まる。女の子は身じろぎしたが、すぐに口を開いてくれた。



「あれは、『ベンジスクリート』と名付けられた魔物でございます。」

「魔物?」

「はい。ベンジスクリートは、『イサクコモン』という術で生まれる魔物だそうです。かつて、チヌリトリカが戯れに魔物を混ぜて新たな魔物を作った…と言われております」

「その魔物って、死体限定か?」

「我らにはそう伝わっております。正確には、魂でございますが…」


 それが何か? と首をかしげる女の子。かわいらしいが、察しが悪い…。



「あ、もしかして…、助けてくれた方も混じってらっしゃいますか?」


 ……。認識が違いすぎる。あいつは貴方の事、助けてないから…。



「色々訂正したいが…、重要な一点だけ。元凶がそいつだ」

「っ…。そうでございますか…。では、申し訳ございません。わたくしの知識ではお役に立てそうにもございません」

「了解です。何はともあれありがとうございます。セン」

「ブルルルッ!」

「ご武運を!」


 女の子が馬車の上で叫ぶと、その姿はあっという間に小さくなった。



「不確定情報でも、もらっておくべきだったか?」

「いえ、いつ動き出すかわからない以上、それでよかったでしょう。例外だらけであるのであれば、倒し方に固執すると致命傷に成り得ますし…」

「そうだよな。目下の問題は…」

「…どうやってあれを倒すか。だよね?」

「ああ。そもそもぶん殴っていいものなのか?」

「とりあえず、「聖弾」撃ってみればー?」


 元が死にかけの人間とたぶん魂だものな。やってみるか…。



「「『『聖弾』』」」


 光の弾が直撃し、光がはじけ飛ぶ。効いて……あ、ダメだ。イサクコモンだったか? それが『聖弾』が直撃して、消えようとしている魂が消滅するのを妨害しやがった。



「まず『イサクコモン』とかいう術の名残を破壊しないとダメか?」

「…どうだろ?てぃ!」

「とー!」


 アイリが鎌を投げ、カレンが矢を発射する。おい!



「…ダメだね」

「ねー」


 鎌で切り離された部分は、消える前に強引にベルトのようなもので、再びくっつけられた。矢が刺さったところは、そこにも命があったのだろうが…、ベルトが握りつぶしてくっつけた。



「…ねぇ、そもそも何であいつ、チヌリトリカの魔法なんて使えたの?」

「知ってれば、誰でも使えるらしい」

「発動に必要なのは大量の瘴気。それと、確かな魔法の腕らしいですから」

「アークライン神聖国の禁書に書いてあった」


 さすがに詳細はわからないのか、名前とか内容が細かに書かれていたわけではないけれど。



「知っておけば対策できますからね、普通の感性をしていればどれも使おうとは思いませんが」


 使った本人に害しかないのだから。



 ただ、条件がそろってしまった。カネリアが魔法を知っていて、かつ、操れる技量があった。さらにカネリアは壊れていて、奴の所業のせいで瘴気も十分量あった。



 その結果、イサクコモンなどという魔法に手を出した。効果は不明だが……見た感じ、あの場すべての命を纏め、新たな生命体とした。そんな感じか。



 …ん? その場合、あいつの行動原理って何だ?



 四季もその考えに至ったのか、同時にベンジクスートを見る。



 汗がツーっと頬を流れ落ちた。



 ベンジスクートの体中に人間、ネズミ、イノシシ…、そのほか諸々の口が大量にできる。



「殺す。ころす!コロス!この世の全てヲ!」


 世界中に宣言するかのように、凄まじいまでの音圧と金切り声でそう告げた。



 耳が…! とりあえず『回復』! よし、大丈夫。



 体中から腕が生え、こちらを殴ってくる。数もだが、種類も多い! 人間に、ゴブリン…、それにオークや、ゴーレムらしきものまである。全部、あの中にあったやつなんだろう。



 感傷に浸る暇はなし。右、左。後ろ、ペンを投げて妨害。四季に接近する腕を、剣で切り落とし、『聖弾』。よし、消えた! っ、こっちにも腕が…!



「『壁』!」

「ナイス!」


 四季が作ってくれた壁に阻まれているうちに斬り払う。アイリがそれを真っ二つに…、する前にやはり黒いベルトのようなものが無理やり体にくっつけた。くっつけられると、ダメージにならなさそうだ。



「ノサインカッシェラに似てますね…」

「腕が増える点だけじゃないか?」


 四季はチラッと、ベンジスクートの方を見る。蛇のような口が胴体に出来ていて、そこから威圧するように火とともに、顔を顰めたくなるような音を立てる。



「ですね」


 あっちのほうがまだ生物として真っ当だ。不快な音を垂れ流したりしなかった。



 こっちは腕以外の色々も変なところに作れる。作れるモノは吸収した生き物だけなんだろうが、それがまた胸糞悪い。



「こいつら、面倒。先に弱いの」


 羽!? ベンジスクリートの背中? に蠅のような羽が。なるほど、俺達を無視しようというのか。倒せそうなやつをみすみす見逃す気はない!



「「『『ロックランス』』」」

「てぃ!」

「てりゃー!」


 全員の攻撃が右の羽に殺到する。ベンジスクリートは、何をトチ狂ったのか、俺達が攻撃をしてこないとでも思っていたようで、露払いのつもりでつけた『ロックランス』だけを叩き落とした。



 が、俺達の本命、巨大な槍は叩き落せず直撃。ど真ん中に大穴を開ける。そして、カレンの矢が何本も羽の付け根を直撃し羽を切断。最後にアイリの投げた鎌が、羽を吸収しようとしたベルトを切断し、そのまま『死神の鎌』を使って、諦めの悪いベルトとともに羽を斬り刻んだ。



「邪魔をスルナぁ!」


 体中にいくつも目が出現し、こちらを見る。



 …どうやら先ほどまで敵だと思われてなかったようだ。ベルトを削ったおかげで敵認定されたのだろう。



 先ほどまでのはただの挨拶と言わんばかりに攻撃が激しくなった。



 突然胸から人間の足が生えて蹴ってくる、目 (実は目の位置に口があるだけ)から、火を吐くのはまだマシ。距離があるから。



 突然、腕に口が出来て噛みつき、毒を吐く。または、腕から腕が生え、それから再び腕、足等々…、滅茶苦茶。



 幸い、一撃の威力はない。毒はくらっても、即死するわけではない。少し動きが鈍る程度。



 ゴブリンの足らしきものを斬り落とした時の感触的にオリジナルより強度などは落ちているはず。そうでなければ、カレンが弓や、矢でしのげない。



 なんて考えたのが悪かったのか、しのぎ切れずに、腕がカレンに掠った。



「あっ!いっだぁ゛い゛!痛いよこれ!」

「『回復』」

「『回復』」


 あっ、重なった。戦闘中だというのに生暖かい視線がアイリから注がれる。



「でい!まだっ!残ってるみたいっ!だな!」

「ですねっと!気をつけましょ!う!」


誤魔化すように攻撃をいなしながら叫んだ。「気をつける」という言葉には「二重掛けをしないように」と、「攻撃に」という二つの言葉がかかっている。



 それがおかしいのか、アイリは確実に攻撃を薙ぎ払い、時には逆撃を加えながら攻撃をいなす。ベルトのせいでダメージにはなっていなさそうだ。ということは、先ほどの羽を破壊した状況。あれを再現すればよさげか?



「カレン!一点突破!」

「りょーかい!」


 一人が連続で同じ場所を殴る。この点において、俺らの中でカレンの右に出るものはいない。



 俺の声を受けたカレンは、先ほどと同様、非常識と言いたくなるような成果を上げた。

同時に放たれた5本の矢は、狙い違わず完全に同じ場所に命中。消えようとする魂を妨害せんとするベルトに直撃し、穴をあけた。だが、それだけだ。



 あいつ、矢がまだ飛んできていることを察して動きやがらなかった…!



「でも、行動は!間違って!なさそうです!よ!」

「だな!」


 ガツンとやるか、ちまちま削るか、そこが問題だ。って、また羽!



「「『『ウインドカッター』』」」

「…やらせない!」

「よーだ!」


 風の刃は全部、撃墜された。だが、矢は届いた!再び矢がガスガスと羽の付け根に命中。落とすまでには至らなかったが、アイリの投げた鎌がとどめを刺した。



 羽を急いで回収しようとするベルトを、高速回転する鎌が、羽もろとも粉々に粉砕し、消滅させた。



「オノレェ!二度も…!」


 学習しないお前が悪い! されても困るけど! ……って、今度は竜のような羽。強度は前とは比べ物にならなさそうだ。ならば…!



「「『『ロックバレット』』」」


 言葉とともに紙が消滅。紙から、大量の岩の弾が飛び出し、ベンジスクートの体を滅多打ちにし、羽はボロボロになる。



 切断できなくとも、破壊した羽の破片を回収できなくすればいい! はじめのころは回収しようとベルトが動いていたが、途中から諦めたようでされるがまま。



 不快な音に混じって、黒板をひっかくような不協和音を上げる。今のうちに一気にたたむ!



 カレンが矢を連射し、アイリが大きくした鎌を振るい上下に切り裂く。



 さすがに形が定まっていないとはいえ、体が分断されるのは羽とは勝手が違うようで、強硬にベルトで接続しようとするが、俺達がそこを殴る!



「「『『ファイヤーボール』』」」


 火球がベルトに直撃、アイリもカレンも俺たちに続……って、何で吹っ飛んだ!?



「…あいつわたしの攻撃に合わせて自分を殴ってたよ」


 マジかよ。だが、目で見てわかるほどに大きさが小さくなった。



「ヌヌ…、貴様ラ…。体の補給ヲ…」


 最後は小声だったが、何故か不思議と耳に残った。ベンジスクートは、猛然と砂漠を駆け出す。俺達は即座に追いかける。



「ナゼッ!グッ!」


 聞こえてたからな。他に犠牲者なんて出させんよ。



 すぐさま追いつき、各々の武器で手足を切断する。わずかに遅れてベルトが出てくるが、速攻で斬りつける。



 体から足などを生やしてくる懸念があったから、いつでも退避できるようにしていたが、杞憂だったらしい。だからこそ、補給にはしったといえるか。



 何度も同じところを攻撃。ついに「パキン!」という音が鳴った。今ので、アレも尽きたらしい。



 なら、これでトドメだ。アイリが鎌を振り上げ…、振り下ろす。だが、ベンジスクートは丸い球体になると、フッと高速移動。回避した。しぶとい…!



「もはや、どうしようもねぇだろ…」

「ですよね、『イサクコモン』でしたっけ?あれも破壊したはずなんですが…」


 何があいつを駆り立てるんでしょうね? 四季はそう続けそうだったが、それを遮ったものがいた。ベンジスクート本人だ。



「イキタイ…、今度コソ…、アネリと二人…!」


 それは独白。ベンジスクートの、もとはカネリアだったもの。偏見に晒され、乏しめられた愛し合ったものの片割れの。独白だ。



 気の毒ではあるが…、あの地獄を作ったのはこいつ。生かしておくわけにはいかない。紙を探そうとすると、四季に手を取られた。よし。



「「『『聖弾』』」」


 あいつの独白的に、アネリさんは確実に混じっている。だろうからこその選択だ。



 だが、これも避ける。往生際の悪い…!



 アイリとカレンはなぜか何も言わないし、俺達を見ているだけ。任せる。ということだろうか?



 連射だ。連射。この紙を使い切る勢いで!



「時折、白く発光して、動きが鈍ることがありますが…!」

「当たらない!」


 掠るだけでは意味がない! 直撃でなければ…!



「書くか」

「では、字はお任せします。私はやれるだけやってみますよ」

「ありがとう。頼む」


 言いたいことを察してくれた。本当にありがたい。名前は…、『ホーリーミサイル』でいいか。ミサイルの語源は「送り届ける」だとか。ちょうどいいだろ。名前のセンスは今更だ。



 四季が一人で逃すまいと頑張ってくれている。急がなければ。



 この状況でも、聖魔法に拘るのは言うまでもなくやはりアネリさんがいるっぽいから。というより、もはや、アネリさんとカネリアぐらいしかベンジスクートは魂を持っていないんじゃないだろうか?



 さらさらと字を書く。あれ? なんでかいつもより書きやすい。



「できたよ」


 声をかけると、四季は紙の字を一瞥。いつものように俺の手を取る。



「「『『ホーリーミサイル』』」」


 合図などせずとも、声は揃う。紙が消えるとともに、一本の光のミサイルが音もたてずに飛翔する。ベンジスクートはそれを見てか、上に移動。回避する。が、それは追尾式だ。

くるりと回って再び狙う。



 しばらくの間、その場でグルグル。上へ下へ。右左。これでもダメならとでもいうかのように砂の下。今更だな。



 だが、無駄だ。それは魔力ある限りどこまでも追い続ける。見ているだけでは暇だ。追撃を。



「「『『聖弾』』」」


 ミサイルに当てないようにだけ注意して、発射! 再び、白くなり動きを止めたが、掠っただけで避けた。「やったか!?」すら言う余地がない。



 うんざりしつつも、『聖弾』を放ち続ける。掠る頻度、白くなって止まる頻度。ともに上がるが、直撃弾が出ない。ちゃんと先読みとかもしているのに…。



 当然、ミサイルも当たらない。…俺がミサイルは噴射で進むものという認識があるからか? 向き変更、特に折り返しで多大なロスが出ている。



「あっ、紙が…」


 使いすぎたか…。何という執念だ。



「使いさし(かけ)で構いませんか?」

「ナゼ!私ハ!イキタカッタダケナノニ!」

「やっぱり、新しいのにしましょう」

「だな」


 四季がゴソゴソとファイルを漁る。



「「うげっ」」


 背中に衝撃を受けて倒れこむ。何だ!? と声を上げる前に、



「…お父さん」

「おかーさん」

「「落ち着いて」」


 娘の声。若干だが、震えている。



「…二人はあいつとは違う。」

「そうだよー。おとーさんも、おかーさんもお互いが好きすぎるけどねー」

「…それでも、ちゃんと超えちゃいけない一線はわきまえる」


 ……………。どうやら血が上りすぎていたようだ。それを自覚した途端、疲れがドッと押し寄せてきた。



 紙に抵抗なく書けたのは、単に四季の魔力を超える魔力でねじ伏せていただけか…。



「歳によるけどー、同じ日に死にそうだよねー」


 自殺か? 俺はする気ないが…。茶化されているだけだと思っておこう。



 まだ不安なのか、俺も四季も二人に乗られたままだが、ベンジスクートを見る。かなり白の比率が増えているがそれでも回避し続ける。



 …あれを見てもう一回暴発しないか心配されているのだろう。どこか俺たちの在り方に似ている気がしたから。



 あ、ついにミサイルが掠った。一部が剥がれ落ち、消えた。直撃すれば終わる。



「イヤダいやだ嫌だいやだイヤダ嫌だイヤダいやだ嫌だ」


 壊れたラジカセのように同じ言葉ばかり繰り返す。



 そして、まだ往生際悪くかすりながらも避け続ける。だが、終わりは突然だった。ミサイルがかすって、ポロリと黒いモノが剥がれ落ちると、ベンジスクートは完全に白になったまま黒に戻らなくなり、ミサイルが直撃した。



 閃光が炸裂する。その中に、アイリに雰囲気だけ似た二十歳程の女性が、優しくボロボロの年老いた男性を膝枕している光景を見た…気がする。



 さて、まずはきちんと弔いをしないと。カネリア。罰はあちらで受けると良い。魂や神様がいるんだ。地獄もあるだろう。

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